妄想の渦

風俗

本野は、とてもおとなしい。おとなしすぎる。

積極的にひとに話しかけるようなことはしない。

人見知り、ではない。かれのあたまのなかには

美しいイマジネーションがひろがっているし、

どくとくのユーモアとジョークもあり、

コミュニケーション能力はどちらかというと　ひとより

長けているのである。

　本野はC学園に通いながら 自宅からすこし離れた

繁華街の風俗店で　パブリック無料風俗嬢をしている。

C4地区では公営の風俗店が数店舗ある。もうずっと

長いこと試験運用の状態のまま、無料で性的サービスを

提供している。私営、公営にかぎらず無料風俗は

あるが、C4地区市長が無料風俗モデルを考案し

とくにアナウンスもなく、実質秘密裡に始まった経緯

がある。

　本野はふだん人からかわいい、美人、美男子という

評価をもらうことはないが、生活に思いつめてもいない

切迫した経済状況でもない　バイトぐらいの気持ち

で風俗の世界へ入った。その若さが数人の固定客を

獲得したようでもあるし、勤務しているうちにこなれてきて

とても化粧栄えした魅力を発揮しはじめる。からだつきまで

ふしぎと妖艶になってくる。

　山本と田永はそれとなくそんな本野の事情を承知している

あえて詮索も言いふらすこともしない。

　一度学園のクラスメートがお客さんにはいったことがあった。

むこうは気づいていないようだった　その人物とはしゃべった

こともなく名前もはっきりおぼえていなかった。

　風のうわさで近いうちにC4地区に結婚三人組制度が

施行されると本野は聞いた。ぼんやり、そのときの

クラスメートとのプレイを思い出し、思い当たる三人組

のうちのひとりはそのひとになるかな　と未来を描いた。