第7話 再びとは

 「おはようございます。本日は曇り。あまりよいお天気とは言えませんが過ごしやすい気温でございます。」

私の朝の仕事は朝食を作り、旦那様にお声をかけることだ。

旦那様は大きな近年成功した会社の社長をしておられる。

元々は大旦那様と大奥様が住まれていたこの家に戻ってこられて1ヶ月が過ぎようとしていた。


 「おはよう。今日は浅木あさぎはもう来たかい?書類を届けるように伝えたのだが。」

事件のあと、こちらに来られてからも旦那様は奥様のおそばを離れないようにしておられる。会社のことは副社長と秘書の浅木と言う男がなんとかしている。


 私は、来られた日から眠っている奥様しか目にしたことがない。

旦那様が仰るに時折目を覚ましておられるようだが、どうやら夢の中で幸せな日々の続きを過ごしておられるらしい。

「はい。こちらです。4時頃に再び伺うとのことでしたが、書類に急ぐものはないそうです。」

「そうか、朝食を摂ったら部屋にこもる。昼に声を掛けてくれ。」

「かしこまりました。」

「斉藤、コーヒーを。」


 旦那様に使えていたのは弟の怜だった。私が使えていたのは大旦那様だ。大旦那様も大奥様も亡くなられ、私はこの家を保つためだけに雇われていた。斉藤維智さいとういちの名は大旦那様がくださったものだ。

幼くして捨てられた私たち兄弟には斉藤という氏以外しか持っていなかったのだから。


 「では、家のことは任せたよ。」

そう言って旦那様は部屋へと戻って行かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る