第21話 因果応報

斬る……斬る……斬る……斬る――――


撃つ……撃つ……撃つ……撃つ――――


罪のない村人達を、思い付きで皆殺しにしようとする奴らを。


そして、そんな卑劣な行いにも関わらず、疑問を微塵も持たないような奴らを……


兵隊達を始末していく度に、


”なぜ俺が死なないといけない?”


そんな言葉を嘆くものが後を絶たない。


俺は問いたい――


”じゃあなぜネートル村の皆は死ななければならない?”


勿論そんな質問をいちいち投げかけてはやらない。


お前等は皆殺しを良しとしたのだ。


ならば、皆殺しにされても文句は言えないだろう――



収まるどころか……より増えていく怒りに、


細剣の速度は飛躍的に上昇し、


その切っ先からはかまいたちのような衝撃波が幾重にも生まれ、


兵隊達をまるで紙切れの様に切り刻む。


銃の威力は留まることを知らず、


初めのうちはマグナム弾程の威力の魔弾を放っていたのだが、


今では着弾と同時に爆発するような物を放ち、その爆風で兵隊達は吹飛んでいく。



村に展開されていた兵隊達のうちで、俺の正面方向にいた兵隊達は全て片付けた。


だが……あのバロック卿とか言うのが見当たらなかったな……


リプスかイヴの方にいるのか?


しかし……消えて行った方向はこっちだったんだがな……



俺は感覚を研ぎ澄ます。


なんかいるな。


村から少し離れた位置に集団のような気配がする。


相変わらず感知し辛いが、そこに少しばかり主張してくるような気配がある。


強めの兵隊がいるってことだろう。


間違いなさそうだな……


村の中に残っている連中は二人に任せて大丈夫だろう。


俺はその気配の方向へと翔ける。



いた――


やはり最後方で控えている隊があったようだ。


ヘラヘラしやがって……


大方さっさと終われとか思ってんだろうな。



望み通り終わらせてやるさ――



今までで一番の速度で一気に間合いを詰め、初撃として隊の先頭に魔弾を叩き込む。


爆風で吹き飛び始める兵隊達に詰め寄ると、


2、30人を一瞬のうちに細剣で切り刻んだ。



吹飛んでいく兵隊達の表情はどれも呑気なものだ。


俺がもしネートル村に来なかったら……


こんな奴らにフレムさんやエマ……村の皆は殺されてたのかと思うと、虫唾が走る。



やはり今回も自ずと力が入り、


3度の攻撃で列をなしていた兵隊達は跡形もなく消え去ってしまった。



ごく少数を残して――



俺は残った奴らに睨みを利かす。


女が2人に……


いたな……バロック卿クズ



女2人は……少しはできるのか?


王子とエメリナほどではないが、それっぽい雰囲気はある。


おびえながらではあるが、明確にこちらを敵視している所と、立ち位置から考えて、


クズを守ろうとしているのか。


物好きっているんだな。


俺は変に感心してしまった。




「き……貴様! な……何者だ!!!」


やっとのことで絞り出し、張り上げた女の声が辺りに響く。


「我らが、バロック卿の隊と知っての狼藉か!! いや、もはや取り返しはつかぬ! すぐに全軍をもって貴様を殺す!!」



パリンッ!



そんな音を響かせてアイテムが砕け散った。


しかし、待ってみても特に変化は訪れない。


あれは王子とこの兵士が使ってたやつと同じだろうな。


「クッ! 何をしているのだ!!」


女達は動きを見せない村の方をにらみつけた。



俺はそんな面々を冷めた目でにらみ続ける。


俺が動かないので少しずつではあるが、気を取り直してきたのだろう。


女達はお互いに補助魔法の様な物を展開し、


クズを守るのに最適な陣形をとりだした。


そしてクズだが、守られていることを実感でもしたのだろうか?


ヨロヨロと立ち上がると、


濡れた股間を気にするようなそぶりを見せながら息巻いた。


「雑魚を蹴散らしたのは見事だが、さすがにそれほどの力を持っている奴だ。見抜くことはできたようだな! この2人はそう簡単にはいかない!! 相変わらず動きの鈍い奴らだが、もうすぐ村に展開している兵が来る。何のつもりで僕に楯突いたのかは知らないが、馬鹿なことをしたものだ!!! 捕らえて城で見せしめの拷問を行った末に、吊るし首にしてくれる!!!!」


何か吠えているが俺は気にせず睨み続ける。



「やっぱレオン様に負けちゃった~」

「流石です。おそらく正面が一番多かったと思われますのに」



俺の傍らに2人が姿を現した。


イヴのあの返事からおおよそ5分たったくらいだろうか?


村を囲うように配置されていた1000を超える兵隊を、


遊びながらではあるが、3人でこの時間で片付けたんだ。


上出来だろう。



「亜人種……?」

「異国者か!?」


女達が反応する。


そして、より警戒を強めたようだ。



「異国者だと? そんな奴らが何のつもりだ! お前達の処遇は変わらんが、兵達が戻ってくるまでの間に答えろ! お前達は何者だ!?」


クズは完全に本調子に戻ったようだ。


まぁ確かに聞いてみたいことは一個だけある。


付き合ってやろうか……



「何者か……か?」


初めて口を開いた俺を3人が見つめる。


「そうだな……モンスターとでも言っておこうか?」


「プッ……」


俺のこの言葉にリプスが噴き出し、


「ふざけたことを!」

「何がおかしい!?」


俺とリプスの様子を見た2人の女が怒り出した。



「モンスターだと!? 中々面白いことを言うじゃないか。その汚らわしい亜人種共……確かにモンスターだ!! 自らその様な下劣な物に例えるなど、良く分かっているではないか」


クズは腹を抱えて笑い出す。


主人のこの切り返しに、


女達もつられて笑いそうになるのをこらえているようで、


フレムさんから聞いた”人間種至高主義”と言う考えが、


浸透しているのだなと実感した。


「そろそろ兵も到着するころだろう……笑わせてもらったことだし、最後の言葉くらいは聞いといてやるが?」


「そうかい……それはそれは寛大なお心遣い感謝いたします。うれしくて股間を濡らしてしまいそうです」


この言葉にクズはバツが悪そうに、持っている大盾を不自然に自分の前に構える。


「では一つだけ……この領地の人間を集めているようだったが、集めて一体何をやってるんだ? 生きてはいるんだろうな?」


これを聞き、クズは鼻で笑う。


「何を言い出すかと思えば、そんなことを聞いてどうする? まぁ冥途の土産がそんなものでいいなら答えてはやるが、城で大きな作業をやらせている」


「作業?」


「ふん、内容まで教える義理はない」


「で? 生きてんだろうな?」


「作業をさせてるんだ、殺しはしてないさ。ただ、その作業の過程で死んだ奴は知らんがな」


「ああ……そうかい……」



俺はゆっくりと細剣と銃を構える。


これに伴って、2人の女も臨戦態勢をとった。



「全く何をしている!? いくら何でも遅すぎる!!! すべての兵に処罰を与えねば!!!」



クズは村の方を見ながらいきり立っている。



「いくら待っても来ないさ……」


「なに!?」


「兵隊は全て俺達が片付けた。残ってるのはお前達3人だけさ……」


俺、リプスは冷ややかな視線を向け、


イヴは得意気にVサインを決めて見せた。



「馬鹿なことを……」

「その様な戯言誰が信じるものか」

「気でも狂ってるのか」


そう言ってはいるが、3人の顔はどんどんと曇っていく。


あのアイテムを使ってからもう十分に時間は経過しているが、


いまだに兵隊が誰も駆けつけてこないからだろう。



「す……すぐに、駆けつけてくる! 村での遊びが過ぎるだけだ!! 惑わされるな!!」


「そうか……じゃあ待ってやる。もしまだ残っているなら探す手間が省ける。ここに集まってくれた方が俺としても楽だからな」


「チッ……吠えやがって……」


クズは面白くなさそうに、もう一度あのアイテムを砕いた。


向こうとしても仲間が増えた方がいいからだろう……


俺の待つと言う言葉を鵜呑みにして、構えをとったまま動こうとはしない。


俺とリプスは雑談をはじめ、


イヴに至っては頭の上で腕を組み、退屈そうに大あくびを披露する。


しかし、兵隊は誰一人として現れる様子はない。


10分は経過したか?


「なぁ? 流石にもういいか?」


俺は問いかける。


「まさか……そんな……まさか……」


クズはまだ現実を受け入れられないようだ。


「ええい! ここまで鈍足な兵どもなど待ってられるか!! お前達!! このクソ生意気な野郎を黙らせろ!!! 黙らせた方を父上に推薦してやる! それも最高のお墨付きでだ!!!」


女はこの言葉に自身を振るたたせる。


「私が!」

「いえ! 私こそが!!」


そう言い放ち、即座に攻撃補助魔法を剣に施しながら突っ込んでくる。



こいつらはこの世界でどれほどの実力にあたるのだろうか?


先程の兵隊達よりは腕が立つのは間違いない。


しかし、王子やエメリナの動きに比べれば、


まったくもって御粗末と言わざるを得ない。


どうやらこのクズは残念なことに、この国では地位のある人物らしい。


そんな人物についているのだから、雑魚ではないはずだが……



補助魔法をかけていたから恐らく身体的もに強化されている状態だと思うし、


剣や防具だって効果付きの物を装備しているはずだ。


装備しているはずなのだが……


遅い……



自身達が持てる最高の攻撃を今やっているんだろう。


俺めがけて何の迷いもなく剣が振り下ろされてくる。


2人の頭の中では、その剣が俺を切裂き、分断することは決定していて、


この後、クズの推薦が受けれることを想像しているんだろう。


少し口元が緩んでいるようにも見えた。



そんな2人の想像を、俺は一振りで絶ち切る――――



事切れた2人は、駆けてきたそのままのスピードで俺の横を通り過ぎ、


動きが止まった下半身から慣性でズレる形で、


上半身がズルリと前にズレ、ドサッと音を立てて落ちた後、


下半身も遅れて力なく崩れ落ちた。



俺はそのままスタスタとクズの元へと歩みをすすめ、


自身の想像していた結末とは違う出来事に、


戸惑いを隠せないまま、再び腰を抜かしているクズの太股を無言で撃ち抜く。



「ぎゃあああああああああ!!!!」



耳障りな悲鳴を黙らせようと、もう片方の太股も同じように撃ち抜く。



「~~~~~~~~~~~ッッッああ!!!!」


あまりの苦痛に言葉になりきならいようで、静かにはなってくれた。



「痛い、痛い、痛い!!!」


今度はゴロゴロと転がるので、俺が撃ち抜いた太股を踏みつけて動きを止めると、


「―――――ヒギゥ!!」


そのまま気絶しそうになっているので踏んだ足をねじり込んで無理やり起こした。


「ああががが……」


口から泡を吹きだしたが、気絶はまぬがれたようだ。


「ぼ……僕に……こ……こんなことをして……どうなるかわかってるのか……」


泡のせいでフガフガと聞き取りずらいな。


「さあ? どうなるんだ??」


「父上が黙っていないぞ……」


「父上ね……」


俺はヤレヤレと肩をすくめる。


「俺もいいか? あの村にあんなことをしようとして、どうなるかわからなかったのか?」


「な……なにが……」


「俺が黙ってない」


「いぎゃああああ!!!」


もう一度、太股を踏みつける。


「お前は村の皆を皆殺しすることを命じ、兵隊達もそれに従おうとした……だから俺もお前達を皆殺しにする。因果応報って言葉……しってるか?」


「意味が……わからん」


「行いは全て自身に返ってくるって意味さ」


「馬鹿か……お前が言っていることが本当ならば、1000を超える兵と僕が消えるんだぞ。大事になる。すぐにここのことが割り出されて、結局村は終わりだ……なぜお前があんなちんけな村に肩入れしてるのかは知らんがな。僕を見逃すならば、何とかしてやらないでもないぞ?」


痛みのせいで冷や汗をダラダラとかきながらクズは精一杯の虚栄を張る。


「知ってるか?」


「…………?」


「この辺りはモンスターが襲撃してきてるんだ。兵隊達はこの村を目指している最中、モンスターの集団に襲われ、壊滅したようです……それでいいじゃないか?」


「ヒッ……」


クズの顔が再び恐怖にゆがむ。


「リプス……炎を……」


「かしこまりました」


リプスはそういうと”あの”炎の力を俺の細剣に付与する。



「お前みたいなクズが楽に死ねると思うなよ――――?」



辺りに、この騒ぎで一番の悲鳴が響き渡った。

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