第2話 誕生日の朝

 ひとめで気に入ってしまった。

 花言葉を知って、これしかないと思った。

 それは、可憐な十文字の小さな白い花。


「確か、あの商店街の中にお花屋さんがあったよねー」

 スキップしながら駅前の商店街へと向かう。

 今日の私はいつもと違う。

 ネイルはムラなく綺麗にぬれた。グロスのノリもいい。カールの巻きもいい感じ。

「あ。あったぁ」

 そして覗きこんだ花屋のワゴンの中に、目当ての花だって見つけちゃう。

「よかったあ。おいてるところがあって」

 うきうきと声も弾む。

「ブバリアをお探しですか?」

 ワゴンの向こうから優しげな笑顔をむけられる。嬉しくて、こっちの口もついつい軽くなる。

「誕生日プレゼントに、と思って。でも、なかったら困るなぁって思ってたの」

「そうなんですか? でも、アレンジメントによく使われる花ですし、大丈夫ですよ」

 作業の手を止めた店員さんは、私のおしゃべりにつきあってくれる。

「あー、そうなの? そういうのよく知らなくて。ただ、あんまり見たことないなぁって思ってたんだよねー」

「まぁ、そんなに目立つ花ではないですからね」

 うんうん、かわいいけど、派手じゃないよね。

「どんな風におつくりしましょうか?」

 そうだなぁ……。

 もう一度、ワゴンの中を見つめる。思っていたより色んな色がある。

「あのね、ブバリアだけがいいの。他のはいらない」

「そうですか……。色はどうされます?」

「白かなーって思ってたんだけど、ちょっと地味かなぁ?」

「花が少し小さいですからね、華やかさには欠けるかもしれませんねぇ」

 ふむ……どうしよう。

「あぁ、こんなのはいかがですか?」

 そして彼女が出してきたのは、持ち手のついた籐のかごだった。

「花かご!!」

 ステキ!

 ぱちりと両手をあわせる。

「それでお願いします!!」



「カードはおつけしますか? 花言葉つきのカードもありますよ。それとも、花言葉は内緒……で?」

 すこーしだけ、いたずらっぽい口調に聞こえるのは私の思い込みかしら。でも、冷かしめいた雰囲気がないから、こちらの口がまたまた滑る。

「いやだ。直接、耳元でささやいちゃうんですってば」

 慌てて両手で口を押さえる。

 彼女の肩がおかしそうに震えたのは、気のせいじゃないと思う。

「素敵ですね。じゃ、きれいにラッピングしなきゃいけませんね」

 素早く動く手の動きを眺めていると、どんどん顔がゆるんでくる。

 そしてリボンとセロファンで飾られた花かごを手渡された時、最上級の笑顔でお礼を言っていた。

「彼、どんな反応をしてくれるのか、楽しみですね」

 うふっ。

 思わず笑ってしまう。だって、何となく分かっていたから。

 口には出さずに、心の中で彼女に説明してみる。

 あのね。きっとね。そうしたら、ね。ぎゅっと、思いっきり、抱きしめてくれるの

よ。

 ……って。

 にっこりと微笑んでいる彼女に、もう一度お礼を言ってから、かごをしっかりと抱

えて歩きだす。

 彼に会った時、花をさしだして言う台詞。ブバリアの花言葉。心で唱えて。

 ……あ・な・た・の・と・り・こ。



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☆ブバリア(BOUVARDIA)


種 類 - アカネ科

原産地 - メキシコ、アメリカ

花 色 - 白・桃・赤

花 期 - 通年

花言葉 - あなたのとりこ

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