第15話―目的不明


「あんた、一体どういう目的で掲示板を使っているんだい?」


「目的ですか?」


「そうさ、結婚相手を探しているのかめかけを探しているのか、それとも都合の良い女を探しているのかその辺ハッキリさせてもらいたいもんだね」


「あの、それと営業妨害というのに一体どんな関係があるのでしょうか?」


「ああ、自己紹介がまだだったね、私はヘルディナ・ピョン・クロンメリン。麗しき女神亭の女将さ」


「麗しき女神亭ですか? 確か掲示板が設置してある女性専用の酒場でしたよね?」


「そうさ、あんたが現れるまでは、女同士が気楽に集まって忌憚無く相談し合ったり愚痴をこぼし合ったりする楽しい酒場だったのさ。ところがあんたのせいで酒場の雰囲気は最悪なんだよ」


「すみません、やはりどうしてボクが関係あるのかがわかりません」


「だから最初に聞いたろう? あんたが掲示板を使う理由をさ」


 スパイクは無言で眉をしかめた。どうしてそこに繋がるのかが全くわからなかったのだ。


「今うちの店では、釘様……あんたに夢中なやつで溢れかえってるんだ。あんたに会えた奴らはまだいいさ、問題はいくら掲示板に書き込みをしても誘われない奴らさ。会えた人間と会えなかった人間で深い溝が出来てるんだよ」


 そこでようやくスパイクは漠然と状況を把握した。実際にはスパイクの理解と実際の状況に齟齬はあったのだが、状況的にあまり問題にならなかった。


 スパイクは自分の地位や財力だけに女性が魅力を感じていると理解したのだが、実際は彼の人格や容姿を含むすべてに女性たちが夢中になっていた。


「なんとなく理解はしましたが、ボクにどうにかできる問題では無い気がするのですが」


「そんなことはないよ、あんたがこの掲示板で目的を達成すればもう来なくなるんじゃないかと思って」


「なるほど、それは盲点でした」


「さて、改めて聞くよ、あんたが掲示板を使う理由をね」


 ヘルディナはうさ耳を震わせながらスパイクに詰め寄った。


 スパイクはしばらく腕を組んだまま無言であったが、ゆっくりと口を開いた。


「そうですね、どこから話したものか……実はボクは貴族なんです」


「ああ、そうらしいね。それがどうしたって言うんだい?」


「もしかしてご存知でしたか?」


「ああ、それもあまりあんたが自分のことを貴族だと知られたく無いようだったから、あんなタイトルで掲示板に書き込みをしたんだよ。食いついてくるかどうかは賭けだったけどね」


 ヘルディナと同じ作戦をとる人間がいなかったのは、釘様に夢中になりすぎて思いつけなかったのだろう。


 それを聞いてスパイクは、ヘルディナのことを頭の良い女性だと目を丸くした。


「それで、貴族様に一体どんな理由があって掲示板を利用するなんていうトンチキな結論に至ったんだい?」


「言いづらいことなのですが、実は最近親が大量のお見合いを持ってきまして、もちろんお相手はどの方も身元がしっかりした方なのですが、彼女たちのお目当ては私の地位であり財力なのです。それが悪いこととは思いませんが、彼女たちはそれだけが目的であり、ボクを見てくれる人は一人もいませんでした」


 スパイクはうつむきがちに話し出したのだが、ヘルディナは片手をひらひらと振って、スパイクの言葉をさえぎった。


「ああ、なるほどね。つまり自分という人間を見て欲しかったわけだ」


 スパイクは再び目を丸くしてヘルディナを見た。また話は序盤だというのにどういうわけか彼女はスパイクの本心を簡潔に言い当てた。


「た、多分そうだと思います」


「なるほどね……しかしそれだと困ったね、あんたを理解する女性が現れるまであんたは今まで通り掲示板を利用するってことになるわけだ」


「そうですね。仲の良くなった女性が何人かいますが、友達としては十分なのですが、もう一方進んだ関係となると少し難しいかもしれません。ですから掲示板の利用はもう少し続けたいと思うのです」


 てっきり難癖を付けられて無理やり止めさせられると思っていたのだが、意外にもヘルディナはスパイクの心情をくんでくれた。


「結局のところあんたが求めているお相手って言うのは、結婚相手って言うことになるんだよね」


「そうなるのでしょうか?」


「なんだい、はっきりしないね。そこら辺ハッキリしないなら掲示板を使って欲しくないんだけどね」


「す、すみません。結婚相手を探します」


「わかったよ、結婚相手が見つかるまでは掲示板を使っても良いけれど、見つかったらすぐにやめて欲しいもんだね」


「わ……わかりました。今まで自分でもどんな相手を求めていたのかよくわからなかったのです。今日から真剣に結婚相手を探してみます」


「そうして欲しいもんだね」


「でも……」


「なんだい?」


「い……いえ何でもありません」


 その時スパイクの視線が熱を帯びた物になっていることにヘルディナは気がついていなかった。

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