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東日本の首都、東京。
街並みは昼夜問わず賑わいを見せている。
天に昇る超高層ビルは無数に広がり、四車線の国道には、車が絶え間なく走る。
その街を蟻の様にせわしなく人が歩いている。
その大都市の治安を守るのが、西日本東京軍事基地であった。
警察の様に犯人逮捕が目的ではなく、犯人を無力化する事が信条の東京軍事基地の兵員は20名ばかりではあったが、西日本から選りすぐりの兵士が選ばれていた。
そのエリート集団を一手に束ねているのが、北見 麗華三佐であった。
十年前、他国から攻め込まれた時、英雄と評された若き女帝である。
そして、北見三佐の隊長室に一人の少年が尋ねてきた。
「武藤 新平、只今到着致しました」
一礼をしながら新平は、机に肘をつけながら睨む北見 麗華に話す。
「お久しぶりです、教官。教官の訓練は、まさに地獄の様なまいに・・・」
「ここに行きついた道中までの簡単な報告をせよ」
昔ばなしをしようとした新平だったが、それを言葉で北見 麗華は遮断した。
その行動に新平は、北見 麗華とは他人の事などには興味がなく、任務遂行、規律、勝利を信条とする将であることを思い出す。
そして認識すると、言われた様に報告を開始する。
「・・・四月一日午前九時、大阪軍事基地を出発。徒歩にて四月五日午後五時、岐阜県に到着。大阪から岐阜県の道中、山道を歩いている最中、強盗と思われる者から三度襲われましたが、これらを撃退。その後、岐阜県から東京までを新幹線で移動。そして四月六日、集合時間の九時より十分早い、八時五十分、ここ東京軍事基地に到着いたしました」
「よろしい」
そう言うと北見 麗華は立ち上がり、新平の前へと歩み寄ると、懐から紙を取り出した。
「現在、時刻は九時を回った。これより西日本軍法会議に則り、武藤 新平の刑罰の変更を伝える。貴様はこれより西日本大阪軍事基地所属の任を解き、警視庁零式対策課の配置異動を命ずる。何か質問はあるか?」
「自分はこれより西日本の人間から東日本の人間になったと?」
「そういう事だ。貴様は本来、軍法違反を犯し、死刑だったはずだが、貴様の能力を高く評価していた軍上層部は、東日本は金銭を贈るという形で貴様を買い取った」
それを聞いた新平は、死ぬという事から逃れられた安堵感など感じなかった。
何故ならば、自分が犯した罪は、到底罪とは思えなかったからだ。
自分がやったことが赦されない社会など生きていてもどうでもいい世界だと思っていたからだ。
「貴様が配属される警視庁零式対策課の詳しい業務内容は、別室で待機している同じ課の上司に質問する様に」
「了解いたしました」
「 質問は以上だな。ではこれよ・・・」
北見 麗香の話しの途中ノックが聞こえてきた。
「誰だ?」
北見 麗華がドアの向こうに声をかけると、扉が開いた。
「話しの最中に割って入るみたいで申し訳ないね」
扉を開けたその男は、中年の男性で、目立つ部分は右足が不自由らしく、右手には鉄製の長棒で足をかばうように入ってきた。
「隣の部屋で待機しておけといったはずだ、藤堂!」
いつも冷静沈着な北見 麗華が珍しく声を荒げた。
「いや、そんなにガミガミと怒りなさるな、北見隊長」
怒声を浴びせられているはずだが、藤堂と呼ばれた男は表情を崩さない。
「・・・何か用か?」
一呼吸し、北見 麗香は平静を保とうとする。
「これから署の方で書類など書いて貰わんと歓迎会が間に合わなくなってしまうんだよ」
「舐めているのか、貴様」
「舐めておらんよ、大マジだよ」
怒りがまた込み上げている北見に藤堂と呼ばれる男は軽くいなしている。
「教官、この方は?」
「武藤、その御老体は警視庁零式対策課の課長、藤堂 忠勝。つまり貴様がこれから世話になる上司だ」
この人が...。新平は、藤堂 忠勝の顔を凝視した。
「宜しく頼むよ」
藤堂は、シワが多い顔で笑顔をみせるや、
「もういいかね、北見隊長」
「早く消えろ」
「じゃあ行こうか、武藤君」
「は、はい。では失礼します、教官」
「待て、武藤」
藤堂の後に続いて部屋を出ようとしたら北見 麗華に呼び止められた。
「何か?」
「これだけは覚えておけ。一回目は軍法違反、二度目は無いと思え」
「...肝に銘じておきます」
異様な殺気が漂っている北見 麗華が見つめる中、武藤は部屋を後にした。
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