第7話 エピローグ、そして新たなフラグ

あとは実に簡単に、雑魚キャラ宇宙人たちは蹴られたラグビーボールのごとくお空かなたへ飛ばされた。やがて粒となり、見えなくなったとき、群集からはワッとはじけんばかりの歓声が校庭に響き渡る。


正義のヒーローの輝かしい勝利の瞬間だった。


「ライジングサンダー!!」

一番の歓声を上げて走り寄ってきたのは、八王子だった。

「感謝です!!おれたちの学校を守ってくれて・・・本当にありがとうございます!!」

八王子は細い腕でたくましい咲桜里の掌を掴み涙ぐむ。

そりゃあそうだ。こいつにとっては憧れの人が自分たちのピンチを助けてくれたのだから。まるで映画やアニメの世界に迷い込んだように。

「きみたちのように罪のない人を守るのがヒーローだ」

おお、好きな異性に手を握られても動じない。これがヒーロースキルか。さすがだ、妹よ。

「おっおれ、あなたのように強い漢になりたくって・・・!!」

八王子なんて感激でしどろもどろになっているってのに。

「強さは、いつだって自分自身のなかにあるのさ。それを見つけるんだ、八王子くん」

八王子は目を丸くし、そしてボロボロと泣き始めた。歓喜極まってしまったようだ。

「生涯の格言にします・・・、ありがとうございます!!もうおれ一生あなたのファンです・・・!!」

鼻水と涙をぬぐう袖で拭う八王子に、正直王子の欠片も見当たらない。


「ライジングサンダー様!!」

そういって駆け寄ってきたのは、ピンキーパインだった。

「きみ、怪我は」

「心配ありません!!」

彼女の目もまたキラキラと輝いている。この眼もしかして・・・

「やはり、あなたはヒーローのなかのヒーロー!!頑張ってこの学校に通ったかいがあります!!」

この子供のような目は、八王子の目と同じだ。

「ぜひあたしを弟子にしてください!!」

わあお。

猛烈アプローチにおれは胸中でそっと外国人風のリアクションをする。

憧れの人に会うために転校するって、この人も八王子と張れるくらい熱烈なファンなんだ。

「ピンキーパイン、きみの申し出は光栄だ」

そして咲桜里はヒーロースキルを惜しむことなく使って、冷静に落ち着いてピンキーパインを諭す。

「きみはおれから見ても充分強い。きみにはきみなりのヒーロー道を貫いて欲しい。それは私が教えられるものではない。自分で見つけねばならないのだ」

ライジングサンダーが素顔を隠し、ピンキーパインが惜しむことなくアイドルのような顔をさらすように。

「そして申し訳ないが、妹分の疲労が心配なので失礼する。さらばだ、また会おう」

咲桜里はおれをするりと抱え、足の筋力を極限に伸ばし、バネのごとく跳び去った。


「おい、咲桜里」

「お兄ちゃん、疲れているでしょ」

そう指摘されようやくおれは自分の疲労を自覚する。

気力的にも体力的にも疲れたのだろう。おれは妹の腕のなかで気を失った。




目覚めたとき、おれの目にまっすぐ飛び込んできたのは涙ぐみながら顔をくしゃくしゃにした聖母であった。


「白ヶ峰さん・・・」

「よかった、比呂くん・・・。目が覚めて・・・」


そっと手の甲で涙を拭う彼女に、おれは良心が痛むのを感じた。

「比呂くん、宇宙人に撲られてそのまま動かなくなっちゃって・・・わたしパニックになって・・・」

どうやらおれがスタードロップであることはばれてないようだ。セーフ・・・。

おれはこっそりため息をついた。

「比呂くん、ありがとう」

「助けたのは、ライジングサンダーとスタードロップだろう?」

「ううん、わたしのヒーローは比呂くんだわ」

彼女はそういって白魚のような指に挟んだ紙をわたす。どうやらメッセージカードのようだ。


『白ヶ峰さん

怖い目にあわせただろう。すまなかった。

あの勇気ある少年の抵抗がなければ、間に合わなかったかもしれない。

きみの健康を祈る。

ライジングサンダー』


カードを読んだおれは、カードと白ヶ峰さんを忙しく見比べる。

「わたしも保健室に運ばれたあと、気がついたら枕元にこれがおいてあったの」


ちょっと皆さん、妹がてらイケメンな計らいをしてくれたんですけどぉぉぉぉぉ!!!!。


「比呂くん」

カードを握ったおれの手にそっとその白い手が重なる。ふわっとした柔らかい感触に心臓が跳びはねた。

「よかったら、お礼に・・・」

躊躇いがちに薄紅に唇が開かれる。


毎度振り回されるのは疲れるけど、今度はめっちゃ甘やかしますよ。咲桜里さん!!!



おれは生唾飲み込んで、白ヶ峰さんの言葉を待った。

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妹が正義のヒーローをやってんだけど、なんか質問ある? @110kana

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