第17話 襲撃の理由
「おね~ちゃん、まて~~!!」
「私こっちから行く!」
「せ~の……」
「それ!」
「やー!!」
「ざんねん!!!」
「うわぁ!」
「きゃ!!」
村の子供達がイヴとじゃれて遊んでいる。
どうやら子供達は相変わらずイヴの尻尾が気になって仕方ないようで、
あのモフモフの尻尾に抱き着きこうと、次々に向かっていく。
しかし、イヴが寸前の所でなんなく避ける。
「アハハハ! またダメだった!!」
「くっそ~! 次こそ!!」
そうやって始まった追いかけっこは、
いつの間にか、自分達から寸前の所で逃げてしまい、
捕まえることができない”イヴ”が面白い追いかけっこへと
目的がすり替わっているようだ。
イヴも子供達と遊ぶのが楽しいようで、
わかりやすいほど尻尾は嬉しそうに左右に揺れ、
その表情もニコニコと輝いている。
手加減の分からないイヴが子供達に怪我をさせそうならば、
止めに入ろうとも思ったが、
この感じで行くと問題なさそうだ。
あの言葉……ちゃんと受け止めてくれてるんだな。
俺は嬉しくなって少し微笑んだ。
「レオンさん、来ていただきました」
リプスと2人でそんなイヴを見つめているとフレムさんに声をかけられる。
「お~……あんなに楽しそうに外で遊ぶ子供達を見たのは久しぶりじゃて……」
「ええ……本当に……」
フレムさんと一緒にやってきた村長の奥さんは、
俺達と同じように子供達を見つめる。
勿論フレムさんもだ。
「これもレオンさん達のおかげじゃな……本当にありがとうよ」
「私からも……ありがとうございます」
2人は俺達に頭を下げる。
「おう」
俺はそんな2人に軽く返し、リプスも微笑む。
こういった場面で謙遜する奴もいるだろうが、俺はそれがいいとはあまり思わない。
自分でこうしたいと考え、出てきた結果なわけで、
”自分なんて何もしてないですよ……”
そんなことを言うのは無責任な気がするからだ。
では上手くいってなかったら? 自分なんて何もしてないから……
そう取れてしまう気がして、嫌なのだ。
どちらがいいのかなんてわからない。
でも俺は、嫌だ。 それだけだ。
「して……確認してみたいことと言うのはなんじゃろうか?」
俺は村に戻ってまず一番に、
確認したいことがあるから村長さんの奥さんを連れてきてほしいと、
フレムさんに頼んでいたのだ。
「ああ……実は昨日の夜、あそこの森の奥まで行ってみたんだが……」
俺は視線を村の人達が生活に使っていた森へと向ける。
「なんじゃと!? そんな……無茶をしなさる……」
村長の奥さんに話を折られてしまった……
勿論心配してくれているということは明白なので嫌な気はしないが。
「まぁな。腕に自信はあるから、その辺りは心配しないでくれ」
村長の奥さんは少しだけ首を横に振る。
「若い命の炎が消えるということは……何物にも勝る悲劇じゃて……消えるならば私のような者からが自然なんじゃ……皆さん……腕が立つのはようわかるが、死を恐れることも忘れんようにの……」
死を恐れる……か。
「ありがとう……覚えておく」
村長の奥さんはゆっくりと一度だけうなずいた。
「すまんの……話の腰を折って、森がどうしたのかの?」
「それなんだが、やはり森の中にはモンスター達が入ってすぐの辺りまで出てきていた。少しばかり策があって、モンスター達を森の奥に押し込んどいたから、しばらくは出てこないはずだ。でも確証はないから、もし行く機会があっても注意は怠らないでくれ?」
「なんと!? そのような事ができたのですか?」
「まぁな」
「レオンさん達……本当に……」
フレムさんも両手を口に当て、驚きを隠せない様子だ。
「でだ、そのまま森の奥まで進んでいってみたんだが……森の中に大きな川って流れてるか?」
「おお……流れておるよ。それはそれは豊かな川でな。魚は勿論、周囲にはその川のおかげで実をつける木々や、薬草なども豊富に自生しておったから、昔は皆でよく収穫に行っておった」
「私もよく行っていました。その川は大きく迂回して、深淵の森にも続いています」
深淵の森に続いてるってことは……
なるほど……ちゃんと繋がってくるもんだな。
「もう1つ……この辺り、雨ってちゃんと降ってるか?」
「雨とな?」
村長の奥さんとフレムさんは目を見合わせる。
「ワシの記憶では、先週も1日降り続いた日があったと思うが……」
「ええ……雨は例年通り降っています。そのお陰で水には困ったことはありませんから……」
となると……自然におきたということは考えにくいな……
「何かあったのかの?」
村長さんの奥さんは俺に問いかける。
「実はな、その森の奥にある大きな川が干上がりかけていた」
「なんと……」
「そんな……」
2人はショックを隠せないようだ。
「干上がるような川の規模でもなかろうに……なぜじゃ?」
「そうですよね……豊かで豊富な水が流れる川でしたのに……」
「川が干上がりかけている理由までは、調べられなかったが、モンスター達が行動範囲を広げた理由は恐らくこれだろう……川が干上がりかけていることで、魚や、川の周囲にある木の実などの食料がつきかけている。そのせいで、本来なら立ち入ってこなかった村寄りの森まで活動範囲を広げたどころか、森からでて、村まで襲ってきたって……ところだろう」
「そう言うことなのじゃろうな……」
「ええ……」
2人はうなずき合っている。
この森のモンスター達がこうだったように……
俺達が深淵の森の入り口付近で遭遇したモンスター達も恐らく同じだったんだろう。
あの時は、力の解放をしていなかったから、
逃げるという選択肢はとらなかったに違いない。
仲間の死を目にしても、それ以上に飢えが勝って、次から次に……
これならばあの”死にに来ていた”と印象を受けたことにも納得がいく。
「川の上流には何がある?」
「上流……そうじゃな……領主の城がありはするが……」
…………繋がってくるな……本当に。
「まさか……男衆の皆が連れていかれてしまったことに……関係しているのでしょうか?」
「本来、干上がることが考えにくい川が干上がりかけている。雨が降っていないというわけではない。となると……間違いなく上流で何かが起きていると考えるのが普通だ。そして……その上流には領主の城。領地内の村の男衆がなぜか集められている。無関係と考える方が無理があるだろうな……」
「レオンさんのおっしゃる通りじゃろう……」
「いったい何を……」
4人が考えこもうとしていた時、
「レオン様~~!!」
イヴがこちらに声をかけてきた。
声のする方に目を向けると、
いつの間にかあの見張り台の上にエマと呼ばれていた子供と一緒にいた。
「まぁ! エマ……またあそこに……」
フレムさんはエマを見つけて少しご立腹のようだ。
「イヴ! どうした??」
離れているため、こちらも少し大きな声になる。
「なんかね~! 沢山の人がこっちにやってきてるのが見えるよ~~??」
イヴが指さす方向に目を向ける。
しかし、ここからではその姿は確認できない。
まだかなり距離はあるのだろう。
方向としては今話してた森よりも若干東寄りと言ったところか。
「その方角は……」
フレムさんの顔が少しほころぶ。
思い当たることがあるのだろうか??
「どんな連中が見える!?」
「ん~~とね……鎧着てる人がいっぱい! 馬にも乗ってる~~」
「ええ!?」
先程ほころんでいたフレムさんの顔がみるみる青ざめていく。
「大丈夫か?」
「……そのあまり大丈夫ではないかもしれません……ああ……」
フレムさんは何かに祈るような素振りさえ見せ、
「とにかく……子供達を家の中へ!」
何とか気を取り直したフレムさんは、子供達の元へと走る。
「なんということじゃ……ワシも村の皆に知らせねば……」
村長の奥さんも慌ててこの場を去ろうとするので呼び止める。
「なんだ? 心当たりでもあるのか?」
「ああ……すまなんだ……あの方角から、そんな恰好で来る連中は、間違いなく領主のとこの兵隊じゃ。男衆を連れて行った時も、今日みたいに突然やってきたんじゃよ……」
村長の奥さんはそう言うと、村の皆に知らせるべく俺達の前を後にした。
「レオン様……私達はいかがしましょうか??」
俺の横で事の成り行きを静かに聞いていたリプスが声をかけてきた。
「そうだな……」
男衆を連れて行って、今度は何の用なのか……
事と次第によっては……
しかし、その場合……確認しなければいけない大事なことがあるな……
俺はまだ視界に入ってこない、”招かれざる客”に向かって睨みを利かせるのだった。
―――――――――――
あとがき
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