第26話 ありがとう……
幾重にも展開された魔法陣から放たれる、穏やかな光が対象を包み込む。
更に小さな魔法陣が、対象の頭、腹、手、足……そして心臓の位置で規則正しく回転を行っていた。
「どうだ?」
俺は魔法陣を展開しているリプスに声をかける。
「正直に申し上げまして、この者の状態は最悪です。通常の回復魔法では、数時間持たせることさえ難しいでしょう……」
「そうか……」
「レオン様? この者……いつからこの状態に?」
「完全に意識が混濁して返答が怪しくなったのは今朝くらいからか……」
「驚きましたね……昏睡状態、もしくは死んでいても可笑しくない状態です。それも昨日今日ではなく……かなり以前から、そこに至るべき条件は揃っていたようには見受けられますが」
リプスがそう言い終わるのと同時に、展開されていた魔法陣が全て消えうせる。
ラケルの表情を見ると、苦痛に顔を歪ませていたさっきまでとは違い、穏やかなものに変わっていた。
「どれくらいもつ?」
「もって二日……といった所でしょうか」
「二日……意識は戻るのか?」
「この者次第……と言わざるを得ないかと」
「聞きたいことがあったんだがな……」
待てよ? まるっきしファンタジーの世界で、魔法がある……となるとだ……
”アレ”は存在していてもおかしくないよな?
「リプスが扱える魔法の中に、蘇生魔法はあるか?」
「はい。習得しております」
「であれば、最悪の場合はそれで……」
自分で発した言葉が最後まで言い切れなかった。
最悪の場合は蘇生させればいい?
なんだこの自然と出てきた考えは……
まるっきしゲームだ。
そりゃ……魔法なんてゲームの世界でしか経験したことはないが、現実に魔法がある世界では、こんなにも命って軽いものなんだろうか?
勿論、蘇生魔法が習得者が側にいるという大前提があってではあるが、そいつがいれば……命ってこんななのか?
もしそうならば……命の重みが完全に俺が今まで生きてきた世界とはかけ離れすぎている。
俺がショックで打ちひしがれそうになりかけたその時、リプスの声で思考が止まる。
「この者の場合……蘇生魔法ではどうにもならないでしょう」
「なんだって? リプスの魔法をもってしてもか?」
「蘇生魔法の原理についてお話しする必要がありそうですね」
原理か……
確かに、これは知っておきたいし、これからこの世界で生きていくうえで、知っておかなければならないことになるだろう。
「頼めるか?」
「かしこまりました。では……この者も今は状態が落ち着いていますし、続きは村に戻って行いましょうか?」
「それもそうだな……ラケルをこのままにしておくわけにもいかない」
俺は意識を失ったままのラケルをゆっくりと背負う。
「レオン様? 村に戻るの?」
今まで大人しく俺にくっついて事の成り行きを見守っていたイヴが顔を覗き込んでくる。
「ああ……とりあえず村に戻ろう」
「イヴ? 先に戻ってフレムさんにどこか人を寝かせておける場所と、お湯を用意してほしいと伝えてくれるかしら? かなり汚れてしまっていますので、まず清潔にしてあげなければ」
「ん? いいよ! リプスはどうするの?」
「レオン様が助けたいと望まれた人物です。落ち着きましたがかなり危険な状態は変わっていません。私はこのままレオン様に付き添います。急変すれば対応しなければなりませんので……いいでしょうか?」
「うん! わかった!! じゃあ先に行っておくね」
イヴはそう言うと、あっと言う間に姿を消してしまった。
「なんというか……意外だったな」
「なにがです?」
「いや……イヴの事だから、一緒に行くって言うと思ったんだが……」
「そのことですか」
リプスは俺のこの疑問に優しく微笑んだ。
「村で留守番をしている間に、色々とあったようです」
「色々?」
「ええ……まぁ主に、村の人達からレオン様への……そして、私達への想いとでもいいましょうか。話を聞く限りでは、そう言った物に包まれて過ごしていたようなんです。それを受けて、あの子なりにこの村の人達に愛着をもったようで」
「そんなことが……よかった。でも、それと今聞き分けが良かったっていうのはつながるのか?」
「ええ! 繋がりますとも」
リプスが自信満々に胸を張る。
「この村の人々を助けると決めた御方は誰ですか?」
「え? 俺……か」
「そうです。レオン様が助けると決めた者達と過ごしてみて、自分にとっても守りたい存在に変わっていった……つまり、レオン様が助けたいと真に思った者達は、自分にとってもそういう対象になる。そういうことだと理解したのです」
まさか……ここまで―――――
「レオン様と同じ考えにたどり着けたことに喜びを感じているんだと思います」
俺の前でリプスが微笑む。
「そして……それは私も同じです。フレムさんとの買い出しの最中……私はフレムさん……そしてこの村の皆を心より守りたいと強く感じました」
リプスの手が、俺の背中で背負われているラケルに優しく触れる。
「この者も、レオン様が御助けになりたいと強く願われるのであれば、必ず……」
ありがとう――――
俺の想いをこんなにも受け取ってくれてありがとう。
こんなにも俺を受け入れてくれてありがとう……
2人と離れたこのたった数日で、2人はこんなにも成長をし、俺はこんなにも2人が大事なんだと思えた。
「さあ、村に戻りましょう」
「ああ……いこう!」
俺達は村へと歩みを進めるのだった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
大変長らくお待たせしました。
徐々に日常が戻りつつあります。
執筆時間を作れるように努力していきます!
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