第5話―ダメンズの宴


 スパイクが出会い掲示板を訪れてから数日が経った。今日はニックネーム「青いどら猫」との待ち合わせの日だ。


 スパイクは庶民がよく使うだろう店を予約しておいた。


 74区画の冒険者ギルド前での待ち合わせだったのだが、ギルド自体の出入りが激しく、誰が誰やら判別が出来ない。もう少し細かい待ち合わせ方法を決めておくべきだったかと、立ち尽くしたときに、横から声を掛けられた。


「こんにちわにゃ、あんたが『尖った釘』さんにゃ?」


 そこにはやたら若い猫耳の獣人の女性がちょこんとたっていた。茶色と青のストライプの髪を、大胆にボブカットしていた。


 左右の耳の色が茶色と青で分かれているのも特徴的だった。


「えっと、君が『青いどら猫』さんかな?」


「そうにゃ」


「良かった。簡単な服装しか教えてなかったから、見つけてもらえないと思ってたよ」


「……本気かにゃ? 銀糸の入ったマントなんて、他に絶対いないにゃ」


「そうかい? とにかくすれ違わなくて良かったですよ」


「そうだにゃ! しっかし、本当に貴族さんにゃ……ビックリしたにゃ」


「……?! え?! なんで?! どうしてボクが貴族ってわかったんだい?!」


「……本気にゃ? 金糸銀糸のマントとか、貴族以外誰が身につけるにゃ……」


「いや、これは安物なんだよ。できるだけ一般的な品物を商会に頼んだんだ」


「それは……きっと頼み方が悪かったのにゃ」


「そうなのか……」


 スパイクは腕を組んで首を傾げる。出入りの商人には「一般的なデザインで頼む」と受注したはずなのだが……。


「次からこのマントはやめよう……。失礼して外させてもらっても良いかな? その……出来ればこの事は……」


「大丈夫にゃ。内緒にしとくにゃ!」


「ありがとう。それでは食事に行きましょう。庶民的なお店ですが予約してありますので」


「……庶民的な店は予約なんてしないにゃ……」


「え? 何か?」


「なんでもないにゃ! 行こうにゃ!」


「そうですね。それではこちらです」


 彼が案内したのは、最近話題の肉専門料理店だった。庶民の店だが美味いと貴族たちの間でも、話題に上っている店だ。


「うにゃ! ここは一度来てみたかったのにゃ!」


「それは良かった。ミャウ族の方は肉と魚好きの方が多いと聞きましたので。魚の美味い店は王都ではちょっと少ないですからねぇ……」


「大丈夫にゃ! すっごくうれしいにゃ! 行こうにゃ!」


「はい。それではどうぞ」


 スパイクはナチュラルに手を差し出す。「青いどら猫」ことミナーナ・ミャウ・ハーマイナ14歳は一瞬目を丸くしてから、エスコートされていることに気がつく。


「お姫様みたいにゃ……」


 うっとりとスパイクの手に、まだ肉球の残る手を乗せた。


「それではまいりましょう」


 ミナーナの目がハートマークになっていることにスパイクは気づいていなかった。


 ■


 所変わっていつものアホウドリ亭の一角、いつものダメンズが集まっていた。


 バイエル・ハーパネン「大空を翔る荒ぶるペガサス」

 モイミール・ヤヴーレク「もっくん」

 ディック・ボスフェルト「ディック」


 上からバイエル=デブブサイク勘違い野郎、モイミール=細身陰険、ディック……のエピソードはまだない。


「ようペガサス・・・・。お前も悪党だな、よりにもよってどら猫・・・を紹介するとはな」


「いやぁ……あいつ……見聞を広げたいって……だから嘘はいってない……」


 喉の奥でぼそぼそと声を返すバイエル。某騎士に見せていた無駄な自信喋りとは大違いである。これが地なのであろう。


「へへ……絶対やらせない・・・・・ので有名などら猫ね……くくく、女漁りに来たボンボンの貴族にはちょうどいいだろ。ざまぁみろだぜ」


「ふへへ……」


「そううまくいくのかな……」


 ディックだけは疑問で眉を歪めて呟いた。

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