第6話―はじめてのファインド・ラブ


「じゃ、じゃあさっそくだが……この18番の書き込みを読ませてもらおうか」


「はいはい、んじゃ横の扉から1番のブースにどうぞ」


 マッシュが「18番」と言った時、酒場の男たちの一部がニヤツキ始めたのだが、カウンターを向いていた彼はそれに全く気がつかなかった。


 マッシュが扉を潜ろうとすると、ちょうど入れ替わりで、先ほど扉を潜った太めの不細工男が出てきた。彼はカウンターに一言。


「きょ……今日はメールの返事があるまで……この酒場に……いるから」


「了解だぜ」


 黒髪の青年がスタッフにその事を指示していた。


「マッシュさん、入って良いんだぜ」


「あ、ああ」


 マッシュは扉を潜った。細い通路に簡易的な衝立で区切られたスペースが並ぶ。その1番と書かれた場所に行くと、椅子と机代わりの板だけがあった。かなり狭いスペースだった。


 横のスペースに人がいるらしく、出来るだけ静かに席に着いた。すると正面の壁が突然開く。ギョッとするマッシュだったが、木で作られた仕切りは、窓のような作りになっていた。


 そこから若いスタッフが顔を覗かせる。


「これが18番の掲示板です。この用紙を破ったり持ち帰ったりした場合、冒険者ギルドに訴えますのでご注意ください。もしわからない事があったり、こちらの書き込みに返信メールを出したい場合はこの小窓を3回ノックしてください。すぐお伺いします。特に初めての方は、利用方法がわからない場合が多いので、お気軽にどうぞ」


「あ、ああ」


 きっと定型文なのだろうが、よく仕込まれている。このシステムを考えた奴は相当頭が良いはずだ。


 マッシュはそこまで考えて、そう言えば、黒髪の青年が自分で考えたような事を言っていた事を思い出す。


「まさか……な」


 俺より若い奴にこんな複雑なシステムを考えつくわけが無いと、忘れることにして、目の前の用紙に目をやった。


 本人は軽く見ているつもりで、端から見たらガン見のレベルだった。


 掲示板用紙にはこのように書かれていた。


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タイトル「今夜9時に一緒に飲みに行きましょう?」

ニックネーム「えりか」

20代前・3月・人間・女・74区

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 こんにちは!

 えりかは教会の治療院でお手伝いをしています。

 仕事にはやりがいを感じていますが、おじいち

ゃんおばあちゃんの相手ばかりです。


 たまにはもう少し若い方とぱーっとお酒でも飲

みたいな!


 30代までの人で、私と楽しい時間を過ごして

くれる方はいませんか?


 でもえりかはちょっとだけ貧乏なので、ご馳走

してくれると感動しちゃう!


 えりかと楽しい時間を過ごしてくれる優しい男

性の方、ぜひメールください!


 今日は女性専用の酒場で、メールを直接受け取

れるように待ってますので、夜7時の集配に間に

合うようにメールください!


 そうしたら待ち合わせ場所と時間、服装を書い

て返信します!


 それでは優しい男性の方、お待ちしてますね!

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 マッシュはその掲示板用紙を、3度読み返し、3度唾を飲み込んだ。


 こ、これは……なんて美味しい・・・・んだ!


 と、心の中で歓声を上げていた。


 どう見ても男性との出会いに飢えている若い女性!


 もし普通に暮らしていたら、たとえ気に入った女性に出会ったとしても、一緒に二人だけで飲みに行くまで、どれほどの労力と金がかかるか……。


 それを全てすっ飛ばして、いきなり二人っきりでの飲み!


 これで期待しない方がどうかしている!


 ふと、左右を区切っている衝立を見ると、返信メールの説明があった。


『掲示板に返信メールを出したい方は正面の小窓を3回ノックしてください。すぐに用紙と専用封筒を持ってお伺いします。メールの中身は閲覧いたしません。王国法に違反する事や、助長する事、相手を傷つけるような書き込みを禁止いたします。また、相手の個人情報をしつこく聞く行為も禁止します。もし女性側から違反していると訴えがあった場合、スタッフがメールの中身を閲覧いたします。必要があった場合、注意喚起や会員登録の抹消、場合によっては冒険者ギルドに訴えますのでご注意ください。返信メールには20ラブポイント必要です』


 マッシュは迷わず小窓を3回ノックした。


 これが誰かの罠とも知らずに……。

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