第22話―王都と郵政大臣


 レノッグ・クアンタ18歳。父の経営していた手紙の配送業者を継いで、妹と細々と暮らしていたが、経営難に陥る。


 そこにサイゾーが現れ、彼の商会の一部門として再編成され、それ以後郵便事業部として急成長。出会い掲示板のメールだけでなく、ポストを利用した手紙配送サービスは受けに受けて、74地区を中心に、今や無くてはならないシステムとなっていた。


 サイゾーの仕掛けで、最近では文通という遊びまで流行りだした。今のレノッグは寝る暇も無いほど忙しい日々が続いていた。


 そして今日も書類仕事の隙間を縫って、集配業務を手伝っていたら、本部に到着した途端サイゾーに引っ張り出された。


 今度はどんな新しいアイディアを思いついたのだろうと付いていった先には、国王陛下がいた。


 何を言っているのかわからないと思うが、レノッグ本人が一番良くわかっていなかった。


 現在はサイゾーの横に座らされ、壊れた人形の様に首を振る機械と化していた。


「……で、この切手というシステムだが、どうして直接金銭のやり取りにしなかった? 真似されるリスクがあるだろう?」


 国王陛下が切手・・を取り出してサイゾーとレノッグの二人に尋ねる。だが答えるのはサイゾーだけだ。


「切手はまとめて買っておけば、いつでも準備出来るだろ? 出したい時に準備して、あとはポストに放り込むだけだから、いちいち窓口に並ぶ必要も無い。それとこの国では郵便で、差出人が金を払うのか受取人が金を払うのかなどの決まりが曖昧だろう? 切手なら差出人が払うと明確になる。現時点でこの切手は真似出来ねぇと思うぜ? なんせフルカラー・・・・・だからな」


 そう、普通印刷物と言えば黒一色というのが当たり前だ。所がこの切手、色が付いているのだ!


 初めて見た時レノッグは腰を抜かしそうになった。さらに小さな穴を並べる事によって、手で簡単に切り取る事が出来る。その発想が凄かった。


「うむ。どうしてこんなに鮮やかな色がつけられるというのだ?」


「それは国王陛下でも教えられねぇなぁ」


「ふむ……」


 サイゾーが使ったのは浮世絵の手法だった。色別に何枚もの木原画を用意して、色を重ねていくのだ。4~6色も重ねると、脳が錯覚してフルカラーに見えるようになる。


 もっともそこまでやるのに何百の試作品が無駄になったが、ななよん新聞・・・・・・は根気強く付き合ってくれた。


 現在切手の作成はななよん新聞の技術部が全て請け負ってくれている。


 なお近日中にデカいスポンサーを捕まえて、世界初のフルカラー折り込みチラシを制作するつもりだ。これが上手く行ったら、ななよん新聞は広告収入だけで食べていけるかも知れない。


「切手1枚の値段が大銅貨1枚であろう? これでは採算が取れまい。赤字分は掲示板から補填しておるのか?」


 大銅貨1枚はだいたい100円だ。


「まさか。切手だけでも経費にゃなるぜ。まぁ掲示板から独立したらちょっと足りないかも知れないが、これにはカラクリがある。……ま、郵便事業部ごと買いたいんだからその辺は知りたいよな」


「うむ」


 サイゾーは店内に視線を巡らすと、客達は我関せずと視線を逸らした」


「ここで良いのか?」


「かまわん。どうせ知られたところで切手と同じように簡単には真似出来んのだろう?」


 国王が眉を片方、1mmだけ持ち上げた。


「ま、現状ではそうだな。仕組みは簡単だ。切手を売っている場所で定形の封筒や便せんを売っているからな。大抵の奴は一緒に買っていく」


「なるほどな」


「封筒はサイズが同じなら別の物を使っても良いんだが、普通はやらんだろう。最近は無地のものだけでなく、ウサギのイラスト入り封筒や猫イラスト封筒なんかも出してる。今のところ他商会が割り込む余地は無いだろうな」


「いずれはオリジナルの封筒や便せんを出されるリスクもあると?」


「逆にそこまで郵便事業が拡大してれば、切手代だけで楽に利益が出る。むしろそこまで行って欲しいね」


「なるほど」


「実は他の地区からポストの設置や、郵便の配達範囲を広げてくれと催促は来てるんだよ。だが現状手が全く足りない。その辺はレノッグに聞いてくれ」


 ええええええ!?


 レノッグは内心で悲鳴を上げた。私に振らないでぇぇぇぇぇぇ!!!!

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