第14話―ウンディーネ
その日、釘様ことスパイクは一つの書き込みに目を引かれていた。
最近はあからさまにスパイク狙いだとわかるタイトルが多かったが、その書き込みはスパイクにとって大変に心が躍るタイトルであった。それは以下のようなものであった。
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タイトル「ごく普通の一般市民の方と会いたい」
ニックネーム「ウンディーネ」
20代後・1月・ミャウ種族・女・74区
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どうも最近の女性たちはスパイクの事を貴族だと言ってしまったらしい。確かに、今まで会った女性の何人かは、スパイクの事を貴族だと見破った鋭い人間もいたが、彼女たちにはしっかりと口止めをお願いしている。
だからスパイクはどうして自分が貴族だと広まってしまったのか、ずっと不思議に思っていた。彼の中に約束を破った人間がいたという考え方は無いらしい。
注意していたつもりだが、もしかしたら自分の後をついて家を知ってしまった人がいたのかもしれないという、だれも疑わない結論に落ち着いていた。
理由の如何ははっきりとしていないが、自分のことが貴族だと知られているのはどうやら事実らしいと、スパイクは気持ちを切り替えていた。
そんな中、発見したのが上記の書き込みだった。
二十代後半ということは、スパイクよりも年上ということになるが、いろんな人と会ったことにより、極端な年齢差がなければ、むしろ年下よりも話が合うことが多いことスパイクは学んでいた。
すでにミャウ種族に対する偏見もなくなっていた。もともとスパイク自身は獣人に対する偏見はないと思っていたのだが、実際に会ってみると想像以上に獣人に対する先入観や思い込みがあったと気づかされた。
久しぶりにスパイクの地位や名誉や金を狙った女性以外に会えると心を躍らせた。
そうしてスパイクはニックネーム「ウンディーネ」に返信メールをしたためるのであった。
■
数日後、スパイクは約束の場所でウンディーネを待っていた。すると待ち合わせ場所に、長く美しいうさ耳を持つピョン種族が近寄ってきた。
服装から待ち合わせの約束をしていたピョン種族に間違いはないと思うのだが、どうも様子がおかしい。今まで待ち合わせをしてきた女性たちのように、期待の眼差しや不安の眼差しがあるわけではなく、どういうわけか目を三角に釣り上げ、近寄ってくるのである。
「あんたが釘様かい?」
「えっと、私が尖った釘ですが……」
どうやらスパイクの勘違いというわけではなく、ピョン種族の女性は彼に対して怒っている様子だった。
時間に遅れたわけでもなく、メールの内容に不備があったとも考えにくい。それまでのやりとりは大変に友好的だったからだ。
「立ち話はなんだね、とりあえずどこかに入ろうかい」
「それは構いませんが……」
スパイクはヘルディナに導かれるまま、近くの飲み屋に連れていかれた。その店は今までスパイクが入ったことのないような陰湿な雰囲気を持つ場末の飲み屋であった。
「エールを二つ頼むよ」
「え?ボクはエールは……」
「うるさいね、こういう酒場ではエールを頼むのが礼儀なんだよ」
「な……なるほど」
スパイクは納得がいかないという表情をつつも、流儀ならば仕方がないとうなずいた。
アホウドリ亭と比べると随分と形の悪いカップにエールが満たされて運ばれてきた。スパイクは何に乾杯するべきだろうと考える暇もなく、ウンディーネはエールを戻り流し込んでいた。
「あんたに会えるかどうかは、賭けだったんだけどね。上手く行って良かったよ」
どうやらこのピョン種族の女性ははじめからスパイクのことを狙っていたらしい。スパイクは若干落胆した。だがその気持ちはすぐに吹き飛ぶことになった。
「どうしてもあんたに文句が言いたくてね」
「え? 文句ですか?」
想像外の言葉に思わず聞き返してしまった。初対面の人間に言われる言葉ではないと思った。
「そうさ、あんたのおかげでうちの店は大変なことになってるんだ、責任を取ってもらおうと思ってね」
「いったいボクが何をしたと言うのでしょうか?」
「営業妨害だよ」
スパイクは眉をしかめて黙り込んだ。
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