第3話 地球侵略、それは宇宙人のアイデンティティー!
そもそもこのウサギもどきがこの日本でヒーロー探しをしていたのには、奴なりの深いわけがあるという。
こいつはアンドロメダよりさらに離れた銀河からわざわざ地球にやってきた(奴の出身の星も教えてもらったものの、ギリシャやローマ皇帝よりも名前が長すぎて忘れた。こいつの本名も教えてもらったが、それもまた同様に)のも、アニメやSF映画同様単純極まりない理由。
地球征服のためだった。
しかしこいつらの陰謀を止めたのは、意外なものであった。
こいつら宇宙人が諦めざるを得なくなった理由、それは地球に言語が沢山ありすぎる。
「だって、英語は一番多くの国でしゃべられているのに、一番多くの人が話しているのは中国語だぜ?しかも同じ中国語でも、北京語と上海語はまったく通じない?ありえないよね、同じ中国人なのに!しかもこの地球には千から数千の言語が溢れていて、数えるのは不可能?そんなに言語あってどうするんだよ、地球人!!」
やや逆切れ気味にシュマロは不満をもらした。まさかバベルの塔が地球侵略を防いだとは、想いもしなかった。ありがとう、神様を怒らせた塔の建設者の皆様。神話に感謝をする日がくるとは、おれも夢にも思わなんだ。
故にシュマロら宇宙人は地球侵略をあきらめ撤退した。しかし、後処理が残った。
「僕らの星であぶれたクズどもが、地球で居座って悪さを始めたんだよ。さすがにそれは宇宙同盟の星々にも悪い印象を残すから、そいつらをやっつけざるを得なかったわけ」
そして、その後処理班に選ばれたのが、このシュマロ様ってわけ。
シュマロをふかふかの胸を精一杯張る。
「別の星の侵略を始めた故郷からボクにはその命令が出された。わざわざ新たな侵略プロジェクトを外されてね。置いてきぼりになったわけじゃないさ。そう、ボクはニホンでいう『シンガリ』みたいなものさ」
本当に頼りになるから、今もボクは地球に残っているのさ。
「・・・」
シュマロはどや顔でそう語るも、こいつ気づいていないのだろうか。この平凡極まりない、どこにでもいる高校2年生でもわかる。
左遷だ。絶対こいつ左遷されたことに気づいてない。
面倒ごとを押し付けられて、仲間に置いてきぼりになったことに全く気づいていないどころか、180度方向転換して、プラス思考で勘違いしている。
哀れなんだか、幸せ者なんだか。
それに気づいたその日から、おれはシュマロを見る目線が変わった。上から哀れみの目戦です。
しかも、こいつはその肝心の後処理を、ライジングサンダーもというちの妹に頼りっきりだ。
「あくまでこっそりと地球侵略をするつもりだったんだから、失敗してそれどころか、それに乗じてやってきた悪さをする宇宙人の処理に回っているなんて、ボクの星の評価は下がるんだよ。だからあくまで地球人がひとり勝手にやってきた宇宙人を懲らしめるとアピらないとヤバいんだよ」
そんな自分勝手にしか聞こえない言い訳をしつつ、こいつはすっかり日本のお茶の間で大人気になったライジングサンダーのグッズを勝手に作って(おれのパソコンを勝手に使って、自宅よろしくソファの上で寝転がって、しかも勝手におやつのポテチをボリボリ食べながら、だ)販売して私腹を肥やしている。
悪知恵だけは聞くようだ、このメタボうさぎ。
ちなみに実はその私腹からこっそり、こいつの分の家賃や生活費もろもろを引き出しているが、このウサギもどきはのんびりポテチを貪っている。なんとまぬけな宇宙人だ。
そういうわけで、妹は運悪くヒーローの素質をこやつの持っていたヘンテコメダルに見出され、人間に化けて悪さをする宇宙人や、悪さをしている人間もついでに、ライジングサンダーとして戦っている。すべてはシュマロらが地球を侵略しようと試みたがために。
ちなみにライジングサンダーというネーミングはシュマロによるものだが、名づけの由来を聞けば、「なんかかっこよくね、なんか響き的に」とチープ極まりない、半紙以上にペラペラの回答が帰ってきた。
そう、おれの妹は正義の味方ではあるものの、リボンやレースやチュールなんぞ使ったきゃわいいワンピースに身を包んで魔法をつかうわけでもなく、セーラー服で日本刀振り回すようなかっこいいわけでもなく、
ガチムチのマッチョで、200キロばりの剛球でも投げられちゃうような逞しいからだを張って敵を撃退しております。
「どうせなら、ピンキーパインみたいな正統派美少女戦士になりたかったのよ、わたしは!!」
シュマロの胸倉もとい余りに余った皮下脂肪の一部を掴みながら、指差したテレビ画面には隣の県で活躍中という、正義の味方ピンキーパイン。
黄色ベースのワンピースにフリルとピンクのリボンをふんだんにあしらった、まさに魔法少女といった格好の女の子が、コンビニ強盗の尻に強烈なキックをお見舞いしているシーンが流れている。音からして実に痛そうだ。
そして、魅力的な笑顔でカメラに向けて手を振るシーンに切り替わる。ヒラヒラと振っている手の反対は、パンパンに腫れ上がった顔のコンビニ強盗の胸倉を掴んでいる。笑顔がアイドル並に眩しい分正直こわい。
けれど、モデルでもしていそうなスタイルと整った顔、そしてワンピースの谷間の豊満な胸が、男性ファンを魅了してやまない彼女もまたライジングサンダーと並んで人気が高い。
ライジングサンダーと違って、可愛い顔を晒しだす彼女は、バラエティ情報番組の特集で彼女のオフの姿、女子高生『松木 百子』の姿を見せたり、出版社からは写真集の打診もされているという噂だ。
「仕方ないだろう、キミには美少女戦士よりヒーローの素質があったんだ。ボクのメダルもその素質に反応して、キミをライジングサンダーにしたんだ」
「なんで、わたしにはその素質がないのよ!!」
「そりゃ、お前ピンキーパインほど可愛くないし、胸も滑走路のように・・・」
「このクソ兄!!」
「ぐふっ」
今度は腹です。
さっき食べた食パンが逆流しそうです。
それでも耐えたのは、日頃の成果のおかげでしょう。
世間よ、おれは毎日のように百万ドルパンチの餌食になっているんですよ。正義のヒーローの兄ってこんなものなのだろうか・・・。
「さっさと立って!でないと学校遅刻するでしょ、バカ兄」
しかもこのけが人に鞭打つような発言。もうおれ涙がでそうです…。
そんな兄の痛みなんて露ほど知らないというか、汲み取ろうともしない妹は、おれを置いて玄関の扉を開けた、そのとき。
「勝負だ!!ライジングサンダー!!」
「今日こそ、オレたちの輝かしい勝利の日!!」
「そして、お前の命日だ!!」
「・・・」
ご近所に迷惑極まりない大声で道場破りのような訪問。
朝から決闘を申し込むこの暇人、ではなく暇宇宙人3体。モサモサとした毛に覆われたジブリのススワタリのような親玉のようなやつらは、ネル、ネロ、ネリという名前。見分け方は・・・モサモサした毛でわからん。
咲桜里がライジングスターとしてのデビュー戦を飾った、ショッピングモールで仮面ライ●ーの某有名敵キャラに扮して暴れていた奴らだ。
すぐにぶっ飛ばされるが何度も咲桜里に挑んでくる、しぶとさだけは一流の宇宙人だ。
そして今日の咲桜里の機嫌は最高に悪い。ゆえにこいつらは・・・。
「ぎょえ!!」「でゅふ!!」「ぐほっ!!」
今日も今日とて百万ドルパンチによってアスファルトとキスをする・・・というかアスファルトに顔拓が出来ました。
なんて威力だよ、変身前だぞ。
そしてアスファルトにめり込んだその頭を踏みながら(3馬鹿は踏まれるたびにカエルがつぶれたような声を出している)前へ進む、咲桜里。
ライジングサンダーの裏の顔、ここにあり。
敵に一欠片の情もない、この残酷さ。
「ていうか、ライジングサンダーの素顔を知っているならそれ揺さぶるとか考えないのかなぁ、こいつら」
こいつらを避けて進みたいが、巨体が邪魔だ。仕方なくおれはさおりに倣って、奴らの顔を踏みながら咲桜里を追う。
宇宙人って本当にバカしかいないのか・・・。
SF映画やアニメの夢を壊された気がする。
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