再婚

徳川家康は正室を二度持った。一度目は今川義元の姪で築山殿である。二人の間には信康が生まれたが、築山殿と信康が武田と通じているということが信康の妻で信長の娘に伝わり(ややこしい)、信長は家康に築山殿と信康を殺せという命令が出た。家康はしぶしぶこの命に従い、妻と子の二人を同時に亡くした。

そしてもう一人が秀吉の妹朝日姫である。


甚兵衛が去ってから、朝日は食が細くなっていった。

「たべねーと力が出ねーよ」と大政所やおねが諭したが日々やつれていく。


この間にも家康と朝日の婚礼の話は進んでいる。酒井忠次を介して家康に伝わり、家康はこれを承知した。

家康の代理として榊原康政が結納を交わし、150人余りの花嫁行列は京を出立した。

そして家康の居城浜松に着いた。

「長旅ごくろうであった。さぞ疲れたろう。われらは今日から夫婦(めおと)。お互いをたすけあっていきましょうぞ」家康はこう話しかけた。

「よろしくお願いいたします」朝日はこう答えた。

このとき家康45歳朝日44歳だった。当時の(あくまでも当時の)感覚でいえば「おお年増」ということになる。



「家康はまだ来ないのか?」秀吉は焦っていた。

せっかく可愛い妹を嫁に出したのに、家康はまだ上洛する様子はなかった。

しかし、戦いたくもないのが正直な気持ちだ。秀吉と家康は「小牧長久手の戦い」で戦っている。しかも秀吉は負けている。

秀吉に勝った家康を服従させてこそ天下統一がなせるのである。

それだけに強気にも出れない。


どかどかと大きな足音をさせながら歩いてくる人がいる。

大政所、つまりは秀吉の母親「なか」である。

「おっかぁ。どうしたんだ?」

「おらがいく。」

「どこへ?」

「朝日の婿んとこだ」

「朝日を取り返してくる」なかの鼻息は荒かった。

これには秀長、おねも反対した。

「なんで、あんたはわからんの?こんなことして取った天下がどんな天下になるか?」おねは責める。

「おねさん、心配してくれるのはありがてぇが。朝日の顔も見たいし、その婿の顔も見てぇ。朝日の事が心配でならねぇだよ」

「おかあさま」

「わかったな?藤吉郎。早くしたくさしろ」


こうして「大政所」も家康の人質に出された。

家康は大政所を出迎えた。朝日はこの頃病がちで寝込んでいた。

「これは母上様、お初にお目にかかります。徳川家康でござる。」

家康は深々と頭を下げた。

「おめぇさんが婿さんかい?ところで朝日はどこだ?」

「最近病がちでふせっております。」

「どこだ?案内しろ」

「ささ、こちらに」

といって家康は案内した。

部屋は豪華絢爛であった。

なかの姿をみつけると、朝日は起き上がり

「おっかー」といってなかに抱き着いた。


「これで上洛せねば、戦になりますな」

本多正信は家康にささやいた。

「すぐに上洛の支度をせい」

「は」




そして家康は上洛し、諸大名の前で秀吉への忠誠を誓ったのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る