「立場」3話

 並んでいる間、噂が流れた。


 王子は、何処の誰とも知れぬ相手を娶るため、王と約束を交わした。


 昨晩の舞踏会。シンデレラは誰が見ても、その場で随一の華だった。

 シンデレラは王子の紹介で、国王夫妻と謁見し、会話を交わす栄誉を得た。

 優しそうな国王夫妻、シンデレラはそう思った。と同時に、舞踏会での所作や立ち振るいで厳格な方でいらっしゃるとも思った。

 立場と言うモノを自覚した相応しい振る舞い。だからこそ誰もが従うのだと思った。


 始めに国王は、王子の申し出を、「立場をわきまえない我侭である」と叱責したらしい。

 だが王子は王に食い下がった。普段の王子とは思えない、まるで人が変ったようだと、その様を見た者達が語ったらしい。

 王は王子の思いを考慮した、普段、立場をわきまえ、王位を継ぐ者として職責を全うする息子。その願いを叶えても良いのではないかと。王も一人の親であった。


 周囲の重鎮達から、異論が出なかった訳では無い。だが日頃、国王と王子が職務に精励し、国を平和に、豊かにして来た事は間違いない。


 王子は、王と周囲を納得させるための条件を出した。昨晩、彼女が残した「硝子の靴」。この靴が足にピッタリ収まる者こそ運命の人であると。もし、探して居なかったならば、彼女は幻だった。舞踏会の華やかさに惹かれ紛れ込んだ「美の精霊」だったのだろうと納得し、この件は諦めると。


 最後は国教を司る、大司祭の「神のご意思」の一言で決着した。


 シンデレラ探しは王子の后探しとなったため、厳格に審査が執り行われる事となったらしい。


 噂を聞き。この国の平和で幸せな暮らしは、この方々が取り仕切っていればこそなのだと、シンデレは改めて思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る