第25話 衝撃and衝撃
「……大丈夫か?」
「ええ……なんとか……」
ラケルはそういうが、かなり危ういのは目に見えて明らかだ。
実際、今朝から背負われたまま、俺のこの問いに弱々しく同じ返答をするだけの状態になっている。
城から離れてすぐ、ラケルの状態が思いのほか悪いことにはすぐに気が付いた。
とりあえず、ネートル村に一緒に来てもらおうと思い、一気に駆け抜けようとしたのだが、その風圧と振動のせいで、次第に眉間に深いシワを刻み込んでしまっていたからだ。
城からの追っ手も、まぁあれだけ派手にやったおかげで、体制を立て直すことに必死なんだろう。
一向に向かってくる様子もない為、揺れを少なくすることを意識しながらの駆け足移動に切り替えた。
最初はきつそうながらも話せるほどではあったため、お互いの名前を名乗り合うことと、俺の仲間がいる場所にこのまま来てもらっていいかの確認……などは済ませたのだが、そこから先が……
途中なんとか水は飲んでいたが……もうそれも怪しいだろう。
クソ……
こんなファンタジーの世界なのに魔法が使えない己が恨めしい。
それに、カバンすらない。
あの中をあされば、リリスの事だ。
もしもの時のため! みたいな感じの回復薬的な物も入っていたかもしれない。
ないものねだりをしても仕方ないとは思うのだが、命がかかってるんだ。
したくもなる。
とはいえ、まぁこんな身体のおかげで休みなく移動した成果はもうすぐ報われそうだ。
「あと少しだ! 持ちこたえてくれよ」
村に行けばきっと何とかなる。
リプスも恐らくだがもう帰ってきているだろう。
リプスならば回復魔法が使えるはずだ。
それに、もし、まだ仕入れを頑張ってくれていたとしても、イヴにはリリスの店へのベルを預けてある。
容態は悪くなる一方だし、少し負担は増えるが致し方ない。
俺はスピードを2段階程上げて、村へと急ぐのだった。
「よし! ここを抜ければ村が見える!! ここから一気……に……?」
森を抜け、開けた丘の上に小さく見える、ネートル村を見据えて、思わず俺の足が止まる。
「レオンさ……ん? どうか……されました……か?」
規則正しい振動と風圧が止まったことで、ラケルが僅かながら覚醒したようだ。
「あ……ああ……いや。仲間の所に到着したんだがな……」
俺の反応を不思議に思ったラケルが、弱々しく顔を上げ、村の方をみる。
「え!?」
どうやらラケルも驚いているようだ。
ということは……ラケルも見えてるのか? これが……ということは相当だな……
俺はもう一度、俺が足を止めた原因を見る。
正直……かなり禍々しい。
言葉ではとても表すことのできない”悪”の塊……とでもいうのだろうか……
だが、憎悪のようなものではない。
純粋で清らかな悪……なんだろう……この相容れない単語は。
だが、そんな言葉が俺の脳裏によぎる。
こんな雰囲気をまとった、気配というか、オーラというか。
そう言う物が、ネートル村から溢れだし、かなり離れたこの位置まで漂ってきているのだ。
これは間違いなくヤバイ――――
とんでもないことがネートル村で起きている!
何をおいてもすぐに駆け付けなければ!
普通ならばそんな状況だろうが、俺には思うところがある。
「イヴ……だろうな……間違いなく」
そう……この感じ、イヴが銃の姿にもどるときに感じたものに似ている。
何があったか知らないが、ずっと気配は探っていたが、緊急性を感じることはなかった。
大丈夫なはずだが……この状況は……
こんなオーラに包まれて、村の皆は大丈夫なんだろうか?
普通の人なら卒倒してもおかしくない……
ゾクッ―――――――――――――
そんなことを考えながら、俺が”コレ”にふれた瞬間、俺の身体に電撃が奔った。
「悪いラケル! 俺から離れッッ!!!」
落下の衝撃が最小限になるように気を付けながら、背中のラケルを俺から離れた位置に投げる。
突然のことに驚いて目を丸くするラケルがスローモーションで離れていく。
よし……あの角度ならば、そこまでの衝撃は来ないはずだ……
「――――――――――――――――まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
それと同じくして、不思議な鳴き声が凄まじいスピードで近づいてきた。
ラケルを投げることに全神経を集中させたため、こっちに対しては完全な無防備だ。
「チョットま、ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
自分でも驚くほどの正しく”変な声だ”。
寸分たりとも狂いの無い、
無防備のために、その場に踏みとどまることもできず、俺の両足は宙に浮いた。
こんな身体でもこれ程の衝撃が来れば、こうなるんだな~と他人事のように考えながら、飛びかける意識を何とか手繰り寄せる。
「レオンさん!!」
己の目の前から突如姿を消した俺を心配するラケルの声が聞こえた気もするが……
くぐもってはいるが、大きなこの声にかき消されてしまう。
「れおんさま! レオンサマ!! れおんサマ!!! レオンさま!!! レオン様~~~~~~!!!!」
俺の顔は鳩尾にはついていないんだが。
そう言いたくなるほど……全力で抱き着いてきたモノは俺の腹に向かって叫び続ける。
倒れこんだ上半身を何とか起こすと、左右に高速移動する物体がまず目に飛び込んできた。
「…………………フン!」
「ひゃあ!!??」
俺はその物体を問答無用でつかむ。
「レオン様! しっぽ掴まないで!! くすぐったいから!!!」
突如姿勢を正したいイヴが、止めてと抗議するが、俺はやめてやらない。
「イヴ……あまりの衝撃で意識とびかけたぞ……」
「え? あ……ごめんなさい。ボク……うれしくってつい……」
自分がやったことを振り返ったのだろう。
イヴはそう言いながらシュンと耳をたたむ。
「やれやれ……俺以外にすんなよ? 多分その相手……死ぬぞ?」
数日ぶりに感じるイヴの髪の感触はやはり心地いものだ。
「!? しないよ!!?? ボク、レオン様以外にこんなことしないもん!!」
必死に俺の顔をみながそう告げるイヴ。
「そっか……ただいま」
「うん! レオン様!! おかえりなさい!!!」
満面の笑みで俺を迎えてくれた。
「ちゃんといいつけを守って留守番してたか?」
「うん! 村の皆に危険が及ばないように、ボクすっごく見張ったよ!」
なるほど……すっごくね。
確かに、あれはすっごくだ。
「よくやったな。とりあえず、村に戻ろう。治療したい人がいるんだ」
「治療?」
「そうだ。リプスは帰ってきてるのか?」
「リプス? うん! 帰ってきてるよ」
「よし。じゃあ村に……」
「――――――――――――――――まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あれ? なんか聞こえてくる。
デジャブ?
でも今度は前からじゃないな……上?
俺は上空を見上げる。
「わ~~~~! レオン様!! おっぱいが降ってくるよ!!」
「ああ……そうだな……」
イヴが言うように、空からおっぱいが……いやリプスが降ってきている。
これはよけちゃ駄目なんだろうな……
「フフ~~レオン様~~!」
イヴはどうやら離れる気はないようだ。
叫び声の主がリプスと分かり、再び俺にじゃれつきだした。
高高度からの自由落下を、この座った状態でウケトメロト?
俺は覚悟を決め、おっぱいに向かって両手を広げた。
どうか……気を失いませんように――――――――――
そう願いながら。
―――――――――――――
あとがき
親方!空から女の子が!
もとい……いや……女の子でいいのか!
読者の皆様お待たせしております。
最新話掲載できました。ただ、どうしても年末年始辺りが忙しいもので、ただでさえ遅めの執筆速度が更に下がる場合があると思います……
申し訳なく思いますが、何卒ご理解いただきたく、よろしくお願いいたします。
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