第10話―失意


「闇ギルドって……」


 ギルド職員になって日は浅いので、詳しくは知らないが冒険者ギルドに取って、闇ギルドは永遠の敵であることは知っていた。


 闇ギルドは別名犯罪者ギルドとも呼ばれ、儲かる違法商売を取り仕切るギルドである。


 そしてマフィアと同じようにその数は不明であり、ギルドが躍起になって取り締まっている対象であった。


「うむ。現在調査待ちじゃが、間違いなかろう。ベランデッドは古くからギルドに潜り込んでいた潜伏員だったという事じゃ」


「ベランデッドが……」


 それじゃあ、俺とのあの日々は、冒険者ギルドに信用してもらうための演技だったというのか?


 サイゾー脳裏にベランデッドの土産話の数々が横切り、身体から力が抜けて、椅子に溶けるようにしがみついた。年配ギルド員たちは、呆然とするサイゾーから目をそらした。


「しんみりしてるところ悪いんだけど、ちょっと話を聞かせてくれないかな?」


 お通夜の空気が流れる彼らの元に、耳の長い女冒険者……美人エルフが声を掛けてきた。彼女は険しい表情でサイゾーを見下ろしていた。


「ディーナではないか、戻って追ったのか」


「ついさっきね。帝国から帰ってきたらこの騒ぎで呆れたわ……それでそいつが闇ギルドの人間を手引きしたの?」


 清流が流れるような輝く金髪をかき上げながら、侮蔑するようにサイゾーに視線を戻す。


「……エルフ?」


 サイゾーはいささか焦点の合わない瞳で、緑色に染められた皮鎧の金髪エルフに顔を上げた。


「そうよ、悪い? それよりも、とっとと逃げた女の情報をちょうだい。遊んでる暇はないのよ」


「……もう誰か行ったんじゃないのか?」


「時間勝負の先発隊はね。私たちがフォローしに行くのよ。何がヒントになるかわからないんだから、とにかく最初から全部思い出せるだけ話して」


「……わかった」


 一度説明したことなので、サイゾーは要領よく話を進めた。ディーナと呼ばれたエルフは翡翠の瞳で冷たく見下ろしながらも、無言で話を聞いていた。サイゾーは機械的にあったことで思い出せる全てを吐き出すと、最後にゆっくりとため息を吐いた。


「……冷静になったみたいね。少し自分のしでかしたことを考えてみることね……モイエック! こっちの情報は集まったわよ!」


 ディーナはロビーでたの冒険者と話をしていた巨大なクレイモアを背負っている巨漢に声を掛けた。男は片手を上げて答える。


「ベランデッド……仲間だと思ってたのに」


 女エルフは去り際にぼそりとそんな言葉をこぼして、巨漢へと早足で歩いて行った。その背中を見ていたサイゾー。


「……あいつも知り合いだったのか」


「うむ。ベランデッドは性格でも技術でも74地区の優秀な冒険者で……あった」


 年配ギルド員は過去形で答えた。


 サイゾーはエルフとの会話で冷静さを取り戻していた。無言で立ち上がるとそのままギルド長の元へと向かった。


「なんだ?」


「俺の知っているベランデッドの事を全て話す。役に立つかどうかわからんが……」


「そうか。よし! お前ら集まれ!」


 ギルド長は別の冒険者パーティーを呼ぶと、サイゾーに話す様に指示した。


「わかった。まずあいつとよく行った酒場だが……」


 先ほどまで冷凍マグロの様な目をしていたサイゾーの瞳に光が戻っていた。ギルド長はそれを見て、誰にもわからないように小さく頷いた。


 サイゾーの瞳は裏切られたという悲観から、騙されていたという事に対する怒りの瞳に燃えていた。


 ギルド長は内心、こいつは強くなると確信することになった。

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