第15話―ななよん新聞
サイゾーが向ったのは王都74区の新聞社だ。
王都は127の区画に分けられている。サイゾーが住むのは74区画だ。この王国、区画の他に路地名などがしっかりと名付けられていて、実質住所が完成している。これは新しい商売をやる上で大変にありがたい事だった。
さて、新聞の事だが、この世界には紙が普通に流通している。最も普及しているのはわら半紙ではあったが。
薄いわら半紙、厚手のわら半紙、そして和紙に近い紙、上質紙となかなか種類も揃っている。
当然後になるほど値段は高い。逆に薄いわら半紙は大変にお安い。これも仕事に欠かせないものとなるだろう。
この王都には4つの新聞社がある。たまたまその1社が74区画に存在するのだ。
もっとも4社の中ではもっとも小さい規模なのだが、逆に相性は良いはずだとサイゾーは考えていた。
到着したのは石造りの古い四階建ての建物だった。
看板には「ななよん新聞」と派手に記載されている。
「こんにちは、すみませんが責任者の方はいますか?」
営業口調でサイゾーは入口から首だけを中に突っ込んだ。
「ん? いますけど、貴方は?」
入り口を覗き込むと木の板をもの凄いスピードで彫り込んでいたエルフの男性が顔を上げた。今彫っているのが新聞の原版なのだろう。毎日彫り込むのだから大変だ。
「少々相談がありまして」
「相談ですか? わかりました、ちょっとお待ちください」
エルフはさっと上の階に移動すると、すぐに戻って来る。
「会長がお目にかかるそうです、三階へどうぞ」
「ありがとうございます」
エルフはそれだけ言うと、すぐに彫り物に戻った。
三階へ行くと扉が正面に一つ。王都でもちょっと古くさい感じの作りだった。サイゾーはノックしたあとそっと扉を開いた。
「こんにちは」
「やあやあ! 君が私に会いたいという変わり者かな?!」
ビックリした。やたらテンションが高い。両腕を広げてこちらに突進してくると、がばりとハグされた。
「どどどどどうも」
「いやー! アポも無しに人が訪れることなんてめっきり無かったからね! それでどんなネタを持ってきてくれたんだい?!」
激しい身振り手振りでサイゾーに手のひらを向けて「さあ言いたまえ」と言外に語っていた。
「いえ、今日は情報提供ではなくて、ご相談にあがりました」
「相談?」
「はい」
「ふむ……? 良くわからないが、とりあえず掛けたまえ」
堅いソファーに座るがお茶などは出てこなかった。
「それで、相談とは?」
「はい、いくつもあるのですが、ます最初に、私は出会い掲示板を運営しようと思っているのです」
サイゾーは服を整えながら笑顔で答えた。
「なんだね、それは?」
片眉を上げた新聞社の会長。
そういえば名前を名乗っていないなと、改めてサイゾーは名乗った。
「失礼しました。私はサイゾー・ミズタニと申します。自己紹介が遅れてすみませんでした」
サイゾーが一礼すると、会長は笑顔で答えた。
「ああ、私も雰囲気に流されてしまったよ、私はニンター・フーコ。ななよん新聞の責任者である!」
またもよよくわからんポーズをびしっと決めるニンター。
「ま、細かいことはどうでも良いのだよ。その
「あ、はい」
サイゾーは現在構想しているほぼ全てをニンターに語った。
新聞屋に情報を全て話すなど愚の骨頂だとお思うだろうが、サイゾーはどうしてもこの商会を味方に付けなければならなかった。
これが失敗したら、どのみちサイゾーは掲示板の運営が不可能になる。
「ほう……ほほう! それは! とても面白いじゃ無いか! 大いに結構! やりたまえ! 応援するよ! ……だが、それでウチに来る理由がわからないね?」
「それなのですが、まず、広告を打たせてもらいたいのです」
「広告? なんだねそれは?」
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