第13話―王都と初めての友情
「よう、お待たせ……ってほど待たせてないか。それでシャルロットさんの相談事はなんだ?」
サイゾーがいつもの調子を取り戻してラフな口調で白ゴス少女の正面に座り込む。シャルロットはやや不思議そうにサイゾーの顔を見てから、すぐ横に控えるキシリッシュに耳打ちした。
「のう、サイゾーの機嫌は直ったようじゃが、あのしゃべり方は何なのじゃ?」
王族に対して敬語を使わない人物などほぼ始めての経験で、シャルロットはサイゾーの口調に違和感を覚えたのだ。尋ねられたキシリッシュは頭を抱えたくなる。
「あれは……その、市民の間で……信頼のあるもの同士が使う……友誼の厚いもの同士の会話法とでも言うべき物かと……」
キシリッシュは内心、嘘では無い。嘘では無いぞと、自分に言い聞かせながら説明する。彼女に取って騎士が嘘をつくなど許されないことであるからだ。実際その説明は間違ってはいない。
ただし王族に対して失礼に当たらないという訳でも無いのだが。
キシリッシュは額から汗を滂沱と流して必死に取り繕った。下手をしたらサイゾーの首が吹っ飛ぶかも知れないと思ったら、こんな行動に出ていた。
「ふむ……なるほど……確かに今の方がサイゾーの表情も柔らかいのじゃ! 良しサイゾー!」
「ん?」
「これからは妾にはその話し方で接するが良い」
「ああわかった」
((あっさり了解するなぁあぁぁぁああ!!))
内心突っ込みを入れたのはキシリッシュだけでは無く、護衛のエルフ冒険者ディーナも叫んでいた。
「さて、相談事を聞こうかね」
サイゾーは先ほどのやり取りを気にしていないのか、いつもの調子で片肘を付いて話を聞く体制に入った。下手をしたら打ち首ものである。
「う、うむ。掲示板に妾がいくら書き込みをしても、書き込みに返信をしても誰も現れないのじゃ! これはシステムに構造的欠陥があるという事なのじゃ!」
「なんだって?」
サイゾーは眉を顰めた。
(おかしい……どんなに問題児でも、女性の書き込みに一切反応が無いってのはあり得ない。男って生き物は馬鹿しかいねぇからな)
自分の性別を棚に上げてあごに手をやる。
「シャルロットさんの許可がもらえるなら、今までの書き込みを精査させてもらいたいんだが、良いか?」
「ふむ? それはかまわんのじゃが、手元に残っておらんのじゃ」
「それなら問題無い。全ての書き込みはファイリングしてある」
「ふぁいりんぐ?」
シャルロットが小首を傾げる。
「ああ。全ての書き込みややり取りは会員番号と管理番号によって保管されている。幸いここが本部だからな。すぐに調べられる」
「まるで城の財務省じゃな……」
「記録は全ての基本だからな。それで許可してもらえるかい?」
「うむ。許可するのじゃ」
「それと、お付きの人間に内容を見られたくないなら、ここじゃなく奥のブースで相談に乗るが」
「それにはおよばんのじゃ。二人とも妾の忠実な配下なのじゃ」
「さよで。じゃあちょっと待っててくれ」
サイゾーは一度カウンター裏の本部に引っ込んだ。
「先ほどはちと怖かったが、案外話せる奴なのじゃ」
「私は生きた心地がしませんでした」
キシリッシュはやや疲れた口調で言った。
「今まで会った誰とも違うのは面白いのじゃ」
「なら短気はおやめください」
「わかっておる、わかっておるのじゃ」
絶対にわかってない、そう思いつつもそれ以上続けられないキシリッシュは胃の辺りを押さえた。
「お待たせ」
サイゾーはシャルロット関係の書類だけを挟んだバインダーを持ってくると机の上に置いた。
「ぬ? なんじゃそれは?」
「んあ? バインダーだよ。こうやって書類を挟んでおくんだ」
専用の2穴パンチで用紙には二つ穴が開けられ、バインダーのリング状金属棒に通されている。王族であるシャルロットでさえそれは初見の物であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます