第11話―変貌
二ヶ月間の減俸。それがサイゾーに課せられた罰だった。
サイゾーは首と罰金。最悪は犯罪者として捕まることまで覚悟していたが、ギルド長から伝えられたのはただの減俸という想像以上に軽いものであった。
その罪状も規則を破って他人を部屋に泊めたという事実に対してだけだった。理由を聞けば、ベランデッドに関して闇ギルドの人間だと見破れなかったギルド全体の罪であるというものであった。
サイゾーはそこで日本人らしく自分が悪いとは言わなかった。かわりにその日以降ストイックなまでに自分の仕事を精力的にこなすことで答えた。
一切の遊びを辞め、ひたすらに貯蓄する毎日。端から見ていて仕事する魔物の様に見られるようになっていた。
サイゾーは奥底で一つの考えに行き当たっていた。
「油断した自分が悪い。ここは発展途上国と変わらないんだ。他人を信用した自分が悪い。この世界で信じられるのは自分だけだ!」
ベランデッドとの決別の日から半年も過ぎると、サイゾーの目つきは鋭く、目の下の隈が迫力を醸し出すようになっていた。
「サイゾー」
カウンターの隅に座っていたサイゾーに、金髪ロングの女エルフが声を掛けた。ディーナ・ファンネル128歳である。
「ん? ああ、なんだディーナか」
サイゾーが黒い瞳をディーナに向けると、彼女は肩をすくめて首を左右に振った。
「なんだはないでしょう? 依頼が終わったから精算して欲しいんだけど?」
「もう終わらせたのか? キュクロプスの退治だったよな?」
キュクロプスというのは一つ目の巨人で、恐ろしい魔物だとサイゾーは聞いていた。その分依頼期間も長く、ギルド側も倒すのには一ヶ月は必要だろうと試算していたのだが、わずか二週間で戻ってきたのだ。驚かない方がおかしいというものだ。
「そうよ。上手いこと罠に掛かってくれてね。後は袋だたきで終わり」
「さすが、全員B級メンバーの「短剣を咥えた鷹」だな。鮮やかだ……よし、書類は全てOKだ。報酬はどうする?」
雑談しながらも、凄まじい速筆と暗算で、あっという間に複雑な書類を仕上げてしまう。すでにギルド内では人外と言われるほどの処理スピードであった。
「パーティーメンバー全員で割って各メンバーの口座に入れておいてちょうだい」
「端数は?」
「リーダーに」
「了解だ」
ざざっと書類を作成すると、人数分の控えをディーナに渡す。
「ねえサイゾー。暇だったら一緒に飲みに行かない? これからメンバーで打ち上げがあるんだけど」
珍しく間抜け面になったサイゾーが顔を上げてディーナをぽかんと見つめた。
「な、なによ」
「いや、何となくディーナに嫌われてると思ってたからな」
「別に嫌ってなんかないわよ。それで? 来るわよね?」
腕を組んでいつものようにサイゾーを緑の瞳で見下ろすディーナ。
「……いや、お誘いは嬉しいがやめておこう」
「奢るわよ?」
サイゾーはゆっくりと顔を左右に振った。
「ありがたいがまだ仕事が残ってるんだ。楽しんできてくれ」
「そう」
しばらくそのままの姿勢でサイゾーを見下ろしていたが、サイゾーの答えが変わらないと判断すると背を向けてギルドの出入り口に向かった。
「あんまり根を詰めすぎると壊れちゃうわよ?」
彼女は振り返らすにそう呟くと、サイゾーの反応を確認せずにそのまま出て行った。
「……俺、なんかしたっけ?」
サイゾーは首をかしげた。
■
「鈍感よね……あいつ」
ディーナ・ファンネルは働く男が好みだったのだ。
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