第5話―王都と王城


 ミノリアは一度本部に戻って、サイゾーに確認しようと思ったのだが、どうやら入れ替わりで接客に入ってしまったらしく、その姿が無かった。


 他の人間に確認を取ろうとも思ったのだが、集配直後で誰も彼もが殺気立っていて、とても話し掛ける雰囲気では無かった。


「……と、とりあえず行ってみよう」


 どうせ入口で追い返されるのはわかっていたが、その報告はしなければならない。サイゾーはその辺がやたら厳しいのだ。


 ミノリアはいつもより若干遅い足取りで1区画……王城へと走って行った。


 ■


「うああ……」


 ガルドラゴン王国の王都に住むものなら知らない者はいない、白亜の王城を見上げて思わず声が出てしまう。王都のどこからでも見える白だがその直近まで近寄ると、その巨大さに圧倒される。王城は象徴であって、遠くから眺めるものであり、ここまで近寄ったことは初めてだった。


 王城と王都を隔てる城壁と、その二つの世界を結ぶ巨大な城門。ミノリアは威容を誇る城門へとビクつきながら近づいていった。


 城門の左右には兵士の詰め所があり、何人もの立派な装備の兵士達が出入りしている。さらに門の前には四人の衛兵が微動だにせず起立していた。


 ミノリアが近づいていくと、詰め所の兵士が近寄ってきた。


「どうした嬢ちゃん。迷子か?」


 無精髭の兵士がニカリと笑いながら彼女に話し掛けてきた。ミノリアは少しだけ安堵して、一呼吸した。


「あ、あの。メール……手紙をお届けにまいったのですが……その、宛先が……」


 なんと伝えたら良いかわからず、狼狽えながら説明しようとするがうまくいかない。


「手紙? 王城にか?」


 片眉を上げる無精髭の兵士。


「その、黒真珠薔薇館に住んでいる……シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール王女様宛で……」


 普段活発なミノリアの面影は無く、緊張で身体を強張らせていた。


「なんだと?」


 兵士の口調が急に厳しくなる。


「それはシャルロット様がご存じの話か?」


「知っておられらレルはずです」


 舌すら回らなくなっていた。兵士は口をへの字に曲げてから、一度腰の剣をガシャリと鳴らした。その音にミノリアは飛び上がりそうになったが、兵士はただ無意識に鞘に手が伸びていただけだった。


「少し待っていろ」


 返事を待たずに兵士は衛兵の所へいく。なん言か話を交わした後すぐに彼女の元へ戻ってきた。兵士の顔は驚きと警戒の混じった複雑な表情になっていた。


「確かに今日、手紙が来る事になっているらしい。シャルロット様が直々に衛兵に伝えていた。だが……」


 無精髭がミノリアを上から下まで見回す。


「手紙なのだが渡してもらえんか?」


 ミノリアは初めからそのつもりだったが、一応規則というものがある。一度は説明しておかないとあとで黒髪の会長が怖い。


「その、一応規則では本人に直接渡すように言われてはいるのですが、でも――」


 はぁと兵士がため息でミノリアの言葉を遮った。


「わかったわかった。王女直々の許可が出ているんだ。通さないわけにも行くまい。ただし詰め所で身体検査は受け手もらうぞ」


「うえぃ?!」


 思わず素っ頓狂な声が出た。


 なし崩し的に詰め所に連れて行かれ、ミノリアは隅々まで荷物を調べられる。最終的に王女に渡すメール以外の荷物はは全て詰め所に預ける事になった。そして……。


「うわぁぁ……」


 ミノリアは通用門では無く大門の前に立たされた。


 ぎしぎしと軋んだ音を立てながら大門はゆっくりと開いていく。ミノリアは自分が漏らしていないか心配になった。


 衛兵が一糸乱れぬ動きで槍をかざす。ミノリアは無精髭の兵士に連れられて、その荘厳な城門をくぐることになってしまった。


「た……助けて」


 彼女の笑顔は崩壊し、涙目になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る