第6話 存在とは

 奥様はあの日から部屋から出てこられなくなった。

旦那様はできる限り奥様と一緒に過ごされている。


 部屋をノックする。

「旦那様、奥様、お食事はいかがなさいますか?」

しばらくの無言。

「・・・・・・。斉藤、すまない。タオルと救急箱を持ってきてくれ。」

扉の向こうから声がした。

「わかりました。」


「お持ちしました。」

扉を開ける。

そこには、血を流す奥様とそんな奥様を抱きしめる旦那様がおられた。

「いかがなさいましたか?私に何かすべきことはございますか?」

「いや、大丈夫だよ。・・・、なぁ、どうしてこうなったんだろうな・・・。」

日に日に憔悴していることが私にもよくわかっていた。

「旦那様・・・。」

壊れた家はひどく空気がよどんでいた。

「斉藤、本宅に戻ろうと思うんだ。おまえは、この家をハウスキーピングしてもらえないか?」

そう言って、旦那様は私の首に手を伸ばした。

「すまんな。」

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