第17話―郵便
サイゾーとななよん新聞会長のニンターはその後も細かい話を進める。
翌日には全て揃えるとニンターは約束した。
(エルフとドワーフの職人凄いな)
ならば俺も頑張ろうと、サイゾーは次に予定していた商会を訪れる事にした。
冒険者ギルドで調べた住所へ足を運ぶ。
そこは74区の中でも余り活気の無い、治安のやや悪い場所だった。かなりボロい石造りの賃貸住宅……日本風なら安アパートと言えばわかりやすいだろう。
本当にここが会社なのだろうかと、サイゾーは階段を上がっていった。
サイゾーが訪れたのは「郵便屋」だった。
そう、この世界には郵便業が存在していたのだ。
ただし、国が運営しているわけでも無く、個々が勝手に商売にしているので、まったく普及していなかった。
送り手と受け手のどちらがお金を払うのかとか、相手に届いていないとか、中身を抜き取られたとか、トラブルの話ばかりが噂として流れていた。
正直サイゾーには郵便業の実態がよくわからなかったので、まずは会って話を聞いてみようと思ったのだ。
だが、そこは安アパートの一角。サイゾーはダメな気がしていた。
「こんにちは」
「はい! 郵便ですか?!」
サイゾーが扉をノックした瞬間、ロケット弾の様に飛び出して来たのは、随分と可愛い女の子だった。
中学生くらいの見た目で、オレンジの短髪。スレンダーだがやや小柄。もう春になったとはいえ、服装は半袖に半ズボンと涼しげだった。
「えっと、ここは郵便屋ですよね?」
「はい! そうです! 手紙ですか?! 荷物ですか?! なんでも届けますよ!」
どうやら場所は間違ってなかったらしい。
「えっと、責任者の方とお話ししたいのですが……」
「え? お兄ちゃんと?」
「お兄さんが責任者なんですか?」
「あ、はい、そうです。えっと、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
中は一室で広くないが、掃除は行き届いていた。壁には手書きの地図が所狭しと貼られている。
防衛上の理由なのか、王国は地図の発行を禁止している。冒険者ギルドには当然置いてあったが、それはもちろん許可があるからであった。
見ると74区だけでなく、隣接する全ての地域まで、事細かに書き込まれていた。どうやら郵便屋としての資質は十分なようだ。
だが……。
「あ、いらっしゃい? また何か問題でもありましたか?」
目の下に隈をつけた青年が顔を上げる。疲れ切った顔だった。
「こんにちは、私はサイゾー・ミズタニと申します。少々ご相談があって参りました」
「相談……ですか? あ、私はレノッグ・クアンタです。汚いですがどうぞ」
小さなテーブルに向かい合う二つの椅子。その一つにレノッグ君が腰を下ろしたのでサイゾーもならって正面の椅子に座った。
すぐにオレンジ髪の女の子がお茶を持ってきた。
ななよん新聞とは大違いだなと、サイゾーは内心で頷いていた。
「それで相談とは?」
疲れた青年、レノッグが話を切り出す。
「ええ、実はこの度、出会い掲示板という商売をする事にいたしまして」
「……掲示板?」
「詳細は省きますが、経営するにおいて、大量の手紙のやりとりが発生する予定なのです。それで郵便を商うこちらと業務提携できればとお伺いさせてもらったのですが……」
サイゾーは思わずもう一度部屋を見回してしまった。
壁に貼られた手書きの地図以外、預かっている荷物も、届ける様子も全くない二人。内心ため息が出てしまう。
「そういうお話でしたらぜひ! 詳細をお聞かせください!」
勢い込むレノッグ君。だが少し待って欲しいと、サイゾーはストップをかけた。
「えっと、答えにくかったら答えなくて良いのですが……その、この商売、儲かってます?」
レノッグは絶望的な表情を浮かべた。
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