妄想の渦

出発

田永のかっこうはひどい、そう連れ添って歩いている本野に

しゃべりかけ、笑顔をふりまく山本。本人の田永もまた、

わるい気はしないよと、ほほえんだ。

　山本ら三人は今GG909地区どまんなかを突っ切る　国道97号線沿い

を歩いている。片側三車線の広い道路。

　三人は同じ学園に通う同級生。C学園の　田永はプログラミングコースの

上級クラス、本野と山本はおなじ一般情報処理コースに所属している。

田永は学園トップクラスの秀才であるが、本野と山本は　入学も早々

ドロップアウトしている。C学園は財政のきわめて豊潤なC4地区にあり、

ほぼ学費は無料で、きわめて自由な校風がただよう。

　山本は入学式が行われるより前に１年の自宅謹慎処分を下され、

初登校するまえに謹慎処分って、いったい何をしたんだ、と

その処分理由がいまだだれも知らないところと、その素行不良

ぶりに　最速で悪名たかい伝説をつくった男。もちろんリーダー格

である。

　山本と田永はよく話が合う　おもにハッキングの手法について。

山本の知識は田永のそれにとても追いつかないが、山本は若い時分

生活費をハッキングでまかなっていた地質が　田永からしても俺以上の

素質とセンスを持っていると、認めている。

　プログラマー・ハッカー C4地区に限らずたいていの人はその職に就く。

むろん全員がではないが、ただでさえ狭き門。プロの道はほんとうに

険しい。アルバイト形態がほとんどである。

　国道沿いを歩いていた山本がフラフラ道のまん中へ出て行く。田永

本野は黙って見ている。広い道路の向こうから、小型乗用車が

向かってくる　山本はそちらを向いたまま棒立ちだ。

　運転手もすぐ気づいた　クラクションをこれでもかと鳴らしながら

山本へ突っ込んでくる。３メートルほどの距離を開けて車は停まる。

山本はパワーウインドウを開けさせ、ひとことふたこと運転手に

伝え　田永と本野に手招き　合図した。