第4話 正義のヒーローの恋路は苦難有り、っていうのはお決まりだよね

咲桜里がライジングサンダーであることはもちろん秘密だ。

変身させたシュマロそしておれたち家族、そして雑魚敵ネル、ネロ、ネリ以外は誰も知らない。


そりゃあ、『可憐でか弱い女子高生』(本人談)が、ゴリゴリ筋肉に覆われたヒーローなんて、女子としては知られたくないだろうし。ましてや好きな奴になんて、だ。


「おはよう、朝海」

校門前で、さわやかに手を振り、微笑む同級生。中性的な顔立ちでさらさらの栗毛。という恵まれた容姿で、成績優秀そして肩書きに生徒会長というトリプルコンボなんてもちろん、もてるに決まっている。

そして咲桜里のその罠に見事ひっかかったひとりである。

「よぉ、八王…」「おはようございますっ!!八王子先輩!!」

おれを押しのけて、ぐいぐいと前に出て満面の笑み。そしてバックには薔薇を背負わんばかりの恋する乙女のキラキラオーラ。きっと今咲桜里の似顔絵をかけというなら、80年代の少女マンガのキャラを参考にしてかくといい。

てか、妹の攻撃、本日三度目です。

「おはよう、比呂さん。今日も朝海と一緒なんだね」

「でも今日もおにいちゃんのせいで遅刻しそうになったんですよ」

おい、咲桜里。語弊があるぞ。正しくはお前の強打のせいの痛みと、正々堂々と勝負を挑むことしかしないアホな宇宙人3人組のせいだ。

「ははっ、朝海は抜けているなぁ」

「もうどうしようもないおにいちゃんなんですぅ」

妹よ。兄とは恋のための踏み台なのかね。いけにえなのかね。

おれをネタに笑いあう親友と妹に、おれはひきつった笑顔でその場に合わせる。

「比呂さん、そろそろ教室にいったほうがいいんじゃないかな。もうすぐチャイムなるんだから」

「あっ、そうですね。ありがとうございます!」

こんなわたしに気を遣ってくれる八王子先輩、ステキ…。

そんな乙女な心の声が、兄には丸聞こえですよ・・・、咲桜里さん。

これもまた兄として長い間妹の面倒を見てきたからこそ成せる技である。

スキップをしそうな軽い足取りで教室にかけていく妹を見るおれの細い目は、決して見守る温かい目ではなく、恋する乙女モード全開な行動に呆れているだけだ。誤解はしないで欲しい。


さて、先ほどもいったがおれの親友である八王子は、容姿端麗、勉強ができて生徒会長の仕事もこなす、天が二物どころ三物与えた王子様である。

一方おれは妹と同じ若干つり目気味の見た目であまり女子受けはよくない。加えて勉強は平均。しかも卓球部の幽霊部員。

平凡な庶民と王子様が身分の差を飛び越えて親友であるのは、それなりの理由がある。

「なぁなぁ朝海!!見たか、今朝のニュースの特集!!」

王子様が、まるでかぶと虫を発見した子供のように、キラキラとまっすぐな目をおれに向ける。

「ライジングサンダー特集!!おれ録画もしたんだ!!あぁ家に帰って早く復習したいんだよ」

興奮気味におれへ前のめりになる八王子に、おれは若干引き気味。これでも慣れたほうだ。

お分かりの通り、八王子はライジングサンダーの大ファンである。それはもう中性的な見た目から想像できないほどに。

八王子はすらりとした細身で、そして柔らかいその見た目がコンプレックスで、逆に漢らしい男に憧れ、尊敬している。鋼の筋肉で敵を倒しあまりカメラに向かって多くを語らないライジングサンダーは、彼にはどんぴしゃで、もはや崇拝に近い。


たまたまシュマロから没収したライジングサンダーグッズを持っていたことを見られたことをきっかけに、八王子とは仲良くなった。

「良かったら、これいるか?」

そういってミニフィギュアを渡したとき、八王子はおれの手を握り、見た目からは想像できないほどの強さでブンブン振り回した。

「ありがとう!!比呂くん!!きみはおれの心の友だ!!!」

たかがフィギュア一体で、これほど感謝するのも大げさだが、それほどまでに八王子はライジングサンダーのファンである。


けれども八王子という親友は、優等生のノートというお助けアイテムで追試逃れという恩恵をくれ、おかげで、成績はまあまあにまで食い込めるようになった。感謝のしるしとして、おれは八王子にシュマロが製作したグッズをただで流している。


「そうそう。オフレコだけど今日は転校生が来るらしいんだよ」

こういう裏情報も八王子は流してくれるので、学校生活は楽に過ごせる。教師からも信頼されると裏情報も得られるのか。抜き打ち小テストとか持ち物検査とか。ありがたいよな、八王子様様。

「女子らしいんだけど」

「ふぅん」

「なんだ、朝海。興味ないのか。普通なら可愛いか、とか聞くだろう」

その転校生が平凡なおれにドラマみたいな青春をもたらすはずがない。それくらい平凡な脇役ってことは分かっている。それに・・・


「あっ、おはよう。八王子くん比呂くん」

「おはよう、白ヶ峰さん」

「・・・おう」

シャンプーのCMみたいなさらさらした長い黒髪をなびかせ、微笑む大和撫子といわんばかりの美人。

白ヶ峰 百合。おれのクラスメイトにして、学校一の美少女。

そしておれみたいな庶民にも親切にしてくれる聖母のような優しさもある。


「転校生のうわさね。わたしとても楽しみなの」

「へぇ、さすが図書委員長の耳にも届いているんだ」

「ええ、新しいお友達ができるかもしれないもの」

すこし首を傾けて微笑むその仕草にも、女子高生とは思えない品が溢れる。

庶民が想いを寄せるなど論外だろうが、ただ見てるだけでも和むのだから、本当聖母だ。

「チャイムがなるわね、席に戻るわ」

そういって腰までの髪を靡かせて翻る姿すら、映画のワンシーンに使えそうだ。

見とれるおれに、八王子はニヤリと耳に顔をよせる。

「朝海、見とれすぎ」

「うっせ・・・」

思わず悪態をつくそのタイミングで、担任が「席に着けぇ」と大声で教室に入ってきた。


「えぇぇ今日は転校生がいるんでよろしく。松木さん、入ってきて」

そして真新しい革靴の音を響かせ、入ってきた少女に、おれたちはざわめく。だって今朝テレビでみたばかりだ・・・。


「松木百子です!みなさん、よろしくぅ~!」

隣の県のアイドル戦士、ピンキーパインがおれたちの学校にやってきた!!

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