第3話―王都とどろんこメイド


「あの……親方。タオル持ってきましたけど……」


 サイゾーがカウンターに突っ伏し、その正面で洗濯板みたいな胸を張ってふんぞり返っているという、不思議な光景に、状況を掴めないコニータが、おずおずと近づいてきた。


「ああ……そこのメイドさんに渡してくれ……」


「あ、はい」


 コニータは言われるがまま、泥だらけのピョン種族……メイド姿のウサギ獣人にタオルを渡した。


「ありがとうございま……うきゅ!」


 ウサメイドが頭を下げると、見事にテーブルの角に頭をぶつけて、その反動で背後にひっくり返った。スカートは盛大にめくれ上がり、メイドさんのパンツがM字開脚で露わになる。


「「ひぁぁぁぁあああ!」」


 真っ正面にいたコニータとメイドが同時に素っ頓狂な声を上げた。


 ……なんでハモってんだよ。


 コニータは左右にあたふたと身体を振るが、その視線は一点に釘付けになっていた。


「……コニー、掃除に戻れ。床が泥だらけだ」


「ひえ?! え、……は、はいぃぃ!」


 コニーは一度飛び上がると、慌てて部屋の隅に立てかけてあった掃除道具に飛びついた。顔が真っ赤であった。


「まぁあっちはコニーに任せるとして……、お嬢さん。すまないが、出会い掲示板は未成年の登録は出来ないんだ」


 サイゾーは出来るだけ丁重にロリ少女に語りかける。


「うむ。ならば問題無いのじゃ。妾は14歳なのじゃ」


「……なんだって?」


 少女はえへんと胸を張るが、そこに凹凸はまったく存在しなかった。どうみても14歳には見えない。


「あー……なんだ……虚偽申告は……」


「ええい! 妾は大人なのじゃ! 成人じゃ! まったくどいつもこいつも!」


 少女は甲高い声を上げながら、げしげしと地団駄を踏む。余計子供にしか見えない。


「冗談だよな?」


「事実なのじゃ! 受け入れるのじゃ!」


「マジかよ……」


 サイゾーは頭を抱える。住所を調べることは出来るが、年齢を調べる術が現状では無いのだ。お役所は嫌いだが、こういう時は心底公的身分証明が欲しくなる。


「じゃから登録するのじゃ!」


「……あー……うん、そうだな……」


 サイゾーが頭を搔いていると、タオルで泥を落としたうさ耳のメイドさんが二人に寄っていく。


「あのー、シャルロット様は確かに成人していますぅ……残念ながら……」


 残念なのかよ! とサイゾーは突っ込みたかったが、メイドさんの諦め気味の表情を見て言うのをやめた。きっと彼女も苦労しているのだろう。


「そうか……それなら、まぁ登録するか……」


「うむ。よしなにするのじゃ」


 サイゾーはため息をつきながら、書類一式を取り出す。


「それじゃあまずは掲示板の説明をするか」


「それには及ばんのじゃ。聞いているのじゃ」


「そうか? じゃあこの規約を読んでくれ、了承したらこっちの書類に記入してくれ」


「了解なのじゃ。……うぬ、まるで授業の様な文章じゃの……爺やとか隠れてないよの?」


「誰だよ爺やって……。文字は書けるか?」


「当たり前なのじゃ! おぬしは失礼な奴じゃの!」


「よく言われる」


「自覚があるんか……」


 呆れた視線を向けるロリっ娘。ぶつぶつ言いながら入会書類を埋めていく。


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プロフィール

シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール(14歳・4月・人間・女・1区)


本名(秘匿)

シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール

ニックネーム(必須・表示)

シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール

年齢(必須・簡易表示)

14歳

誕生月(必須・表示)

4月

種族(必須・表示)

人間

性別(必須・表示)

住所区画(必須・区画のみ表示)

1区画黒真珠薔薇館

職業(必須)

無職

通信番号(所持していたら必須・非表示)

100A9011


(以下、入力、表示、任意)

年収(無し)(表示)

交際ステータス(恋人無)(表示)

かっこよさ(★★★★★)(表示)

セクシー度(★★★★★)(表示)

おしゃれ度(★★★★★)(表示)

かしこさ (★★★★☆)(表示)

スタイル (★★★★☆)(表示)

金持ち度 (★★★★★)(表示)

やさしさ (★★★★★)(表示)

自由コメント(表示)

暇なのじゃ!

遊び相手が欲しいのじゃ!

ついでに彼氏も欲しいのじゃ!

色んな所に連れて行くのじゃ!

妾が許す!

======================


 サイゾーはいつものように別の書類に書き写す途中、その名前に万年筆と止めてしまった。


「シャルロット……ガルドラゴン・・・・・・?」


 サイゾーは思いっきり眉をしかめた。

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