第3話―掲示板を始める前に
スパイク・ボードウェル21歳イケメンは、出会い掲示板の前に立っていた。
黒板と呼んでいた書き換え可能な板には、大量の女性からの書き込みタイトルが並んでいる。正直に言うと、スパイクは驚いていた。これほど沢山の女性が男性との出会いを求めているというのだ。世の中という物は面白いと頷いた。
しばらく黒板のタイトルを読み続けていたが、スパイクはテーブルに戻って飲み物を注文した。
「あのー、お客さん、何か問題でもありましたか? ボクは掲示板の従業員なので相談に乗りますよ?」
話しかけたのは宿屋のウェイターまで手伝わされているコニータであった。
「ん? ああ、給仕ではなかったのか?」
「えっと……掲示板の方が手際が悪くてこっちも手伝わされてます……まぁおかげでお給金が減らされてないから有り難いんですが……。ああ、マルティナさんみたいにガンガン給料上がらないかな……」
「よくわからないが、苦労しているみたいだね。……いやね、まだシステムに慣れていないのもそうだけど、あれだけ沢山書き込みがあると、誰を選んで良いかわからなくてね……」
「ああ、最初はそうですよね。もし行き詰まるようなら、この酒場の常連さんに相談するのも手ですよ」
「常連?」
「ええ、掲示板前の方はほとんどが利用者ですから」
「……なるほど」
確かにわからないことは経験者に聞くのが一番かも知れない。貴族だとバレないようにだけ注意すれば問題無いだろう。と、貴族臭丸出しの市民系デザイン服を着込んだスパイクは考えた。
すでにバレバレであるとは欠片も考えていなかった。
「君がおすすめの利用者はいるかい?」
「すいません、その辺は個人情報になっちゃうので何も言えないです」
申し訳なさそうに頭を下げるコニータを見て、スパイクは逆に「ほう」と感心した。この話の流れで、かつ良く考えなければ個人情報に当たると思えないような事まで認識しているとは、よほど厳しく躾けられているに違いない。
「ああ、それはすまなかったね」
スパイクは銀貨を握らせると、コニータは少年らしい笑顔で給仕に戻った。
一人残されたスパイクは、やや考えた後に、掲示板前で黒板のタイトルを肴に酒を飲んでいる四人組みに声を掛けることにした。少々気品に欠ける集団ではあったが、今の自分も庶民なのだから相手に会わせるべきであろうと、スパイクは内心頷いていた。
スパイクがその集団に近づくと、彼らは覿面に嫌そうな表情に変わる。
「やあ、息災ですか?」
スパイクとしては気軽に声を掛けたつもりだったが、彼らはより表情を厳しく……警戒色を放っていた。
「なんだ?」
集団の一人、細身の男が用心深く返事をする。
「いえ、実は私はごく普通の一般庶民なのですが、この掲示板の使い方がいまいちわからないもので、よろしければご指導いただけたらと思いまして」
集団の男たちは思わず仲間内で視線を交わす。普通一般人は自らを
「おっと失礼しました。……君! ここで一番良い酒を彼らに!」
「え?! 一番ですか?! わ、わかりましたぁ〜」
ちょうど近くにいたコニータが慌てて酒場のカウンターに引っ込んでいった。
「……どういうつもりだ?」
細身の男が疑念満載の声色で尋ねる。
この男の名はモイミール・ヤヴーレク30歳。かつてマッシュに絡んで襟首を掴まれた男である。掲示板初期からの利用者だった。
今日はポイント切れで、給料日まで指を咥えて美味しそうな書き込みを肴に安酒をあおっていた所だ。
そこにやって来たのが胡散臭い貴族らしき男。警戒するなという方が無理な話だろう。
「言葉通りの意味ですよ。お近づきの印です」
運ばれてきた、この店で一番上等な酒……琥珀色の蒸留酒が彼らの前に並ぶ。普段飲むことの出来ないフクイクたる香りに揃って喉を鳴らす男たち。
「い、いいのか?」
「もちろんです」
屈託の無い良い笑顔で進めるスパイク。イケメンの笑顔だが外連味が無いせいか、嫌悪感は湧かなかった。
「んじゃ……くはぁ! うめぇ! たまんねぇなおい!」
小さなグラスに注がれた指一本分の高さの酒で、銀貨二枚の価値がある。
「おや、皆さんお強いですね。君、同じ物を」
「ふああああい」
すると現金なことに男たちの表情は緩みスパイクをテーブルに招き入れた。
「んで? 何が聞きたいって?」
「ええまずは……」
こうやってスパイクは持ち前の性格で居所を確保したのである。
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