第24話 大局を見据えて

様々な場所から怒号が響き渡り、人が引っ切り無しに駆け回る。


「1人だけのはずがない! 必ずまだ潜んでいる!! 探し出せ!!!」


「賊は強者だ! 必ず隊で行動し、兵装は最大の物を使用せよ!!」


どうやらレオンの仲間がまだ城内にいると考えているようだ。


「同時に防衛戦の準備を行え! こちらも最大限だ!!」


更に、レオンのあの言葉を受け、迎え撃つ準備も並行して進めているのだろう。



武器庫から大量の剣や槍、弓。更にこれは魔導師マジックキャスター用だろう。魔石がはめられた杖などが運ばれていく。


防具庫からはフルプレートにハーフプレート、ローブなど。


次々に運び出される物品たちは、迷うことなく指定の場所へと消えていくのだった。





城の内部が騒がしい中、肖像画の前で、ワナワナと顎の肉を揺らす人物が一人。


中々派手に踏みつぶされた顔面だったが、腫れあがっていたりしていないことを見るに、回復魔法による処置でも施されたようだ。


「なんなのだ! なんだというのだ!! 奴はいったい何者か!? どこから入ってきた!!!!」


眉間に突き刺さった剣を抜こうと試みるが、深くまで突き刺さった剣は、イーベルの腕力程度ではびくともせず、ただ全身から大量の汗を滴らせるだけに終わった。


「ええい! 誰も答えられぬのか!!!」


抜くことをあきらめたイーベルが勢いよく振り返ると、大量の汗が周囲に飛び散る……


「申し訳ございません……少数での潜入と思われます。綿密に練られた侵入経路だったのでしょう。いまだに素性、侵入経路共に不明でございます」


押し黙る者たちの中で、唯一、先ほどの騒動で兵士の下敷きになり、気絶していた御意見番がおずおずと返す。


「無能共が!!」


「ただ! 兵の一人が、良く似た特徴の者がバラの迷宮から出てくるのを見たと証言しております。地中などに細工が施されているのかもしれないと、今調査中でございます」


「バラの迷宮だと? あのような場所に細工など……」


「あそこはかなり難解に設計しましたからな。死角も多い。それに流石に兵も迷宮内までは通常巡回を行っておりませんので、目論見としてはあながちありえなくもないかと」


「ふむ。だがもしそうだとしても、それを許した警備隊には責任をとってもらうぞ。潜入場所の特定が出来次第、見せしめにその場所の担当の首をはねよ」


「かしこまりました……。それと……あの騒動の後、騒ぎに乗じてメイドなどをはじめとした幾ばくかの者が、城を後にしているようなのですが」


「あれの最後の言葉か……なんなのだあれは? 城の者全ての耳に入っていたが」


「はい……」


「不快な魔法を使う。去った者を後から確認することはできるのであろうな?」


「問題なく」


「ならば捨ておけ。後に全ての首をはねる」


「かしこまりました」


「しかし……本当にあれは何者なのか?」


「私の推測でよろしければ……」


「よい。申せ」


「はい。あれは……民草たみくさの事を気にしておりました」


「うむ」


イーベルは再びあの時のことを思い出したのだろう。


苦虫を噛み潰したような表情をとる。


「そこから推測されるは3点ございます」


「民草からの反乱分子……」


「然り……それが1点。しかし、あのような強者……我が領地の民草からは生まれますまい。それに、仮に生まれていたとしても、民草を連行した際に反旗をひるがえしておるでしょう。この線はない。民草から雇われた者……この線もあるにはあるでしょうが、あれだけの強者を雇うだけの金銭など、連行していった村には無い。よってこちらの線もない」


「確かに」


「次に推測されるは……王子です」


「王子とな? それは……黒耳付か?」


「その通りにございます。あれは常日頃から色々とうるさいですからな。このグレオルグ王国……さらには王の子種から生まれておりながら、なぜああ言う思考の持ち主になるのか、私めにはほとほと理解できませんが」


「ふむ……あれの指金か」


「ありえなくはない……ですが、これも線は薄いのです」


「なぜだ?」


「あの王子……あれは頭が切れる。あれはこの国を喰いかねませんぞ」


「して? その切れ者の差し金ではないと思う理由は?」


「仮に王子の差し金だとすれば、あえて名前を出して帰るでしょう。何を考えているのかわかりませんが、王子は最近貴族の周辺を探っております。ここまで大っぴらに事を動かす段階に入ったのであれば、あれは自らを象徴として事を動かし、集った者を奮い立たせるはずです。しかし、今回それが一切なかった」


「そういえば……以前、裏家業の隠ぺいが疎かな貴族マヌケを討ったのはあれだったな」


「ええ。それはそれは大層な口上を述べられておりましたな。そのこともあり、一時全土の民草が色めき立ちました」


「なるほど、なるほど。我に喧嘩を売るならば、あれは表に立つか」


「左様でございます」


「では最後の考えは?」


「これが一番濃い……恐らくは他国からの干渉でしょう」


「他国か……」


「いくつかの国は、我が国のやり方を批判しておりますからな。敏い国ならば、王子の動きを察知した所もあるでしょう。ここで……侯爵様をつまづかせれば、その動きは加速しかねない」


「確かに濃いな。大局をよく見おる」


「勿体無いお言葉」


「我に目をつけるか……中々。しかし、あの場で討たなかったのは悪手よ。もう二度とそのような好機は訪れぬ」


「本国に使いを放ちますか?」


「馬鹿をぬかすな! あれ1人に好き勝手やられた醜態、晒せるわけがなかろう!!!」


「しかし、他国となれば、どこかに兵を伏せている可能性が!」


「そんなもの蹴散らせばよい!」


イーベルが自信ありげに言い放つが、御意見番の表情は晴れない。


そう言い切れるだけの根拠がないのだ。


一国の侯爵の城に攻め入る……周到な準備をしているはず。


ましてや、城に先触れまで送り込むほどの余裕がある……御意見番はそのことを懸念していると思われる。


しかし、イーベルの態度は揺るがない。


「案ずるな。”アレ”を出す」


イーベルの言葉に思い当たることがあるようで、御意見番の表情が驚きと笑みが混ざり合ったような複雑なものに変化する。


「大丈夫なのですか?」


「このような時のために備えているのだろう? そろそろ頃合いではあるはずだ。試してみるのもよかろう……」


「許可をとらずとも?」


「成果を報告すれば、満足されるだろう。準備はまた一からにはなるが、倍の速度で行えばいいこと」


「では……」


「ああ……せいぜい大軍を連れてきてもらわないとな」



未だあわただしい城の中で、下品な笑いが響き渡る。



――――――――――――――

あとがき


レオンの叫びが城の者すべてに聞こえているという描写がありますが、


これはレオンの神としての力「天啓」によるものです。


神による、御告げになるわけですから、響く者には深く浸透します。


勿論、響かない者にはただの不気味な叫びでしかありません―――



読者の皆様に応援していただいた、電撃≪新文芸≫スタートアップコンテストですが、力及ばす、賞をいただくことはできませんでした。

カクヨムのコンテストで、最終選考対象になることはこれで3回目です。

最後の壁、当たり前ですが、高いですね……


落ち込んでいないかと言われれば嘘になりますが、これからも面白い小説になっていくように、努力してまいります。

皆様には変わらぬご声援をいただけると幸いです。

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