第21話―王都とスカウト


「それと郵便。出会い掲示板という物についても聞きたい」


 国王は万年筆を見ながら言った。


「万年筆の権利なら冒険者ギルドに売ったぜ?」


「わかっておる。一体どんな人間がこの様な便利な物を思いついたのか興味を持っただけだ」


「国王ってのはそれだけでわざわざその人物の所まで出張るのかよ。暇だな」


 近衛が今にも爆発しそうなほど顔を赤くしていたが、微動だにしていない。ある意味で護衛の鏡である。


「それだけならな。だが万年筆を考案した人物と、郵便……ポストなるシステムを考えた者。バインダーを考案した者、さらに出会い掲示板とポイントシステムなる仕組みを考えた者が同じとなれば話は別であろう」


 サイゾーは万年筆を指でくるくると回した。シャルロットがその不思議な動きに「おお!」と感嘆を上げるが、国王もサイゾーもそれを無視した。


「……たしかにこの王国には無かったシステムだとは思うが、俺が思いつかなくてもそのうち誰かが思いついたんじゃ無いのか?」


 いまいちサイゾーは国王が出張って来た意味がわからない。


「個別発生したのであればな。これほどのシステムをたった一人の個人が考案したという事実が重要なのだ」


「……別に、たまたま思いついただけで、実現できたのも偶然の要素が大きい。もしかしたら思いついた奴はたくさんいたが、実現までいたらなかっただけかも知れない」


「その可能性もあろうであろうな」


「だろ? なら……」


「サイゾーと言ったな。貴様王宮で働いてみんか?」


 酒場中がざわついた。


 戦争が終わってから30年前後。未だに国の運営を牛耳るのは貴族がほとんどだ。庶民を国王自らがスカウトしにくるなど前代未聞の出来事であった。


「王宮? 何をさせようってんだよ」


「調べさせてもらったが、冒険者ギルドの不正を駆逐し、若者の出会いの場を構築し、広告を生み出し、万年筆やバインダーなどの便利な道具を考案しただけでなく、この国の言葉をたった三年で理解し王国法にも精通するという。貴族達と違い変な軋轢が生ずる訳でも無い。これからの王国を担うに相応しい人物だと思うが?」


「買いかぶり過ぎだろう。俺はただのいち商会長だぜ」


「ふむ……それは断ると言う事か?」


「うーん……正直興味は無いというか、商会で手一杯というか」


 サイゾーは困り顔で頭の後ろを搔いた。


「認めてもらったのは嬉しいけどよ、俺は今の立場で満足している。というかこの商会を大きくしたいんだ」


「そうか……」


 国王はしばらく目を瞑って黙考する。


「では、郵便事業だけ譲ってもらえぬか?」


「なんだって?」


 爆弾発言であった。


 ◆


「ははははははじめまして! わわわわわわ私はレノッグ・クアンタと申しそうろうでござります!」


 身体をがちがちに固めて謎の敬礼をしているのは、ラブファインド郵便事業部部長レノッグ・クアンタである。


 1時間ごとの収集に来たレノッグを国王の前に連れてきた。サイゾーは一人では決められないと、郵便事業部の最高責任者である彼を引き合わせたのだ。


「うむ。大義である」


 どうしてガルドラゴン王国の国王陛下がこんな場末の酒場にいるか、とか、サイゾーがタメ口で話しているのか、とか、そんな事よりも、どうして自分が国王陛下と謁見させられているのかさっぱり理解出来なかった。


「このレノッグがうちの郵便事業部の責任者だ。細かい条件は別にしても、こいつが許可しない限り話は進められねぇよ」


「責任者は貴様であろう? どうして一従業員の許可をわざわざ取る必要がある?」


「あんただって、大事な事を決めるのに一人じゃ決められねぇだろ? 例えば軍事の大事を決めるには、軍事の偉い人の賛同が無かったら困るんじゃ無いのか?」


「ふむ……つまりその男は大臣と同じ様な役割と言う事か」


「ああ、そんな感じだ」


 レノッグは国王陛下から大臣扱いされて、今すぐ全力で逃げ出したかった。


 もちろんそんな事が許される状況では無かったが。

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