第7話―はじめてのメール


 正面の小窓が開くと、先ほどの従業員が顔を出す。


「返信メールですか?」


 マッシュは激しく頷いた。


「初めてなので説明しますね。まずこちらが専用の封筒になります。宛先などは書き込まないでそのままでお願いします。何かを書き込んだ場合は弁償して頂きます。繰り返し使いますので。管理番号が記載されています。全てこちらで管理して、お相手にメールをお届けします。中身は訴えがない限りチェックいたしません。衝立に張ってある注意文をよくお読みください。この掲示板のお相手は、現在どこかの窓口に待機していますので、だいたい1時間半から2時間後にはマッシュ様の返信メールを受け取る事になります。ちなみに窓口で待機していない場合は、自宅へのお届けになりますので、メールの到着は後日になります」


「ああ、なるほど、それでさっきの男性は受付に酒場に待機すると言っていたのか」


「はい。お相手がいつメールを出すかは、お相手次第なのですが、マッシュ様は本日中の受け取りを希望しますよね? 待機してもらったほうが良いと思います」


「今日の約束になっているからな、そうさせてもらう」


「わかりました。その様に手続きいたします。次の集配まで30分ほどなので、返信はそれまでに書いて頂いた方がいいかもしれません」


「わかった。忠告感謝する」


「返信メールは20ラブポイントです。わら半紙一枚と、インクとペンの利用はサービスです。わら半紙を追加したい場合は1ラブポイントです。……言い忘れていました、お相手は女性ですから、マッシュ様のプロフィールを閲覧出来ますので、手紙にプロフィールを書く必要はありません」


「了解した」


 スタッフはインク瓶とペン、わら半紙と厚手の封筒をマッシュに渡すと、静かに小窓を閉めた。


 マッシュはしばし瞑想したうえで、以下のように手紙を書いた。


======================

 こんにちはえりか様。


 掲示板を拝見しました。

 たまには飲んで仕事の憂さを晴らしたい時もあ

りますよね。


 私で良ければお付き合いします。

 美味しいお酒と料理を味わいに行きましょう。


 今日は窓口で待機しますので、お返事をいただ

けたらと思います。


 74区画とその隣接区画であれば、地理に詳し

いので、待ち合わせ場所を指定して頂けたら、ど

こにでもお伺いします。


 それでは返信お待ちしております。


                  マッシュ

======================


 そこまで書いて、慌てて最後の「マッシュ」を塗りつぶし、ニックネームの「すまっしゅ」と書き直した。


 新しいわら半紙をもらおうかとも思ったが、間違った文字を塗りつぶすのは普通の事なので良しとした。


 3度文面を見直してから、小窓を3回ノックした。


 スタッフに全てを渡すとブースから出て、酒場に戻った。


 返信が来るまで早くても2時間から2時間半かかるのか……。


 マッシュは空いている席に座ると、弱めの酒とつまみを注文した。


 落ち着いてみると、酒場の様子が良くわかる。男性客のほとんどが、そわそわと酒を飲んでいるか、掲示板の黒板を睨み付けている。


 中には丸テーブルで持参したらしきインクとペンを使い、わら半紙に一心不乱に何かを書き付けている奴までいた。


 出会い掲示板【ファインド・ラブ】のシステムを大まかに理解した今、彼らが全員会員だと判別出来る。


 どいつもこいつもまったく……。


 マッシュは自分の事は棚に上げて、浅ましい彼らに内心ため息を吐いた。

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