第5話―はじめての会員証
黒髪の青年が手続きを終えると、書類を受け取った従業員がすぐに何かを持ってきた。
「どうぞ、仮会員証だ。無くさないようにな」
「これはなんだ?」
「冒険者ギルドのギルド証と同じような物だと思ってくれ。わざわざ破れにくい上質紙を使っているからな。掲示板を利用する時にはその会員番号が必要になる。もし会員証を無くしたら、会員番号と手数料をもらえれば登録住所に仮会員証を届ける」
「直接くれれば良いじゃ無いか」
「受付が常に俺とは限らないし、さすがに流石に会員全員の顔を覚えてはられねーよ。会員番号はランダムで発行されるから、適当な数字を言ってもまず引っかからないしな。全ての会員番号は大切に保管している。記載された住所に届けたら、本人に届くだろう?」
「ならそこで本会員証を再発行すればいいじゃないか」
「まぁ適当に数字を言ってかち合う可能性は無いが、例えばマッシュさんが誰かにその会員証を見せて、番号を覚えられていたらどうだ?」
「ああ……なるほど、こっそり再発行することも出来るのか」
「だが、仮会員証が届くのは正規の会員の住所にだ。普通に考えたら別の人間は受け取れない」
「なら仮の必要は無いだろう」
「それだと会員証が2枚になっちゃうだろう」
「ああ、そういう事か……だが、無くしたと騙している可能性もあるんじゃないか?」
「新しい会員証には新しい会員番号が当てられる。古い会員番号はブラックリスト入りするから、使ったら速攻で冒険者ギルドに突き出すぜ? そういう契約をギルドとしている」
「なるほど、よく考えている。会員番号を忘れた時はどうなるんだ?」
「新たに入り直してもらうしか無いな。その時は無料ポイントはつかないぜ?」
「それなら忘れたふりをして何度も作れば良いんじゃ無いか?」
「その為に住所を登録してもらってるんじゃ無いか。ああ、今渡した会員証は仮の物だ、明日には登録住所に書類が届くから、それと一緒に受付に持ってきてくれ、本会員証を発行する」
「少々面倒だが、そこまでしたら安心だな」
「ま、騙そうとしない限りは全く安全で、問題の無い嬉しいシステムさ」
マッシュは良く出来ていると頷いた。
「んでマッシュさん。さっそく何か掲示板を読んでいくかい?」
「え? ああ……うん……そうだな……いやまて、この酒場には男ばかりだが、その割に女性の書き込みが多くないか?」
もちろん女性も隅の方に固まって集まっていたりはするのだが、全員が書き込みをしたとしても、黒板に並べられた書き込みの1/10にも満たないだろう。
「ああ、それには秘密があるんだ。それこそがこの掲示板の最大の特徴と言えるな。まずこの掲示板が設置されているのは、この酒場以外に2つある」
「なんだって?」
「それぞれには窓口があって、まぁここよりだいぶ狭いんだが、同じ手続きが出来る」
「それは全部74区画の話か?」
「ああ。今はまだ74区画だけだ。最近までは会員受付も74区画限定だったんだが、要望が多くて解禁した所だ。ここを含む3カ所以外には、喫茶店なんかに
青年が指を差したのは「ポスト」と書かれた木の箱だった。マッシュも気にはなっていた。赤く塗られたその箱には小さな
「女性だけのサービスになるが、掲示板への書き込みは、指定用紙に記入してそのポストに放り込んでもらっても良い事にしている」
「女性だけか?」
「ま、こういうのは男性の方が悪戯しやすいだろ?」
マッシュはわかったようなわからないような表情を浮かべる。
「そもそも男性が掲示板に書き込みするにはラブポイントが必要になるしな」
「ちょっとまて、またポイントか?」
「そりゃそうだ。システムを利用するんだからな。でもたったの10ラブポイントさ」
「そうか」
100ポイントもらって使うのが10ポイントなら、そんなに大したことは無いな。とマッシュは頷いた。それが泥沼に片足を突っ込む思考とも気がつかずに。
「ポストや受付に出された掲示板書き込みやメールは1時間に1回、全て回収されてこの本部に集められる。そして掲示板書き込みは全てスタッフの手で書き直されて、3カ所全ての掲示板に同じ文面で貼り付けられる。女性の書き込みは張り出されず、黒板にタイトルとそこに書かれた最低限の情報だけが開示される」
「凄い手間だな」
「だろ? ちなみに酒場の一つは女性専用酒場に設置してある」
「なんだって? もしかして「麗しき女神亭」の事か?」
「さすが警備兵だな。よく知っている」
この区画に初めて出来た女性専門の酒場で74区画では有名な店だ。警備兵であるマッシュが知らないわけが無い。
今、この酒場で男たちが掲示板の前にたむろする様に、向こうの掲示板の前に女性たちが群がっている光景を想像して、マッシュは唾をごくりと飲み込んだ。
それを見て黒髪の青年はニヤリとほくそ笑んでいた。
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