鬼の力

「北嶋さん、本当に戦うの?」

 葛西の先導するBOSS HOSSの後を追いながら、北嶋さんに訊ねた。

「仕方ないだろ。約束しちゃったんだから」

 北嶋さんが助手席で伸びをしながら答えた。

 鬼の力は確かに凄い。

 しかし、北嶋さんには通用しないのは、葛西も理解出来るだろう。

 それでも戦う理由が解らない。

 強い奴と戦う事が強い奴の望みと、葛西はそう言っていたが、北嶋さんに通用する、何かの技があるのだろうか?

 それとも、単純に殴り合いしたいのだろうか?

「まぁ、手加減はしてやるさ」

「手加減…うん、そうね」

 そう言う私だが、何か嫌な予感がする。

 肉体を持たない鬼は北嶋さんの敵にはならないが、肉体を持った鬼なら?

 私が考えている間に、葛西がウインカーを左に出す。

 それに続く私。

 林道を走る葛西が、間もなく停車した。

「誰か来そうな場所だけど…」

 そこは木を運び出す為に整地した、ちょっとした駐車場になっている場所。

「こんな何も無ぇ所、誰も来ねぇよ」

 葛西がヘルメットを脱ぎ、近寄って来る。

 北嶋さんも助手席から降りる。

「負けても俺が強すぎるだけだ。あまりショックは受けなくていいぞ」

「ハッ!気遣いありがとうよ!!」

 駐車場中央で対峙する北嶋さんと葛西。

「行くぜ北嶋!!」

 葛西の背中から鬼が現れる。

 ゆうに5メートルは超えている巨躯。

「凄い!北嶋さんが手のひらに収まる大きさ!!」

 少々誇張したが、それ程の存在感だと言う事だ。

「羅刹がマジになればそれくらいのデカさになるのさ」

 鬼が北嶋さんを握り締める。が、北嶋さんは涼しい顔。と言うより何が起こっているのか解っていない顔。

「ち!やっぱ無駄か!」

 笑っている葛西。予測済みなのだろう。

「神崎、ナビしてくれ」

 私は頷く。

「三歩退く!!」

 北嶋さんが指示通り三歩退いた。

「真正面に鬼の拳ありよ!!」

 北嶋さんが拳を両手で掴む。

「ハッ!親指の付け根を掴んだ程度…おおおっ!?」

 北嶋さんがそのまま一本背負いをした。

 鬼が葛西の背中から抜け出る!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おおっ!?」

 俺は羅刹を戻した。

 危うく羅刹を抜かれる所だった。

 あれが北嶋の力か…

 額から汗が流れ落ちる。

「やめるか?俺は構わないけど」

 北嶋が高い位置から見下ろすような気遣いを見せる。ハッキリ言ってムカつくが…

「ハッ!これからだぜ北嶋!」

 羅刹に掴ませた北嶋には全く手応えは感じなかった。

 ところが、北嶋が掴んだ親指の付け根に、何か触った感触を覚えた。

 北嶋が『掴んだ』イメージを作り出せば、此方にも感覚が伝わるって事か。

 もう少し試さなきゃな。

 俺は羅刹に無造作に腕を伸ばさせる。

「左手中指が真正面に来るわ」

 女の指示より、羅刹が北嶋に触れる方が早い。

 しかし、やはり感覚はない。

「うらぁ!!」

 北嶋が中指に拳を当てた。

 羅刹の中指が内に反る。

「ぐっ!!」

 やはり中指に触れた感覚を覚え、中指が反った痛みを感じた。

 先程の仮説は正しかった。

「ハッ!!解ったぜ北嶋…テメェとやり合うには、やはり肉体を持たなきゃならねぇんだ。テメェの目でも視えるような!!」

 俺は羅刹を背中に引っ込めた。

「鬼を引っ込めた?」

「何?それってどうなるの?降参って意味?」

 北嶋がキョロキョロする。

「テメェ、キョロキョロしても視えねぇんだろ。安心しろ北嶋、今からテメェの目でも視えるようにしてやるよ!!」

 革ジャンとシャツを脱ぎ捨てる俺。

「背中に魔法陣!?」

 女が目を剥いた。

「ああそうだ。俺は背中に魔法陣を彫っているのさ。最も普段は見えない彫り物だかな。俺の気と呼応して、魔法陣が浮き上がるって寸法さ」

 言いながら、俺は更に気を高める。

「お前、入れ墨入れて大浴場に入っていたのかよ?あそこに『入れ墨を彫っている人の入浴はお断り』って張り紙していただろうが!!」

 北嶋がキャンキャン騒いでいるが、聞いてやっている暇はない。

 呪文を唱えながら、羅刹を取り込んだ。

「な、何?鬼に憑依させているの?」

「身体が赤黒くなって来たぞ?お前どっか具合悪いのか?」

「フハハ!!テメェの目にも視えたか!!有りがたい!!」

 俺は羅刹を取り込んだ身体を確かめるよう、揺らした。

「うまくいったようだな。これが俺の奥義!鬼神憑きだ!」

 俺の身体は赤黒くなり、パワーもスピードも耐久力も、羅刹のそれと同じになったのだ。

 鬼に自らの肉体を乗っ取らせ、自我を保つ…久しく使っていない、両刃の奥義。

 そんな俺を前に、北嶋が心配そうに、顔を覗き込んだ。

「お前おでこに吹き出物が2つ出ているぞ?大丈夫か?」

「こりゃあ角だ!!」

 北嶋が俺の手に指を差し、感心した。

「お前爪がいきなり伸びて来たぞ?特異体質か?」

「こりゃあ鬼の爪だ!!」

 北嶋が俺の目を見て、目薬を差し出す。つか良く持ってたなこんなモン?

「お前目が充血しているぞ?ゴミ入ったか?」

「こりゃあ鬼の眼だよっ!!」

 北嶋との問答で調子が狂う前に、俺は北嶋に殴り掛かった。

「テメェの身で知りやがれ!!」

 北嶋は俺の拳を掴むが、掴んだ北嶋の腕が後ろに派手にふっ飛んだ。

「のおおおおお!!」

「きゃあああ!北嶋さん!」

 女が口に両手を当て、脅えた。

「北嶋のナビをしなくていいぜ。これなら見えるし聞こえるし感じるだろう?」

 北嶋が掴んだ手をじーっと見つめている。

「お前そんなに力あったのか?」

「鬼の力を体感出来るなんざ、滅多にねぇぜ北嶋!」

 俺は左拳を北嶋の腹に向かって放った!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 私は今、信じられない現実を直視している。

 北嶋さんがお腹を押さえて膝を付いているのだ。

 稀代の錬金術の攻撃をも全ていなして圧倒的に勝利した北嶋さんが…

 幾多の悪霊を葬って、遂には祟り神すらねじ伏せた北嶋さんが…

 鬼を憑かせた葛西の力に膝をついた……!!

「北嶋さん!!」

 思わず駆け寄る私に、蹲っていた北嶋さんが顔を上げる。

「のおおおお……イテェなオイ……」

 心から安堵した。

 歩みを止め、北嶋さんの表情を見る。

「俺にこんなにダメージを与えたのは建設重機以来だぜ!!」

 立ち上がる北嶋さん。その表情はあまりダメージを受けていないような…

「テメェ重機ともやり合った事あるのかよ……!!」

 お腹に拳を当てた葛西の方が、ダメージを喰らっているような表情だった。

 何故?

 葛西をよく見ると、北嶋さんに当てた左拳の皮が裂け、血が吹き出していた。

「テメェ、腹に何か仕込んでやがるのか?」

 葛西が左手を振って血を払っている。

「呼吸法により、己の肉体を鋼鉄化するってのが中国拳法にあるんだ。それにしても、お前の拳は硬過ぎだ馬鹿野郎!!一瞬でも遅れたら腹から腸が出てたじゃねーかよっ!!」

 お腹をさすりながら、葛西に文句を言うあたり、まだまだ余力があるみたいだ。

「北嶋さん!!本気出さなきゃヤバいわ!!」

「もう本気出してるよっ!!」

 不満気に返す北嶋さん。

 葛西の力は、本気になっている北嶋さんと五分なの!?

 北嶋さんとまともにやり合える人間がいるなんて…

 私の額から汗が頬を伝って、涙のようになっている。

「か、神崎!泣くな泣くな!心配ないから!暑苦しい葛西程度あっと言う間さ!!」

 北嶋さんが慌てて私を宥めるも、私は泣いていないんだけど。

 だが、北嶋さんの葛西に向ける視線が先程より鋭くなった。

「葛西!お前のせいで神崎泣いちゃったじゃねぇかよ!お前本気でぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 北嶋さんの全くの勘違いなのだが、私の胸が心地良く疼いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いくぞうらあ!!」

 北嶋が高速で俺の懐に飛び込む。

「はえぇ!!だが!!」

 俺は更に一歩踏み込んで行く。

「このまま掴んで捻り潰してやるぜ!!」

 俺は北嶋の頭を両手で挟むよう掴んだ。

「いててて!!爪いてぇ!ちゃんと爪切れボケ!!」

 この期に及んで爪が食い込む痛みを訴える北嶋。構わずそのまま膝を顔面にぶち込む。

「ふんっ!!」

 北嶋が信じられねぇ行動をした。

 自ら加速し、俺の膝にテメェの頭突きをぶち込みやがった!!

「がっ!!」

 膝が割れるかのような痛みを感じ、掴んでいた手を離してしまう。

「保険に入って死ね!!」

 北嶋がその勢いで、俺の腹に掌を当てる。

「ぐはああっ!!?」

 信じられねぇが、俺はあんな軽い掌打でふっ飛んだ。凄まじい痛みを腹に感じて。

「テメェ…今何をしやがった…?」

 腹を押さえてふん張る俺に北嶋が指を差す。

「今のが中国拳法の奥義、発勁だ」

 発勁……!!

 北嶋は先程俺のパンチを硬気法で防いだ。膝に打ち込んだ頭も硬気法だろう。更に発勁も使えたとは…!!

 今更ながら、北嶋の化け物っぷりに驚嘆する。

「さっきの腹に一発の借り、これでチャラだな」

「ふざけんなテメェ!!俺の拳と膝を壊す寸前だったろうがよ!!チャラどころか俺が借りできているぜ!!」

 羅刹の力を完全に物にしている俺が、押されているとは!!

 生身の馬鹿に押されている俺の立場にもなりやがれってんだ!!

 口元が緩む。

「何笑ってんだ?お前虐められて喜ぶ趣味があんのかよ?」

 一歩退く北嶋。気味悪そうに。全く何時でも何処でもふざけてやがる。

 いや、ふざけている訳じゃねぇか。

 これが北嶋って事だ。

 訳解んねぇ力も、冗談か本気が解らねぇ態度も、北嶋そのものなんだな…

「ふん、全く面白くねぇ奴だ。そういや、テメェはさっき膝をついたな?俺はまだ膝をついてねぇぜ?」

 俺は手のひらを広げ、力を込める。

「従来、鬼の力は全てを引き裂く握力と、獣の如くの牙や爪…つまるところ、暴力的な馬鹿力よ!!」

 広げた手のひらを握り締める。気合を露わにして。

「ふん。ならば古来より鬼をぶち倒したのは武士であり拳法家…武人だぜ暑苦しい葛西」

 北嶋がゆっくりと型を作り、構えた。その型は…さっきの中国拳法の物じゃねえ。

 まだ隠しているもんがあったのかよ…!!

 俺は確かに驚愕していたが、自分でもはっきりと解る程顔がにやけていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 葛西が変身しやがって人間離れした強さを見せ付けられた俺は、威嚇の為に空手の型を構える。

 俺は通信空手9級の腕前。はっきり言って葛西如きに空手はいらねとか思っていたが、あんな強くなるとは予想外だったから空手を使う。

 何?中国拳法黙って使ってりゃいいじゃんだって?

 それは駄目だ。

 だってあれでネタ切れだから。

 一本調子で追っ掛けても葛西は倒せない。伊達に暑苦しいヤツじゃないぞ葛西は?

 以前バイトしてた建設現場で俺をぶっ飛ばした大型バックホゥと互角の馬力だぞアレ。

 あんなの喰らい続けたら、朝飯戻してしまうわ!!

 だからリアクションを変える為に空手にシフトしたんだな。

 何?蹴り技しかないじゃんだって?

 一応正拳とかも出来るんだぞ俺は!!

 それに、空手にも発勁みたいな奥義があるのさ。

 普通の人間は死んじゃうから使えないが。葛西は暑苦しいから死なないだろ?

 そんな訳で、俺は空手を使うのさ。

 まぁ、いつか試してみたかったってのが七割、いや、九割をを占めているけどな。

「北嶋ぁ!!」

 暑苦しいクセにものスゲェスピードで俺に突進してくる葛西。

 俺は軽やかに躱す……

 ううううううううううううううううう!?

 葛西の伸びている爪が俺のこめかみを掠りそうになる。

 うっすらと線が入り、血が滲む寸前だった俺のこめかみ。

 やべーなオイ、やっぱり硬気法は必要だわ。

 俺は呼吸を正し、丹田に気を充満させ、内部に放出させる。

 これで俺の肉体は再び鋼鉄のように硬くなった訳だ。

「葛西、馬鹿力も当てなきゃダメージには繋がらないぞ」

 これは挑発だ。

 暑苦しい葛西は逆上し、攻撃が単調になる。

 大振りになった攻撃に、空手の奥義をカウンターでぶち込むと。

 俺の素晴らしい頭脳プレイだ。

 どうだ暑苦しい葛西!お前の暑苦しい脳みそじゃ考えもつくまい!

「テメェこそ、ただ突っ立っているだけじゃ、俺にダメージを与えられねぇぜ?それとも、そのまま貧血でぶっ倒れるか?」

 俺はカチンと来たね!!

 ただ突っ立っているって、戦略だっての!!

 頭に来た俺は葛西に突っ立む。

 しまった!!挑発に乗ってしまった!!

 まんまと挑発に乗ってしまったが、開き直った。ゴチャゴチャ考えるのはやはり性に合わん。

 葛西がカウンターを狙っているよう、感じた俺は、ジャンプして脳天に踵を打ち降ろす。

「大技がいきなり通用するか!!」

 葛西が上段で腕をクロスし、踵を受ける。

「うらあ!!」

 俺は踵に体重を入れて、そのままもう片方の脚で葛西の顎を跳ね上げた。

「ぶっっっ!!」

 空中で一回転した格好になった俺は、顎を晒して無防備な暑苦しい葛西の懐に飛び込み!左脚を踏ん張り!左脚を捻り!ケツも!腰も捻り!背中も捻り!打ち出した右腕も捻り!!

 全ての力を右拳一点に集めて暑苦しい葛西の鳩尾にぶち込んだ!!

「生命保険の受け取り人は俺にしとけよ暑苦しい葛西!!」

「ぐはあっ!!!」

 狙いより若干下…鳩尾より下の方にぶち当たったが、まぁ問題ない。

 葛西はそのまま両膝を地べたに付いた。

 ガックリと崩れる暑苦しい葛西、両手を地面に付き、四つん這いの形となる。

「空手にも幻の奥義がある。背当と言う奥義がな。打ち込まれた腹より背中の方が痛いだろ?」

 四つん這いになっている葛西の背中には、当ててもいないのに打撃痕がうっすらと浮かんでいる。

 四つん這いになりながら震える葛西。

 ちょっとやり過ぎたか?

 多少心配になる。

 流石に立ち会いとは言え、人殺しは嫌だからな。

「クッ…クックック……テメェはやっぱり対したもんだ北嶋…鬼神憑きの俺の身体を、生身でここまで痛めつけたんだからな……」

 ほっ。どうやら死んではいないようだ。

「そろそろ降参した方がいいんじゃないか?」

 流石にこれ以上はヤバい。葛西もいくら暑苦しいとは言え、それくらいは理解が出来るだろう。

「ハッ!馬鹿言えよ北嶋!!俺はまだ全てを見せてねぇぜ!!」

 ゆっくりと立ち上がる葛西。

「フラフラじゃねーかよ」

 そんな様で俺とやり合えると思ってんのか?

「心配すんな北嶋…これが最後だ。だからテメェも遠慮なく出せばいいぜ」

 出す?

 何を?股間をか?

 俺は露出好きでもインキンでもないんだが。

 俺が考えているその時、葛西が耳からなんか爪楊枝みたいな物を取り出す。

「まさか人間相手に使う事になるとはな」

 葛西は更に、手袋をケツのポケットから取り、身につける。

 ベルトも何かカチャカチャと細工しているような。

「待たせたな北嶋!!」

 葛西が笑うと同時に、先程まで晴天だった空が、にわかに曇り始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 葛西が着用した手袋は、遠目に見ても普通の手袋じゃない…

 なんだろう…凄く嫌な予感がする…

 鬼を取り込み、己の肉体に鬼の力を体現させても、北嶋さんには一歩届かなかった感がある葛西。

 この先がまだある?

 私はこの戦いが始まってから、ずっと祈るように組んでいた手が汗ばんでいる事に今気が付いた。

 ハンカチで汗を拭う。

 額からも汗が出ている。喉もカラカラだ。

「見ていろよ北嶋!!これが俺の切り札だ!!」

 葛西が耳から取り出した小さな棒を握り締め、力を込める。

 さっき出て来た雨雲からゴロゴロと雷鳴が轟き、雲の中に所々明かりを照らした。

「雷を喚んでいるの!?」

 そう思わずにはいられない。

 雷雲は葛西の頭上にしか現れていないのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 葛西が吼えたかと思えば、小さな棒を空高々と放り投げた。

 その小さな棒に雷が落ちた。

 空を見上げる私と北嶋さん。

 小さな棒は火を纏い、落下して来た。

「あ、あれ?」

 北嶋さんが目を擦った。

 小さな棒は肉眼で見る限り、先程より大きくなっているように見えたのだ。

 落下してくる棒…いや、棒じゃない!!

「そ、それは!!」

 葛西がタイミングよく地面に着くスレスレでそれを掴んだ。

 タイミングよく?

 違う!葛西の手に『落ちて』来たんだ!!

「ふううぅ~…鬼神憑きの俺の身体にちょうどいいサイズになって良かったぜ…」

 葛西の手に収まったそれは、長さ約1メートル50程の大ハンマー!!

 その身に雷を纏い、紅く輝いている!!

「それは……!?」

 私が驚いているのを見た葛西が笑いながら大ハンマーを固く握る。

「聞いた事くらいはあるだろう?山をも打ち砕く、雷を纏った伝説のハンマーを!!」

 葛西はハンマーを前に突き出し、私達に見せつけた。

「確かに聞いた事はある…だけど、伝承とは違う形状よ?」

 確か伝承では、ハンマーの柄はグリップ部分くらいしかない、ショートハンマーの筈…

「そりゃ俺が頼んでカスタマイズして貰ったんだよ。使い易くする為にな」

 葛西が不敵に笑う。

「なんだその解体用ハンマーは?お前解体の建設業のバイトでもしてんのか?」

 北嶋さんは呑気に質問している。

 あのハンマーの価値など全く理解せずに!!

 葛西は溜め息をつく。頭を抱えながら。その気持ちは痛い程解る。

「こりゃあ北欧の雷神、トールが愛用していたミョルニルっつーハンマーだよ!!投げれば的に必ず命中し、手に戻ってくるっつぅ代物さ!!」

 そう!北欧の最強神トールが愛用していたミョルニル!!小人族の名工、ブロックとエイトリンが造った逸品だ!!

 ミョルニルは強力な武器なのは確かだが、その重量はとてつもなく、重い。

 トールも重過ぎて使えなかったので、力を倍増させるベルトを身に付け、扱っていた。

 それに稲妻そのもののミョルニルはもの凄く熱く、持つ事が出来ない。

 ミョルニルの上部突起物から稲妻を発している為、真っ赤になる程焼けていて、素手で持つ事は不可能だ。

 そこで鋼鉄製の手袋を嵌めて、初めて持つ事ができるのだ。

 つまりミョルニルを扱う為には、神の如き剛力と、ベルト、手袋の二種が必要なのだ。

「私が感じた他の三つの力はミョルニルと付属品の事だったのね……」

 葛西から感じた鬼の力とは別の力…

 北欧最強神の武器だったなんて…

「でも、さっき、カスタマイズして貰ったと言ったわよね?誰がミョルニルをカスタマイズできると言うの?」

 北欧の神の武器は小人族が作成した物だ。

 つまり直したり加工したりできるのは、やはり小人族だけなのだ。

「テメェの想像通り、小人族にカスタマイズして貰ったのさ」

 私に話し終え、葛西は再び北嶋さんを見て指を差す。

「テメェは祟り神…海神を倒した…と言うか捻じ伏せた。だが、俺も神を倒した事があるんだぜ!!」

 真っ赤に血走った目を北嶋さんに向けながら、葛西が話を続ける!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る