第4話―王都と郵便娘


 シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール。それがロリ少女の書いた彼女の名前だった。


「ガルドラゴン?」


「うむ」


「ガルドラゴンってのは良くある名なのか?」


「妾が知っている限りで十一あるの」


「そうか……良くある名なのか」


 十一家族・・も使っているなら、名誉尊称のようなもので貴族にばらまいているのかもしれないとサイゾーは納得した。


 それにしても……まさか王国名・・・をばらまくとは剛毅な国だなとサイゾーは感心した。


「それじゃあこれが仮会員証だ。数日中に家に引換証を送るから、その仮会員証と一緒に一度持ってきてくれ。ああ、ここじゃなくても女性専用の店とかもあるからそっちでもいいぞ」


「うむ。了解した。そちらも見てみたかったら次はそっちに行ってみるのじゃ」


 サイゾーは内心「よし」とガッツポーズを取った。あんまりこのちびっ子を相手にしたくなかったのだ。


「それで、何か書いていくか?」


「いや、そろそろ戻らんと爺やに見つかるからの……一旦戻るのじゃ」


「ああ、お疲れさん」


 シャルロットの後をついて、うさ耳メイドがお約束のようにコケる。コニータが慌てて起こしていたが顔が真っ赤だった。サイゾーはそれを横目に書類を作成してしまう。最近は全て部下に任せていたが暇だったのでロリの書類は全てサイゾーが製作処理した。


 だから、すぐにこの事態に気がつく人間がいなかった。


 ■


 次の日は前日の大雨が嘘のように晴れ渡っていた。


 ミノリア・クアンタ15歳は今日も74地区を中心に走り回っていた。ミノリアはオレンジの短髪で小柄。服装は半袖と半ズボンと動きを重視している。肩から提げた巨大な革の鞄には、今日も大量の手紙が収められていた。


 彼女はサイゾーのラブ・ファインド【郵便事業部】部長レノッグ・クアンタの妹で、兄を慕い、従業員として働いている。


 最近は彼女が走り回っていると街の人から笑顔で声を掛けられ、それに笑顔で応えるという、潰れかけていた頃には信じられないような毎日を送っていた。


 ラブ・ファインドの立ち上げ初期は窓口などを手伝っていたが、今は完全に郵便に専念している。各地に設置されたポストを回り、メールや手紙を収集する。


 すると人気の喫茶店に寄ったとき、いつものように女店長から声を掛けられた。


「ミノリアちゃん。サイゾーちゃんの返事はどう?」


 女性向けの喫茶店で、サイゾーが事業を始める前に掲示板の設置を頼んだが断り、ポストの設置だけを許してくれたお店だった。


「すいません、今は3店舗でいっぱいいっぱいみたいで、新規の店はお断りしているんですよー」


 ミノリアは困った顔で答える。


「もう……あんなに人気になるなら、断らなければ良かったわ……。女神亭とか凄いんでしょ? お客さん」


「ええ、あそこは凄いですね。ランチ時なんて行列ですし」


「はぁ……失敗したなぁ……とにかくうちはいつでも掲示板設置していいからって伝えておいてね」


「はい。わかりました。それでは失礼します」


 いつものやりとりを終えると、ミノリアはダッシュで店を出た。回らなければならない店はまだまだたくさんあるのだ。掲示板は増やせていないが、ミノリアの兄レノッグが頑張って営業してポストの設置数を増やしているので、とにかく人手が足りない。ミノリアには嬉しい忙しさだった。


 担当の収集を終えると、掲示板本部であるアホウドリ亭に向かう。いつだって時間との勝負だ。裏口から本部に入ると、何十人もの従業員たちが、各所から集まる手紙を凄いスピードで仕分けしていく。相変わらずここの従業員たちは勤勉だった。


「ミノリアさん! 早く渡して!」


「はい!」


 つい見とれてしまったミノリアに従業員が声を掛ける。慌てて鞄を手渡すと、テーブルの上にひっくり返し、メールと手紙を仕分けしていく。


 そして一時間前に仕分けが終わっている手紙をミノリアに渡し返した。


「これ、郵便の分です!」


「はい! それでは配達に――」


「おっと待ってくれ」


 声を掛けてきたのはこの商会の会長であるサイゾーだった。書類仕事をしていたが顔を上げてミノリアに書類を渡す。


「これ、いつもの住所確認用の郵送物だ。ちょっと遠いからお前さんに任せる。他の郵便物は他の奴に渡せ」


「わかりました」


 ミノリアは鞄に詰めた郵便を、眼鏡の才女マルティナに別の人間に渡すように頼み、外に出た。そこでサイゾーに頼まれた書類の住所を確認して、ピタリと動きを止めてしまう。


「……え? 1区画……黒真珠薔薇館?」


 1区画。それは王城を意味していた。

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