第14話―王都とバインダー
白ゴスドレスのシャルロットは、サイゾーが持ってきたバインダーを見て呟いた。
「なんじゃか便利そうなのじゃ……財務省の人間が見たら喜びそうなのじゃ……」
「今、冒険者ギルドが主体になって販売計画があるから興味があるなら聞いてみたらどうだ?」
様子を見に来たオーエンス74地区ギルド長がめざとくバインダーに目を付け、万年筆と同じ流れで販売契約を結んだのだ。
しかも実物はすでに出来上がっていたので、現在は職人集めをしているところで、それが終わればすぐにでも量産に入ると言っていた。この話はこの酒場では有名になってしまったので秘密でも何でも無い。
大声で契約の話を持ちかけてきたオーエンスギルド長が悪いとも言う。
そんな訳で紹介するぐらいなら問題にならないとサイゾーは判断した。
「ふむ。その話を持って行けば遊び歩いているだけでは無いと思わせられるのじゃ。あとで紹介するのじゃ」
「74地区のギルドに行って、俺の名前を出せば良い。ただしどんな返事がもらえるかまでは保証しねぇぞ」
「それなら問題は無いのじゃ。妾が直接いくのじゃからの!」
「ふーん? 良くわからないががんばってくれ……それよりも掲示板の内容だな」
サイゾーは今までのシャルロットの書き込みを読み返すが、そこまで変な物は無い。むしろ商売女狙い以外の野郎共が群がりそうなタイトルに見えた。
「うーん? なんだ? 本当に返信は……0だな」
「そんな事まで記録しておるのか!?」
「当たり前だろう? 客には教えられないが、いつどこから、誰が、誰にメールを出したのかは全て把握している。もっともメールの中身はノータッチだがな。規約違反の疑いがあるという訴えがあった場合のみ、メールをチェックさせてもらっている」
「本当に面倒な事をしておるのじゃ……まぁそんな事はどうでもいいのじゃ! それよりも妾に返信が来ない理由はわかったのか?!」
「いや……ちょっと待ってくれ」
サイゾーは何度もタイトルを見返すが、どの書き込みも返信が0になるようなタイトルとは思えない。もちろん書き込みの中身も確認したが、少し偉そうな書き方なだけで、男が尻込みするような内容とは思えない。
基本的には遊んで欲しい、食事に連れて行け、変わった所に連れて行けという、むしろ男側からしたら願ったり叶ったりの内容にしか思えなかった。
「ううーん?」
サイゾーは頭を抱えて何度も何度も文面を読み返していると、その肩を叩く者がいた。振り返るとエルフのディーナだった。その表情は怒っているように見えた。
「何だ?」
「あんたねぇ……まだわからないの?」
「え? わかるなら教えてくれ。頼む。こんなケースは初めてで……おっと、シャルロットさん。こいつが何やら気づいたみたいなんで、書類を見せてもいいかい?」
「うむ。許すのじゃ」
シャルロットが頷いたのを確認してから、ディーナはため息交じりで用紙の名前部分を指さす。
シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール。そこにはそう記載されていた。ニックネームも同じである。
「……それがどうした?」
「シャルロット・ガルドラゴン……殿下。この国の第三王女よ」
「……」
しばらく時間が止まる。サイゾーはその言葉を脳内で何度も反芻する。
「……はぁ!?」
そこでようやくサイゾーは事の事態を把握した。
サイゾーはシャルロットを見て、うさ耳メイドを見て、キシリッシュを見てから彼女が
『ああ、その事だが、先日、私は近衛騎士団に入団を許された』
近衛騎士団。
そうだ、何で気がつかなかった。近衛ってのは王族を守る仕事だろう。最近無意味に出入りしている事が多かったからすっぽ抜けていたが、確かに今のキシリッシュはそこのお嬢さんのお付きとして横にいるようにしか見えない。
つまり……。
サイゾーは三度シャルロットを見た。
「おーまいがっ」
サイゾーは天を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます