第19話 掃討開始
「な……なにが……??」
兵隊達をはじめ、村の人全ての頭上に?マークが浮かび上がる。
状況を把握できないのだ。
フレムさんを斬り捨てるはずだった兵士は轟音と共に消え失せ、
その兵士が立っていた場所に
突如として違う人物がキョトンとした表情で立っているのだから……
かくいう俺もその例外ではない。
周囲の兵隊達を確認するために逸らした視線を、
元に戻すまでの刹那ともいえる時間の間に、
既にことが終わっていたからだ。
共に驚いているリプスと顔を合わせると、どちらともなく俺達も飛び出し、
ザッ!!!
そんな音を立てながら、フレムさん達の側に降り立った。
「ふっ……増えた!?」
周囲の兵隊達から驚きの声が上がる。
あの人物同様に、動きが速すぎてまるで
俺達が瞬間移動でもしてきたようにしか見えないんだろう。
だが、俺はそんな兵隊達を無視し、フレムさんに声をかける。
「大丈夫か?」
「え……ええ……」
ケガはしてなさそうだな。
「すまないな……怖い思いをしただろうが、どうしても確認したいことがあって一部始終を見てた。村の皆の意志、確かに見させてもらった。そして、この兵隊達の行いも見た。……後は俺達に任せてくれ」
それだけ伝えると俺は未だにキョトンとしたままの人物の側に寄り、
頭をワシャワシャと撫でる。
「あ! レオン様!! リプス!!!」
イヴは俺とリプスの姿を確認すると、意識が戻ってきたようで、
嬉しそうに尻尾を振る。
「ちょっと目を離したら飛び出してるからビックリしたぞ?」
俺はイヴに問いかける。
そう……
フレムさんを斬り捨てようとした兵士を、
飛び出した速度のまま、飛び蹴りで吹っ飛ばしたのはイヴだった。
俺もこれには予想外すぎて、
フレムさんの側にいるイヴと、
今までイヴがいた俺の側を思わず2、3度見直してしまった……
「ごめんなさい……」
「いや、怒ってないぞ?」
どうやらイヴは勝手に飛び出したことを咎められると思っているようだ。
耳をシュンとたたみ、尻尾もしょんぼりして元気がない。
「もう一度言うけど怒ってないぞ? だが、なんで飛び出したか教えてもらえないか?」
俺は特に合図なんて出していないから、この行いは完全にイヴの意思だ。
どうしても理由が聞きたい。
「ん~~」
イヴは首をかしげて考える素振りみせる。
「な……なんなんだ!! お……お前達は!!!」
周囲の兵隊達を完全に無視していたのだが、
流石に向こうがしびれを切らしたようで、
俺達に向け声を荒げる。
「ちょっと……だまってろ」
「ヒッ!!??」
兵隊達は、殺気を含みに含んだ俺の視線付きの返答で縮みあがったようだ。
これでもう少し静かにいてくれるだろう。
視線を戻してみてもイヴはまだ考えている。
自分自身なんで飛び出したかわかってないんだろうか?
そんなことを俺が考えた時、
「ん~~とね……ムカムカしたから!」
ニコニコとイヴが返事をした。
「……ムカムカって……誰にだ!?」
イヴの返答に思わずテンションが上がる。
「え? あの人」
イヴは石垣で虫のように潰れ、原形をとどめていない兵士を指さす。
「おお!! で? なんでムカムカしたんだ??」
俺の詰め寄りに流石のイヴもちょっと戸惑っている。
「え……え~~とね……ボクもよくわかんないんだけど……エマが辛そうなのを見てなんだかすごく嫌な気分になったの……で……なんで辛そうなのかな? と思ったらフレムさんが斬られそうだからか……って。フレムさんも悲しそうだし、エマも悲しそうだし……レオン様もそんな皆の姿をみて怒ってたし。そしたらね……なんかね……すごく鎧着た人達にムカムカしてきて、気が付いたらここに立ってたの」
イヴは俺を見上げている。
その表情は怒られるかな……? そんな子供のような表情だ。
怒ってないって言ってあるんだけどな……
だがこれは……
「よくやったぞ! イヴ!!」
俺は思わずイヴを抱き上げ、そのままクルクルと周り、
喜びを隠すことなく表現する。
「え!? ボク褒められてるの!!??」
イヴは自分の予想と反した俺のこの振舞に戸惑いを隠せないようだ。
「ああ! イヴはフレムさんを助けようと思ったってことだろ? それはすごく良いことだ」
「そう……なのかな??」
「ああそう言うことなんだ。今イヴがフレムさんやエマに感じた気持ちをしっかりと覚えておいてくれ。そして、その気持ちについてこれからもよく考え続けてくれると俺はすごく嬉しい」
「レオン様嬉しいの??」
「おう! すごく嬉しいぞ!!」
「うん! ボクこの気持ち忘れないようにする!!」
俺がなんで喜んでるかを理解しているかはわからない。
でも、それも含めてイヴには今の行い……
そしてそれを突き動かした気持ちをしっかりと考えてほしい。
俺があーだこーだ言うのではなく、イヴが考えることに意味があるのだから――――
「イヴ……羨ましいです……」
見れば俺に抱き上げられたイヴを
恨めしそうに見つめながらリプスが口を尖らせている……
外見的には大人びているのに、
こいつもこいつでちょくちょく子供っぽいとこあるよな。
俺はそっとイヴを下ろす。
イヴは名残惜しそうな顔をすると、そのまま俺の腰辺りに抱き着いてじゃれだした。
俺はそんなイヴを片手で相手にしながら、リプスに小声で語り掛ける。
「リプス……俺がなんで喜んだかはお前なら理解してるだろ?」
「それは……はい……しております……ですが……私の場合はレオン様の命にて動きたいので……出遅れたのはその為で……」
相変わらずのふくれっ面だ……
「そうか……リプスもあいつらにムカムカしたか?」
「はい、それはもうムカムカいたしました。レオン様と私、イヴの三人で抱き合ったあの時より、不思議と私の感情と呼べる部分にも何かしらの変化があったと自分でも理解しておりましたが……今回、その変化をありありと実感できております」
あの時からリプスにそんな変化があったのか……
と言うことは……
俺はいまだ俺にじゃれついているイヴを見る。
イヴも同じ変化が起きているってことか……
「ならリプス……」
「はい」
「今から俺がやることの予想はついてるな?」
「勿論です」
「よし……じゃあそれが終わったらリプスも褒めてやるさ」
「本当ですか!?」
リプスの表情が派パッと明るくなり、両手を口の前で合わせ、
頬を染めて喜んでいる。
「ああ。 滞りなく行おう」
「レオン様の御心のままに!」
リプスの表情がいつもの涼しげなものへと変化した。
「お……お前達! いい加減にしろ!!!」
そろそろ相手してやるか……
「リプス、イヴ……」
俺の雰囲気を察して、イヴもリプス同様スイッチを入れ替え、俺の側に控える。
声をする方に視線を向けると、兵隊達は完全に戦闘態勢に入っていた。
だが向かってくるわけではない。
これはさっきの俺の脅しのせいだろうな……下手に踏み込めないんだろう。
「なんだ?」
「なんだ……だと!? お前達は何をしでかしたかわかっているのか!!??」
兵士の怒号が響き渡る。
「さあ……何かやったか?? あ~……ゴミ掃除はうちのイヴがやったな! いい子だろ? 表彰してくれていいんだぞ??」
「…………ゴ……ゴミ!?」
兵隊達は怒りをあらわにする。
俺のわかりやすいほどの挑発に乗ってくる所をみると質はそんなに高くないか……?
「フレムさん」
俺達の後方でへたり込んだままだったフレムさんに声をかける。
「は、はい!」
「立ち上がれるか?」
「ええ……もう大丈夫です」
「そうか。なら、皆で家の中へ……俺が良いって言うまで表には出るな」
「わ、わかりました!」
フレムさんと村長の奥さんが、
村のお母さん連中に支えられながら家の中へと移動し、
各家々から固く鍵をかける音が辺りに木霊した。
「行かせて良かったのですか?」
兵士の一人がさっきから俺達に怒鳴り散らしていた人物に確認を取る。
「かまわん。 どうせこの村は既に包囲してある。家の中に身を隠したところで、後で家ごと燃やせば問題あるまい。それよりもこいつだ! 亜人種など連れて……異国者か! バロック隊をゴミ呼ばわり……その代償をまず払わせる! 村人など後だ!!」
「ハッ!!」
こんな隊にもかかわらず、けなされて怒ってんのか?
道理で上からのあんな命令を鵜呑みにできるわけだ。
誇りをもって村人を虐殺できる連中ってことか……
理解できないな。
「剣と銃を貸してくれ……」
俺のこの言葉に2人は即座に俺用、そして自分用の武器を用意する。
「お前達いったいどこから武器を!? いや、そんなことはかまわない!! 即刻しまッッ……」
周囲に木霊する乾いた発砲音と共に、
まだ話していたうるさい男の首から上が消え失せる。
ドサッ……
男はそのままの姿勢で力なく地面に横たわった。
「た、隊長!!??」
残された兵隊は、隊長と呼ばれた男のなれの果てと、
俺の構えたままの銃を見て震えあがる。
「銃なんていつの武器だ!! しかも威力が異常だ……跡形もなくなるなど……
隊長と呼ばれた男への、俺からの明確な攻撃についに兵隊達は動き出した。
見れば隊の後方にいた
魔方陣の数は……10か……
回転方向は全て同一と……
まぁ予想してたことだが、たいした魔法じゃなさそうだ。
比較対象がアレアとリプスのため、
もしかしたらこの数でも一般的に見れば、たいした魔法なのかもしれないが……
「リプス、イヴ……多少は遊んでもかまわないが、羽目は外しすぎるなよ? 後……誰一人逃がすな」
「かしこまりました」
「鎧の人みんないいの?」
「ああ、いいぞ」
「はーい!」
イヴの返事を合図に俺達は動いた。
俺は正面、リプスが右後方、イヴは左後方……
各々が流すような速度で、狙いを定めた対象へと駆ける。
だが俺達の流すような速度にも、兵隊達は対処できない。
「はっ速ッ!?」
その言葉を最後に、俺の剣によって、
隊の後ろで呑気に詠唱していた
左肩口から右腹部にかけて斜めに切り裂かれ、
中身をあたりにこぼしながら断末魔の雄たけびをあげた。
そして、その中身が地面に落ちるまでの間に、
左右で同じように詠唱していた
そしてその
そんなことを繰り返していくので、俺の周囲から断末魔の雄たけびは途切れない。
断末魔の雄たけび中に、
”なんで俺が……”
そんな物がチラチラと混じっている。
その言葉を聞くたびに俺の手数は跳ね上がり、
兵隊達を必要以上により多く切り刻み、
より多くの風穴をあけた……
少し遅れて、離れた位置からも同じような叫び声が聞こえ始める。
リプスとイヴも掃討を開始したのだろう。
広場のさらに奥から俺めがけて無数の氷柱のような物が飛来してくる。
後方に控えていた兵隊も攻撃を開始したようだ。
俺が難無くその氷柱をすべて銃で撃ち落とすと、兵隊達からはどよめきが起こる。
「撃ち落とすだと!? 何なんだ!? あの銃は!! 遠距離戦は危険だ! 近距離戦に持ち込め!!」
「し、しかし! 近距離戦闘でも!!」
2人の中に温かなモノが芽生え始めている……
”俺からの命令だから……”
その一点のみで掃討したあの野盗の時との心境の違いを、
もしかしたら今、兵隊達を掃討しながら感じてくれているのかもしれない。
2人がこのことに気が付くきっかけを作ってくれたことには感謝はするが、
当たり前だが、このバロック隊、そしてバロック卿……更には領主……
こいつらの、ネートル村に限らず、領地民に対する扱いが許せない……
報いは受けてもらう……
氷柱を放ってきた連中はいまだ作戦会議中のようだ。
呑気な連中だな……
俺は一瞬で間合いを詰めると、掃討を再開するのだった。
―――――――――――――――――
補足
イヴは本能に正直な子ですので、本編のようにレオンの指示はありませんでしたが、
飛び出していきました。
リプスは理性で動く子です。そのため、助けたいとは思っていたのですが、主人であるレオンの命令を待っていました。
で……レオンですがフレムさん達を助けるのは当たり前として、
兵隊達も場合によっては助けられるのではないか?と考えていました。
理不尽で残忍な上からの命令も、恐怖などで支配され、逆らえないのであれば、
上だけ始末すれば済むか……そういうことを確認してました。
結果は皆さんが読んでいただいた通りです。
そして、助けに入ったタイミングですが、
イヴが助けに入ったタイミングでもうすでに兵士の剣はフレムさんの眼前に迫っており、
イヴが間に合うギリギリのタイミングで飛び出し、兵士を始末しました。
ちなみにこのタイミングでの飛び出しはリプスもギリギリです。
ですが、レオンはまだ兵隊達を見渡す余裕があるほど、
まだまだ間に合うレベルです。
その為、レオン本人からすれば、まだ余裕があるので飛び出す指示を出さなかったというわけなのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます