第23話―王都と業務提携


「……という理由と、情報漏洩しない人物を探すのに手間取っていて、なかなか人を増やせません。就職希望者は山のようにいるのですが」


 長い説明を終えて、ようやくどもらなくなったレノッグ。前半は自分でも何を喋ったのか覚えていないが、国王陛下は無言で頷いてくれた。


「要約すると、機密保持を守れ、手紙の中身を見ず、持ち逃げせず、町中を走り回る体力のある者がまったく足りないという事だな?」


「ははははい! その通りであります!」


 さすがに陛下に直接質問されるとパニックに陥るレノッグだった。


「その問題なら簡単に解決できるぞ」


 国王は少しだけ口端を持ち上げた。どうやらニヤリと笑ったらしい。


「へえ?」


 不遜にもサイゾーは興味深げな視線を国王に向けた。陛下の背後の近衛は怒りが臨界点のままでいつ暴走してもおかしくないレベルだった。


「なに、そんなものはうちの兵士を使えば良い」


「……なんだって?」


「我が王国兵であれば、機密保持も、持ち逃げもありえんからな。もちろん手紙の中を見るような馬鹿もおらん。体力は言うに及ばずだ」


「それはそうだが」


「王城勤めには難しかろうが、区画担当の警備兵から選抜すれば地理にも明るかろう」


「それはつまり……」


「うむ。郵政事業は公共サービスとする」


 レノッグは気絶しそうだった。


「……それは。良いアイディアだとは思うが……」


「わかっている。サイゾーの商会には今まで通り以上の特権を与える事を約束する」


「……わかった。その辺の細かい話はゆっくり詰めていこう。今日は大まかな話だけで良いんだろ?」


「うむ」


「んじゃ仮契約締結だな」


 サイゾーがいつもの調子で片手を差し出した。近衛の二人が瞬間沸騰してとうとう剣を抜いたが、国王はそれを気配で察して、わざわざ振り返って二人を睨み付けた。


「し……しかし陛下……!」


「サイゾーの態度は商人として普通だ。それに口調はシャルロットに命令・・されていただろう」


「う……ぐ……」


 般若の様に顔を歪めてサイゾーを睨み付けるが、当のサイゾーは気にする様子も無かった。サイゾーからすれば、ただの商談だったからだ。


「すまぬな。改めてよろしく頼む」


「ああ。じゃあクアンタ兄妹と郵便事業部の従業員達をよろしく頼むぜ」


「心得た」


 二人は堅く握手を交わした。すると国王はレノッグに手を差し出す。


「レノッグ、貴様も我に力を貸して欲しい」


「へっ!?」


 レノッグは差し出された陛下の手のひらと、背後の真っ赤になっている近衛に何度も視線を往復させた。


「何やってんだレノッグ。陛下が待ってんぞ」


「ひゃい! よよよよよろしくお願いします!!!」


 レノッグはおそるおそる陛下に手を添えると、それを力強く握り返された。


「期待しておる」


 こうして国王は立ち上がり、酒場を出ようとしたのだが。


「ち、父上!? お仕置きは!? お仕置きはどうなったのじゃ!?」


 シャルロットが慌てて立ち上がった。よくぞ今まで我慢していたものである。


「我は初めからサイゾーという男と会ってみたかっただけだ。シャルロットに面識があるようだから乗っかっただけだ。彼に王族を優遇する理由は無かった。法に違反していないのはわかったであろう」


「なっ!?」


 どうやらこの国王、シャルロットを諭す理由も込みでここまで来たらしい。もしかしたらサイゾーの態度を受け入れていたのも、シャルロットに王族が特別な者では無いと教育するための演技だったのかも知れない。


「王族には義務があり、権利がある。優遇される事もあろうが、シャルロットよ、お主の言い分はただのワガママというのだ。帰ったらその辺の事をじっくりと教師に教えてもらうと良い。行くぞ」


「「はっ!」」


 近衛の二人と官僚が陛下の後を付いていく。外にはいつの間にか専用の馬車とその護衛が待機していた。どうやらタイミングを見て移動してきたらしい。


「そんな……それではサイゾーの勝ちになってしまうのじゃ……」


「お前は一体誰と何で戦っているんだ?」


 サイゾーは呆れてしまう。


 酒場の全員がそんなサイゾーに呆れるしかなかった。


 こうして嵐はようやく去って行った。酒場中の人間がその場に崩れ落ちた。それを見てサイゾーは呟いた。


「やれやれ」

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