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 東京の大都会をセーラー服の少女が駆ける。

 左手には服装には似つかわしくない日本刀を持ち、襟元には赤いバッチが太陽で輝きを放っていた。

 長い黒髪が靡き、黒髪同様、黒い眼帯が左目を覆っていた。

 高校に向かう為、綺麗に着こなして来たのだが、全速力で走っているので全身からは汗が吹き出し、制服が汗ばんでいた。

 「ああ...最悪!」

 走りながら少女は苛立つ。

 朝、好きな特撮ヒーロー物がTVで再放送されていたのを録画していたにも関わらず、少しばかり観てしまって、高校に遅れそうになったとしてもこんなに汗をかく必要がなかった。

 偶然、通学路でひったくりの現場に遭遇してしまったからだった。

 自分の正義感が行動に写り、こうして犯人を追いかけていた。

 名前は大杉 奏。

 奏は近年、創設された部署の刑事だった。

 「待て!」

 そう言っても、犯人は走る事を止めない。このままでは二次被害が起こり、民間人に

危害が及ぶかも知れない。

 奏はスカートのポケットからスマホを取り出し、走りながら電話をかけた。

 

 車を運転する藤堂が後部座席の武藤に話しかけた。

 「ああ、そうそう自己紹介がまだだったね?武藤君が配属される零式対策課、通称零課の課長、つまり上司になる藤堂 忠勝と言います。一応君と同じ西日本から来た人間だから気兼ねなく話しかけてね」

 「では藤堂課長、ご質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「堅苦しいね、武藤君。まぁいいか、なんだい?」 

 「零課とは如何なる任務をする部署でありますか?」

 「君たちも西日本から来たから知っているかもしれないが、西日本は軍事産業が盛んで、零式を投与された兵士が数多く輩出され、今や世界最強の軍事国家となっている。しかしその反面、軍事産業に力を入れている結果、農作物や経済は枯渇の一途を辿っている。」

 「その事はご存知です。だから西日本に住む人々は飢えや病気で死ぬ人が多く、自由を求める為に東日本に移住する者も後を立たない。勿論、そのなかには無断で移住する者が数多くいると聞きます」

 「移住者の中には零式を投与された元兵士もいる。そいつらが東日本で犯罪を行っている者が要る。だから僕達、零課が犯罪を取り締まるもとで発足されたんだよ。もっともそんな事になった理由のひとつに、西日本で裕福な生活を送っているのが政府高官か、軍人で名の知れた者しかいない。政府高官の後には、高官のボンボンが継承したり、軍人も軍人で、血の滲むような訓練を耐えなければならない。」

 「...」

 「あ、すまない。君には辛い事を思いだせたね。この話しはもうやめようか?」

 急に黙りだし、新平が考え込む姿を察した藤堂は焦る顔になり、優しく話しかけた。 

 「武藤君のやったことは間違えてないと思っているよ」

 「そう思っています。別に自分の意思でやったことですので...」

 その言葉に藤堂の顔はまた笑顔に戻る。

 「やっぱり君を選んで正解だったよ」

 藤堂はぼそりと一人言だが、力強く言った。 

 「えっ...」 

 「いや、あの子も君の事が気に入ると思ってね」

 そんな話しの最中、藤堂の方から機械的な音が聞こえてきた。

 「ちょっとごめんね」

 藤堂はそう言うと、胸ポケットからスマホを取り出した。


 スマホの呼び出し音一つが遅く感じる。

 眼帯が汗で蒸れてきていた。 

 「ああ、もう邪魔!」

 左目の眼帯を外し、電話を取るのを走りながら待つ。

 三回目くらいの着信音の後、電話の相手と通話できた。

 「もしもし、何だ、大杉君かい、今日は説明会だったんじゃないのかい?」

 電話の相手が三回目位のコール音でようやく出てくれた。

 「大変です、事件です!課長、今どちらにおられますか?」

 確か課長は新しく配属される人を迎えに東京軍事基地に行っている。

 だから帰り道は私がいるこの辺りを移動しているはず。

 課長が答える前に緊張が募っていた。

 「今かい、確かここは新町3丁目だったかな?」

 「ホントですか!」

 思わず声を荒げてしまう。

 走りながら辺りを見渡す。

 「今、新町二丁目の新町商店街を西から移動しています。課長、東の入口から犯人を挟み撃ちをお願いします」

 その直後、逃げる犯人がとあるビルへと入っていった。

 

 「大変な事になったよ」

 藤堂はダッシュボードから赤色のサイレンを取り出すと、車の上部につけ、車の速度をあげた。

 「どうかしたんですか?」

 けたたましくなるサイレンがなる車中で新平は藤堂に訪ねた。

 「今、話している大杉君から電話で犯人を追跡中だから手伝ってくれと言われたんだよ」

 「場所は?」

 「この先をちょっと行ったところの商店街らしいんだけど、あの道は車では移動出来ないから足で動かないと行けないのだけど...僕は足が悪いからどうしようか...」

 困っている表情の藤堂に新平は意を決する。

 「藤堂課長、自分が向かいましょうか?」 

 「いいのかい?いってもらえたら有り難いけど...」

 まだこの東京についたばかりの新平に事件に巻き込ませるのは酷だと思った藤堂の言葉だった。

 「構いませんよ、自分はもう既に東の人間。任務を遂行しますよ」

 「じゃあ頼むよ。あともう少しでつくから」

 藤堂は新平にスマホを手渡す。

 「これで『あの子』と連絡できる。指示は『あの子』に従ってくれるかい」

 「あの子?」

 「僕達、零課に在籍している16才の女の子。名前は大杉 奏君。彼女の父親はあの『大杉 大地』だ」

 「大杉 大地ってあの『天狼』と言われた四天王の一人で?」

 四天王とは先の戦争で日本が勝利した時、無双の如く活躍した者達であった。大杉 大地は四天王の筆頭格であり、英雄として今なお神格化されていた。

 「そう、そして彼女は大杉 大地の能力、『天眼』を扱う事ができる」

 「『天眼』とは一体...?」

 そんな話しの最中、車が停止した。

 「さ、着いたよ。これで奏君と連絡しあって」

 そう言うと藤堂はスマホを新平に手渡した。

 「分かりました」

 新平は車から出ようとしたら、藤堂は話しかけた。

 「武藤君、奏君の指示に従ってくれるかい。彼女は全てを見渡す事ができる。彼女の指示は的確で間違いではないから」

 「それが『天眼』の能力ってやつですか?」

 「そう、日本を救った英雄の能力だよ」

 藤堂は笑みを浮かべていた。

 「分かりました」

 新平はそう言うと商店街を駆けていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

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