第22話 規格外と言う苦悩
あれ? なんで2人とも固まってんだ??
俺の”正直微妙だ”と言う言葉の後、2人は時が止まったように微動だにせず、
かれこれ30秒は経過したように思う。
「どうした? 2人とも……新手の遊びか?」
俺のこの言葉に、2人の時がやっとの事で動き出した。
「レ……レオン様? あの……先程の御言葉をもう一度おっしゃっていただけないでしょうか?」
「う……うん」
2人は神妙な顔つきで俺に詰め寄ってくる。
「ん? 正直微妙だって……これか?」
ドンッ!!
全くの無防備だったところに、2人からの全力タックルを受け、俺はそのまま後ろに倒れ込み、
2人が馬乗りになる形でしがみついてきた。
いくら無防備とは言え、今の俺を倒し込むあたり、流石と言うべきだろう……
「レオン様!!」
「はっはい!?」
「レオン様のご希望に、必ずや沿う物を出して見せます! 今すぐには無理でも、努力していきます! ですから、ですから……後生ですから捨てないでください!!」
なんでこんなことになってるんだ?
なんて考えるほど俺は馬鹿じゃない。
これは間違いなく、
”微妙な物しか出さない⇒主人を満足させられない⇒捨てられる”
こんな考えがリプスの頭の中で成り立ってんだろうな……
普段はクールビューティーなリプスがこんなにも酷く取り乱し、
俺の顔をまっすぐに見つめ、その瞳からは大粒の涙をこぼしている。
捨てないでと懇願するたびに、
その長くて美しい髪が俺の目の前でゆらゆらと揺れ、香水でもつけているのだろうか?
柔かで、優しい香りが俺の鼻先をくすぐり、その香りの虜にされかける……
こいつ元剣だよな……? なんでこんなにいい香りがするんだ?
その美しい容姿で男を虜にするだけにとどまらず、
いわゆるフェロモンみたいなもんまで兼ね備えているんだろうか……
恐るべし、”神剣”
そんなリプスがこうなのだ。
もうわかりきっているが、その横で俺に必死にしがみついてワンワン泣いているのがもう1人……
俺のせいだと責められても文句は言えないのかもしれないが、
こいつも忙しいやつだなぁ……
さっき泣いて、今笑ったばっかりだろうが……
イヴは一切顔をこちらに向けずに、全力で泣きながら、全力で俺にしがみついている。
尻尾まで俺の足の下に潜り込ませて……
意地でも俺から離れない気だろう。
これを引っぺがすのは正直骨が折れそうだ……
恐らくだけど、もう俺の服はイヴの涙と鼻水、
更にはヨダレで完璧にマーキングされているに違いない……
言葉足らずと言うこのクセ……直さないとこれからもこんなことがしょっちゅう起こりかねない……
しかし、クセと言うのは直らないからクセと言うんだ。
止めよう! と思ってすぐに止められるならそれは恐らくクセではない……
つまり、これからもこんなことが起こるということだ。
「誰も捨てるなんて言ってないだろうが!」
俺は立ち上がろうと、もがきながらそう2人に訴える。
しかし、起き上がることはできなかった……
強力な2人が必死に俺を抑え込んでいるためだ。
形振り構わずというならば、まぁ起き上がることは可能だろうが、
2人相手にそんなことをする気はないので、事実上俺は完全に拘束されてしまった。
「いいえ! レオン様は御優しい御方です!! 私共が使えないと思っても、恐らく一緒にいてくださいます!!」
「2人が使えないなんて微塵も思ってないが、一緒にいるんならいいんじゃないのか?」
「それでは意味がないのです! 私もイヴもレオン様に必要とされたいのです!! レオン様に必要とされることこそが、私達の存在意義です! レオン様の力となり、必要とされることこそが、私達にとって至高の歓びなのです!!」
さっきのイヴじゃないが、
マジだ……
リプスのこの言葉はマジで言っている。
押し倒された時から勿論冗談なんて思ってはいないが、
この言葉を発しているリプスの表情は、先ほどよりも更に鬼気迫るものがある。
イヴも同意しているんだろう……
リプスのこの言葉を聞き、抱きつく力が更に強まった。
俺の力となり、必要とされる……か
”力”にだって色々な意味がある。
直球な意味の、戦力としての力は勿論の事、
精神的な支えだって”力”だ。
俺のイレギュラー的な行動からもたらされた力によって、今の姿に変わった2人……
知り合ったばかりだというのに、俺は2人の事を自分でも驚くほど大切に思っている。
俺はこんな身体だ……
今の姿になった2人を必要としている根源は、”精神的”な部分が大きい……
そして2人は俺のこの考えを感じ取ってはいたんだろうが、
さっきの俺の言葉でいよいよ不安が爆発した……と言う所だろう。
ではなぜそれではダメなのか?
これは俺の勝手な推測だが、2人は元々武器だ。
主と共に戦うことにこそ、己の価値を見出しているのではないだろうか?
主の手となり、足となり、強大な敵をお互いの力で撃ち滅ぼすことに歓びを感じるのではないか?
肌身離さず携帯されてはいるが、実戦では使われず、
ホルスターにしまわれっぱなしの御守り代わりの武器にはなりたくない。
主の自慢の部屋の一角で、ガラスケースの中に後生大事に飾られて、
眺めるだけで心が休まる様な自慢の一品になりたくはない。
そう言うことなんだろうと思う。
こんな2人の真剣な思いだからこそ、俺はあえて正直に答えようと思う。
うわべっつらの言葉で濁し、この場を切り抜けたとしても、
きっとこの事でいつか2人の心を壊してしまう気がするから……
「わかった……正直に俺の気持ちを話す。 だから2人とも一旦俺を離せ」
落ち着いたトーンの俺の声に、イヴは顔を上げ、リプスを見る。
そして2人はお互いに頷き合うと拘束を解いてくれた……
しかし、俺の膝の上からは退こうとしなかったため、
左右の膝の上にリプスとイヴを乗せた状態で上半身のみ起き上がった。
そんな俺を見つめる2人の視線が痛いほど突き刺さる。
俺の言葉を一言一句聞き逃さない! そんな意識の表れだろう。
「2人にとっては、もしかしたらきつい言葉なのかもしれないが、聞いてくれ」
2人は無言のまましっかりと頷いた。
その反応を確認し、俺は意を決して口を開く。
「俺はこの盗賊達の略奪品をみて、今後の事を考えていた。イヴは……金貨食おうとしてたからな、わからないだろうが、今後旅をする上で、ある程度の”コレ”はどうしても必要になるんだ」
俺はそう言いながら丁度側に落ちていた金貨に手を伸ばし、イヴに手渡す。
イヴはそれを受け取ると今度は食べようとせずに、
様々な角度から物珍しそうに金貨を眺めている。
「まだ確証は持てないが、ここにあるだけの物をすべて持っていくと、ある一点を除いて、俺達が旅をする上では過剰すぎる量だと思う」
「ある一点ですか……」
リプスには珍しく、どうやらその一点には気が付いていない口振りだな……
スゥっと軽く息を吸い込み、俺はいよいよ本題に入る。
「そうだ。 俺にしっくりくる武器の調達だ」
この言葉に2人の目が大きく見開かれる。 何か言おうと口を開こうとするのを俺はすぐさま遮る。
「言いたいことはわかる! 俺の武器は2人だ!!」
どうやら言いたいことを先に言われたのだろう。
2人は言葉を飲み込んだ。
「だが、現状2人はその姿だ……勿論悪いわけじゃない。3人で旅を出来ること……素直に俺はうれしい」
俺は自分の身体に視線を落とす。
「2人も知っての通り、今や俺はこんな身体だ。リリスの言葉を信じるならば……どんな強敵が現れても素手で何とかなるかもしれない。だが、絶対とは流石に言い切れないと思う。そういう時、やはり……しっくりくる武器が欲しい。2人が出してくれた武器ならばもしかしたらと思ったんだが……妥協できないほどではないが……すまない。 俺が求める物にはまだ足りない」
2人はやはり表情に暗い影を落とした。
「2人が出した武器に満足できないんだ。俺が求める武器を、もしこの世界のどこかで買えるとしても、この量の金でも足りないかもしれない」
それに足りたとしても、そこにこの金をつぎ込むことへの罪悪感……
「2人と肩を並べる武器なんて果たしてこの世界……いや、すべての世界にあるんだろうか? 武器のままの2人と旅をしていたら、寂しい、虚しい……なんて感情があったかもしれない。今のこの状況ならば、そんな感情とは無縁だという確信はある。
だが、今度は武器がない。無い物ねだりとはこの事か……」
俺は頭を抱えて項垂れる。
2人はそんな俺を黙って見つめるのだった。
――――――――――――――――――――――――――
あとがき
読者の皆様、この小説を楽しんでくれていますでしょうか?
宜しかったらお気軽に、ご意見ご感想をお聞かせください。
正直に言いまして、読者の皆様からの反応が一番の執筆の原動力です。
そして、どうかこの小説が面白いと思って頂けたならば、
1人でも多くの方の目に留まるように、
御力添えを、お願いできればなと思います。
レビューなどいただけると大変ありがたいです。
外部では、
作者も頻繁にではないですが、SNSなどで発信させていただいています。
ですが、1人の力ではどうしても限界が……
SNSで発信していただいたり、
何かの掲示板に書き込んで頂いても構いません。
不躾なお願いですが、よろしくお願いいたします。
zinto
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