第5話 送り火


(一)

 淡雪は狭い路地を選んで優雅に歩を進める。白く長い尻尾をピンと立て、ゆらゆらと揺らして歩む。着いて行く方としては人一人がやっと通れる路地などで、苦労が伴う。明美が着物を傷つけないよう細心の注意を払わねばならないので、どうしても遅れが出る。竹藪の隙間を縫う様に歩いているので、方向感覚が分からない。太陽の位置で確認しようにも、頭上は新緑の竹のアーチで覆われている。竹林の迷路巡りをしているようだ。時折、どこからともなく、桜の花びらが風に舞い降りて来る。人の声はまるでせず、野鳥の囀りが木霊する。


 随分な距離を歩かされた。はいからさんの明るい笑顔に影が差す。


「淡雪はこんなに行動範囲の広い猫ではないのに、どうしたのでしょう?」


 僕は答えに窮した。淡雪は雌猫で家猫だと聞いている。餌に窮しなければ家から出ることも希だろう。羽生三悟なる人物の手元を離れて久しい可能性がある。そこには事件性があるように推測された。淡雪ははいからさんをどこへ誘おうと言うのだろうか?


 細い路地からやや広い道へ出て、味わっていた閉塞感から解放された。寺の門前に出ていた。清涼寺の門前だった。ここも観光スポットとして名高い。寄りたいと思ったが、淡雪は僕らに休むことを許さず。東へと北嵯峨方面と進む。今度はやや広い道だ。観光地からは大きく外れることになる。北嵯峨にも観光スポットは点在するが、中心の観光地からは大きく距離が離れているので、こちらを回るのは余程の好事家に限られる。


 周囲には田園風景が混じるようになり、人影は綺麗に消えた。人影と共に物音も消え、梢を揺らす風の音と、時折、聞こえる鶯の声が高く響く。後は僕らの足音のみだ。道は比較的広く、僕たちは並んで歩くことが出来た。とは言え、道は舗装されている訳ではない。黒い腐葉土から白っぽい野道にいつの間にか変わっている。乾燥して土埃が立つので、明美は裾を相当気にしている。周囲は竹林の小道から完全な田園風景へと変わった。見渡す限り畑で、農家の小屋が点在する。けれど、人っ子一人も目にしない。まるで世界に僕らしか居ないような錯覚に陥る。不安が入道雲のように湧いてくる。


 けれど、淡雪はそんな僕らを意にも介せず、早足で前を行く。

 堪えかねて口を切ったのは伊達だった。


「おい。俺達はどこへ連れて行かれているんだ?」


「北嵯峨へ向かっているから、直指庵じゃないか?」


「なんで人が居ないんだ?」


「観光コースじゃない。農家の人は、お日様がてっぺん回ったら仕事しないんだろうよ」


「本当について行って大丈夫なのかよ? 相手は猫だぜ?」


「きまぐれも起こさず真っ直ぐ案内してるじゃないか。信じなくてどうする?」


 会話に加わらなかった、はいからさんと明美は息苦しそうだ。着物で歩くには随分な距離を歩いている。顔はやや上気しているが、それでも精神力で汗を抑えているのは流石と言えた。軽装の僕や伊達はとっくに汗をかいている。それでも口をきく気力はないらしい。


 唐突に広い道に出た。


 直角に北へ向かう道で、舗装はされていないが轍の跡がある。遠くに小さくバス停が見えたので、車道を兼ねているらしい。淡雪は僕らを振り返ると、バス道を北へと歩み始めた。進行方向にはこんもりとした森に覆われた古刹がある。大きな古刹の背後は大きな池で周囲を桜で囲まれているので、薄桃色の霞の雲があるように見えた。


 僕は地図を取り出し、その古刹を確かめた。


 ―――大覚寺?


 確かに直指庵に向かうには、この道しかない。だが、はいからさんには鬼門ではないか?

 遠回りしてでも避けたい古刹だが、淡雪の足取りに迷いは無い。他のメンバーは黙って淡雪の後をついて行く。やや送れた僕は(ままよ!)と内心叫んで、追い付いた。まさか、大覚寺には寄るまいと思った。


 だが淡雪は躊躇無く、大覚寺の門を潜ったのだった。



 大覚寺。



 皇室縁の真言宗の古刹である。


 元は平安時代初期の嵯峨天皇の離宮である。嵯峨天皇の知己の空海が離宮に五大明王を祀ったことから、寺院の性質を帯び、嵯峨天皇の死後、その菩提寺となった。写経の寺として知られ、歴代天皇が写経を奉納している。



 そう言う性格の寺だ。宮家を敵に回しているはいからさんには完全アウエイの場所である。どうするのだろうと思って見ていると、はいからさんは躊躇せず山門へ向かったので、僕達はその後に従った。


 山門の受付の初老の女性は、駆け寄って来る僕ら一団にぎょっとした表情を浮かべた。


「拝観。大人四名!」


 僕は短く叫ぶ。山門を潜った淡雪は駆ける様な勢いで奥へと姿を消す。それを追ってはいからさんが、慌てて山門を潜る。チケットは持ってない。姉御と伊達がはいからさんを追いかける。姉御が振り返りざまに「神崎!」と叫んだ。


「先に行け!」僕は姉御に応えた。「直ぐに追い付く」


 拝観チケットは大沢池庭園の周遊券がセットになって、五十円だった。気を急いている僕に受付の女性はチケットと一緒に四人分のパンフレットを押しつけた。僕はそれを脇に抱え走る。気配では大覚寺に入った様子は無い。真っ直ぐに大沢の池へ向かっていた。大覚寺の正面を右折れして迂回する。大覚寺の大伽藍を横目に大沢の池へと走る。


 予感があった。ここで何かが起きると。


 その予感が焦燥となり、僕たちを急かしたのだ。

 理由はあった。淡雪の歩みが迷い無く、一直線のものに変わっていた。スピードも速くなっていた。淡雪は目的地に僕たちを誘おうとしている。そう感じた。


 唐突に視界が開けた。


 桜色に輝く靄が視界の周囲を彩っている。静かな水面は鏡の様だ。空の青と桜色の靄を映して輝いている。仏塔の朱塗りの赤が鮮やかに湖面を割っている。


 はいからさん達は四百メートル程離れた岸部に立っていた。呆然と。


 鮮やかな湖面に背を向けて、岸辺の土手を見つめている。僕は心臓が高鳴るのを感じたので、呼吸を深くし、ゆっくりと三人に歩み寄った。伊達の肩に手を置くと、伊達はぶるっと身体を強ばらせた。ぎごこちなくこちらを振り返る。


「―――どうした?」


 そう尋ねると、伊達は土手の一角を指さした。


 そこにはいかにも手作りの六十センチ程の高さの不細工な石仏があり、淡雪が身体をすり寄せていた。喉をごろごろ鳴らしている。正確には石仏と言うより地蔵だ。その地蔵が異形に見えるのは、白粉を塗り、口紅に朱をさしているからだ。無骨な素人じみた造りがリアルに見えて不気味を感じさせる。地蔵の足下には数束の花束が添えられている。


 ―――知っている。


 この地蔵の意味を僕は知っている。


 新仏が出たのだ。この場所で。地蔵は墓標だ。京都では仏の出た場所に地蔵を置く風習がある。地蔵に化粧するのも京都独特の風習だ。


 淡雪が案内したかったのは―――示したかったのは、この新仏か? それは何を意味する? 背筋を冷たい汗が流れ、僕は言葉を失う。


「なぁ? 神崎? こりゃ何だ?」


 供えられた花束から流石に何かを察しているのか? 伊達は引きつった笑顔で尋ねる。


「―――地蔵だよ」


 僕は機械的に答えた。伊達は僕の胸ぐらを掴んだ。


「なんで、俺らは地蔵なんかに案内されてるんだよ? この地蔵は何なんだよ?」


 僕は貝の様に口をつぐむ。はいからさんは蒼白な顔色で地蔵を睨んで動かない。姉御はそんなはいからさんをじっと見つめている。伊達は口をつぐんで棒の様になった僕を放し、不機嫌そうに唾を吐いた。とたんに姉御の鋭い一瞥が飛ぶ。伊達はぺこぺこと頭を下げた。姉御は吐息をつくと、視線をはいからさんに戻した。この間、無言である。空気は張り詰めて重い。僕ははいからさんに掛ける言葉が見つからない。仕方が無い。どこの誰かは知らないが、これも何かの縁だ。仏さんに手を合わせておこうと、しゃがんで合掌しようとすると、伊達の怒号が飛んだ。


「神崎! やめろよ! 不謹慎だろうが!」


 見るとはいからさんまで殺気だって僕を見据えている。姉御はやれやれと首を振っていた。


「いや……この地蔵はだな……」


 気まずい空気に僕は言い訳を始める。その時だった。低くて渋いだみ声が響いた。


「こんにちは。ご苦労様です。お参りですかな?」


 本堂から続く一本道を初老の僧侶がやって来る。作務衣だが、筋骨隆々とした肉体が見て取れる。顔も含めて仁王像の様な人物だった。手に白の菊の花束を生けた木桶を持っている。僕たちの装束の異様さはまるで意に介していない様子だった。初老の僧は真っ直ぐに地蔵目指して進んで来る。気押されて、僕たちは場所を空ける。仁王の様な初老の僧は無言で笑みを浮かべると、優しい目で僕たちを見つめながら、ぺこりと頭を下げた。僧は地蔵の前で手を合わせて一礼すると、膝をついて座ると、合掌したまま低い声で真言を唱え、数珠を鳴らした。木桶の水を柄杓ですくい、地蔵の頭にかける。そうして長いお経を唱えた。僕たちは呆然とその僧の広い背中に見入っていた。


 僧侶はお経を唱え終わると、地蔵に一礼し、菊の花束を地蔵に供えた。僧侶は座ったまま、僕らの方へ向きを変えて言った。


「この手向けの花は君たちが供えてくれたのかね?」


 皆、緊張に身体を強ばらせて、即答出来ない。やむなく僕が答えた。


「いいえ。違います。僕らは旅行客です。ここも初めて来ました」


「旅行客の方で、この大覚寺まで足を伸ばす方は珍しい。これも何かの縁です。どうかこの仏を拝んでやってくださらんか?」


 僧侶は地蔵にじゃれついていた淡雪をそっと抱きかかえて言った。


「このお地蔵様はお墓なんですか?」


 意を決した様に明美が問う。


「墓は別にありますが、亡くなられたのはここです。まぁ、墓標のようなものです。京都の地蔵は殆どが亡くなった方への供養の為のものです」


 そう答えて、淡雪を撫でる。淡雪は安心しきって身体を預け、喉をごろごろと鳴らした。


「今日が初めての祥月命日になります。むごたらしい殺され方をされたので、菩提を弔ってやって下さい。仏もさぞ無念だったと思いますので……」


「―――殺された……?」


 はいからさんが血の気の失せた顔でうわごとのように呟く。伊達の表情が厳しいものとなる。


「殺人事件なのですか? 仏様はどのようなお方だったのでしょう? 犯人は捕まったのですか? なぜ、仏様は殺されたのでしょう?」


 殺人という異常な事態に僕は勢い込んで尋ねた。その勢いに僧侶は苦笑を浮かべる。


「殺される様な方では無かった。二ヶ月ほど前から、直指庵に居候された若い書生さんでしてな、人格者で学もあった。直指庵の若い修行僧らと良く仏道について語り合っておられました。何か事情があって身を隠しておられた様だ。人を待っているとも言っておりました。一月前に無法者十数名に夜襲をかけられましてな、ここまで逃げて来たが、多勢に無勢。しこたま殴る蹴るの暴行を受け、気を失ったところを簀巻きにされて、池に投げ込まれた。寒い夜でしてな、池には氷が張っていた。直指庵の若い者達が騒ぎを聞きつけ助太刀に駆けつけましたが、無法者共は池に近づけぬ様立ち回り、半時が過ぎた当たりで闇の中に蜘蛛の子を散らす様に逃げた。直ぐに池から引き上げましたが、もう息は無かったと聞きます」


「警察は動かなかったのですか?」


「そこです!」


 僧は厳しい表情で応えた。


「どう言う訳か、大覚寺側が事が公になるのを嫌ってもみ消しに動きましてな。賊を捕らえることも敵わず、仏様の氏素性も分からぬままです。大覚寺と直指庵の僧侶のみが知る所です。我々に出来たのは、こんな地蔵を置く程度でしたのじゃ」


 僧はそう言うと淡雪に頬ずりした。


「この子猫は仏様の飼い猫でしてな。今も主人を求めてこの辺りを彷徨っている。不憫なので、我らが餌を与えております」


 その瞬間、はいからさんの身体が崩れ落ちた。


(二)

 大覚寺の庫裏にはいからさんは運び込まれ、ふかふかの布団に寝かされた。明美が「男の方は出て行ってくれますか?」と厳しい声音で言うので、僕と伊達、仁王の様な老僧、大覚寺の男衆は襖を閉めて、広い廊下に出た。僕と伊達、僧侶が廊下に胡座をかいて座り込む中、男衆は慌ただしく庫裏の奥へと消えた。ろくに会話も交わしていない。


(―――どうにも剣呑だな)


 胸中に浮かぶそんな思いを、僕は瞼を閉じて瞑想することで打ち消した。


 淡雪は老僧の膝の上で暢気に寝息を立てている。伊達は右の親指の爪を囓りながらしきりに身体を揺らしていていた。


「畜生。何がどうなっているんだ?」そんな呟きが漏れ聞こえる。老僧は黙って静かに猫を撫でている。


 庫裏の奥で人の気配が動いた。


 大僧正と思える痩せた老僧を先頭に若い僧侶が行列を作ってやって来る。痩せた老僧の僧衣は実に煌びやかなもので、頭に頭巾を被っている。僕と伊達は即座に正座に切り替え、庫裏からの一団に向き直る。仁王の様な老僧は平然として視線すら動かさない。


 大僧正とおぼしき人物は僕たちの手前で止まり立ったまま言った。


「管主の慈雲と申します」


 僕と伊達は両手をついて礼をする。


「この度はご迷惑をおかけしています」


「実際に迷惑なのです。ハイヤーをご用意しますから、直ぐに病院へ行って頂けますかな」


 あまりに怜悧なその言葉に僕は驚いて顔を上げる。伊達も同時に顔を上げるが、喧嘩をする時の野卑な顔つきをしていた。慈雲と名乗った老僧は能面の様に無表情だ。


「おい。おい。それはなかろうよ。慈雲さん」


 間延びした揶揄する様な口調で語りかけたのは、仁王の様な体格の老僧だった。ニヤニヤと笑っている。


「円覚さんは当寺院とは関係が無い。口を挟まないで頂こうか」


「同じ仏門に身を置く者として、それは出来んよ。死、老、病、飢えの苦しみから民を救うのが、我らの務め。境内で倒れた者を追い出すのは如何かな?」


 追随する様に伊達が吼えた。


「俺達は客だぞ!」


「そうそう。浄財を払って境内に入った者を追い返したとあっては禍根を残そうと言うものだ」


「円覚さん。脅されるか? 風説を流す気ではなかろうな?」


 能面が崩れて焦る。円覚と呼ばれた僧侶はニヤニヤ笑顔を崩さず言う。


「脅す? 風説? 流されて困る風説がおありですかな?」


 慈雲は憎々しげに睨み付けるが、言葉は出ない。

 僕は静かに立ち上がった。慈雲にすれば足下から頭一つ分高い若い肉体が圧倒する様に立ち上った様な感覚を抱いただろう。


「―――御坊」


 僕は慈雲の白い顔を見下ろして言う。


「―――な、なにか?」


 慈雲は僕の気に押され怖じ気づく。


「ご迷惑は承知。だが、わたし達も目的があって嵯峨野を訪れています。その目的を果たすまではこの地を離れられない。どうか、連れが目を覚ますまで、休ませては貰えませんか? この通りです」


 僕は頭を垂れた。


 慈雲と言う老僧は口籠もった。「何時、目覚めるか。分からないではないですか?」と敬語で返して来る。僕は襖越しに聞き耳を立てているだろう相手に呼び掛けた。


「明美」


「―――はい」


 澄ました声が応える。


 正座して襖を僅かに開けた明美は、半身を滑らす様に廊下に出ると、正座したまま襖を閉める。見事な所作だった。明美は慈雲に向かい正座のまま、両手を揃えて礼をすると、頭を上げずに言う。


「帯などを緩め、頭を冷やさして頂いています。呼吸は平常に戻りつつありますので、半時もすれば目覚めるでしょう」


 言い終わると明美は視線を僕に送る。僕は明美にウインクを返してから、慈雲と向き直る。


「お聞きの通りです。半時の間、休ませてやって頂きたい。そうすれば、何も他言いたしません」


 半時ですぞ。約定ですぞと何度も念を押して慈雲は庫裏の奥へと下がった。明美は早々にはいからさんが寝かされている部屋に戻っている。


 大覚寺の関係者は僕たちを蛇蝎の様に避けたので、僕と伊達、円覚と言う僧侶は広い廊下にポツネンと取り残された。暫しの沈黙の後、円覚さんが「かかかかかかっ!」と突然、高笑いをしたので、僕と伊達は身体をビクリとさせる。


「いやいやいや。あの慈雲をやり込めるとは小気味良い若者達じゃ。相当に出来るな。お主達」


 僕と伊達は肩をばんばん叩かれる。


「いえ。恐れ入ります。御坊こそ、助け船を出して頂きありがとうございました」


「なに。それこそ礼には及ばん。慈雲の奴を苛めるのは儂の趣味じゃ」


 円覚はまた「かかかかかっ」と笑った。


「なんにせよ、お主ら気に入った。あの娘御が目覚めたら、ウチの寺へ来るが良い。貧乏寺だが、白湯くらいは振る舞おう」


「円覚様のお寺は何と言うのですか?」


「儂の寺ではない。寝起きを許して貰っているだけじゃよ。―――そうじゃの。寺の名は直指庵と言う」


 円覚は指を立てて悪戯っぽく言う。


「どうせ寄るつもりじゃったじゃろ?」


 僕は無言で苦笑した。伊達がむくりと立ち上がる。


「坊さん。それじゃあ、羽生三悟って男のことを知っているのか?」


「無論。良く知っておる。あの娘御にはとくと話して聞かせる必要があるじゃろう」


 円覚は瞑目して深く頷いた。こちらの素性はお見通しらしい。


「羽生三悟は殺されたのか?」


 目を剥いて、押し殺した声で伊達は訊いた。敵討ちでもしそうな気迫があった。円覚は顎を撫で、値踏みするように伊達を見る。


「さて。どうだかな―――今、ここでする話ではなかろうよ」


 そう言って、「のう?」と僕を見る。


「そうですね……」


 僕はそう答えざる得なかった。


 暫し沈黙があった。襖がするすると開く音が沈黙を破った。正座して襖を開けた明美は僕、伊達、円覚氏の順に瞳を見据えると、「―――目を覚ましたわ」と告げた。様子を尋ねようとした僕を手で制して、さらに言う。


「とても落ち着いているわ。怖いくらいに」


「入って良いかの?」


 円覚氏の問いに明美は「はい」と答える。円覚氏に続いて襖を潜った僕は全身が凍り付く。はいからさんの枕元に鈴ちゃんが座って、はいからさんの手を取っている。何か言おうとしたが声が出なかった。後から伊達が「早く行けよ」と機嫌の悪い声で言う。その伊達を振り返った一瞬で、鈴ちゃんの姿は煙の様に消えていた。白日夢にしては異様にリアルだった。桜吹雪をあしらった振り袖が目に焼き付いている。しかし、明美も伊達も騒がない。見えていないのだ。僕は幻を見たことを自分の心に仕舞った。妙な騒ぎを起こしても意味が無い。円覚氏だけが、興味深げに僕を振り返っていた。


(三)

 僕たちが枕元に座ると、はいからさんは明美の手を借りて上半身を起こし、丁寧にお辞儀をした。


「―――どうも。ご迷惑をおかけしました」


 その声色は落ち着いたものだったが、どこか儚げで、目を離すと消えてしまいそうな心地になった。元々、色白な肌の色も血の気が失せて更に白くなっている。いや、透明感が出ていた。向こうが透けて見える錯覚に陥る。その儚さ危うさが、彼女の美しさを際立たせていた。僕はただ息を飲む。


 誰もはいからさんの言葉に応えないので、伊達がひょうきんに言う。


「いや、全然、迷惑じゃないっすよ。それより、体調はどうなんすか?」


「ありがとうございます。もう、大丈夫です」


 そう言って、頭を垂れ、はいからさんは微笑むが、その笑顔すら儚げだった。どこか人間離れしている。咳払いして、円覚氏が口を開いた。


「儂は直指庵で世話になっとる円覚と言う者じゃが、お嬢ちゃんは真魚さんで相違ないか?」


 暫し瞑目して、はいからさんは首を縦に振った。


「そう言うことなら、この寺に長居は出来んな。直指庵に来るかね? 三悟君の残した物もある。積もる話もある」


「是非、お伺いしたいです」


 はいからさんは毅然として言った。


「では、行こう」


 円覚氏は破顔した。男達が席を外そうとしたとき、「神崎様」と僕ははいからさんに声を掛けられた。


「なんです?」と応じるとはいからさんはとんでもないことを口にした。


「わたし。今まで鈴香様と一緒にいました。鈴香様は三悟様は生きていると請け合って下さいました」


 その言葉に明美は目を丸くして、息を飲む。伊達に至っては狂人を見る目をしていた。

 僕は鈴ちゃんの幻を見ているから、その言葉を無碍に出来ない。一端、浮かした腰を下ろして「どう言うことです?」と問い糾した。円覚氏も驚きに目を丸くして座った。はいからさんは独白する。


「わたしは夜の闇の中、階段を駆け上っていました。追っ手から逃げていたのです。背後からは「こっちだ!」と言う声が迫って来ます。最早、ここまでかと思い、懐に偲ばせた短剣に手を伸ばした時、後から強く「こっちよ!」と手を引っ張られました。わたしは落ちる様に上下の感覚すら無い深淵の闇へと引っ張られたのです。すぐそこまで迫っていた追っ手の声も聞こえません。闇の中、鈴香様の御姿だけが煌めいて見えました。


 鈴香様は短刀を握りしめたわたしの姿を見て、涼やかにお笑いになりました。


「なに、物騒なこと考えてるの?」


 わたしは鈴香様に縋って号泣しました。


「三悟様が―――三悟様が殺められてしまいました。せめて後を追いたいのです!」


「馬鹿なことを―――それは未来の可能性の一つよ。貴女の為なら未来くらい変えて上げるわ。貴女は今、過去にいるのよ。そして、この狭間から出る時、改めてわたし達と出会うの。その時、未来は変わっているわ。三悟さんは生きておいでよ。彼もまた狭間にいるの。貴女が生きていると信じれば、その力で彼は狭間から出てくるわよ。わたし、約束は違えたことが無いのが自慢なの」


「本当ですか? 本当に三悟様は生きておられますか?」


「わたしを信じなさい。会わせて上げると言ったでしょう? 会える未来へ誘ってあげる。それまで手を握っているわ。だから、安心して」


 鈴香様は今の今までわたしの手を握ってくれていました。その温もりが残っています。だから、わたしは三悟様は生きておられると信じます」


 強い視線で僕を見つめて、はいからさんはそう言い切った。


 僕は戸惑いを覚えた。鈴ちゃんなら何でもありだと思う一方で、あまりに突拍子も無い話を受け容れられずにいた。明美と伊達は哀れみの眼差しをはいからさんに送っている。


「それは白い振り袖の天女の様な娘かね?」


 重々しく円覚氏が尋ねる。


「はい。天女の様に慈悲深いお方です」


 はいからさんが答える。


「慈悲深いかどうかは知らんが、その娘なら今さっき儂も見た。お主も見たじゃろ?」


 そう言って円覚氏は僕に顔を向ける。厳しい表情をしていた。僕が苦しげに頷くと、明美と伊達は白昼に幽霊を見た様な表情になった。


「その振り袖の美女は一月前の今日、直指庵の境内でも目撃されている。夕暮れ時に三悟君と話し込んでいるのをウチの若い者達が見ておる。三悟君はその娘に茂みに連れ込まれた。見ていた若い者は、人間離れした美しさと、眼差しの異様な冷たさに、その娘を異形の者と思った。茂みに消えたのを見て、慌てて追いかけたが、三悟君は煙の様に消えていたそうじゃ。それで、直指庵の者が総出で捜していて、怪しい暴漢共と事前に遭遇していた。暴漢共は直指庵に入ろうとして咎められ、逆上して「羽生三悟を出せ!」と抜かした。


その暴漢共に「羽生三悟はここよ。引き取りに来なさい」と引き渡したのも白い振り袖の娘じゃった。小柄な体なのに、大の男の腕を万力の様に締め上げ、動きを封じていたそうじゃ。結果として一人の男が死ぬ羽目になった。鬼女じゃな」


 円覚氏は嘆息気味にそう締めくくった。


 はいからさんは「嘘です! 鈴香様が三悟様を売るような真似をするはずがありません!」と喰ってかかったが、円覚氏は困惑したように「だが、事実じゃ」と呟いた。


 僕は円覚氏の一連の発言に何となく齟齬を覚えた。だが、それよりも何やら黒い気が外から漏れ入って来るのに気づき、「静かに」と全員に小声で伝え、足音を殺して襖に近づいた。おもむろに襖を開けると、そこで聞き耳を立てていた老僧が「ひぃ!」と叫びを上げて腰を抜かした。慈雲僧正だった。僕は目を細めて慈雲僧正を睨み据え、「立ち聞きですか?」と軽愚の声をかけた。慈雲僧正は「違う! 違う!」と叫びながら、腰の抜けた姿勢で後ずさる。


 僕の後に円覚氏の立つ気配がした。


「慈雲……。お主、なんて様だ?」


 心底、情け無いという声だった。円覚氏は廊下に出ると慈雲僧正の前で立ち塞がる。


「言え。慈雲。お主、何に怯えておる?」


「お、怯えてなぞおらん」


「いや、一月前のあの夜より、お主は確かに怯えておる。人相が変わっとるぞ?」


 その瞬間、慈雲の顔には確かな恐怖が浮かんだ。


「―――帰れ!」


 唐突に慈雲は叫んだ。


「目覚めたら、帰る約定じゃ! 帰れ! 今すぐ帰るのじゃ!」


 まるで駄々っ子だった。四肢をばたつかせて狂ったように「帰れ!」と叫ぶ。騒ぎを聞きつけた大覚寺の僧侶達が集まって来たが、皆、師の狂態を遠巻きにしている。話にもならない。僕たちは大覚寺の庫裏を早々に後にした。明美も流石に切れて、伊達と一緒に散々捨て台詞を残して来た。それでも足りず今も不満を零している。円覚氏は悲しげに苦笑を浮かべるだけで、はいからさんは黙り込んでいる。そして、きっちり後を付いて来る淡雪。


 僕たちは寺の大門を潜り外に出た。その瞬間、僕たちは氷結した。門の外をとんでもない冷気が覆っている。僕はすぐに冷気の正体に気付いた。門の外の柱に背を預け、のんびりと夕焼けを眺めている少女がいた。人形の様に端正な顔立ち、桜吹雪をあしらった振り袖姿。間違い無く生身の鈴ちゃんだ。呆然と立ち尽くす僕らに顔を向けて鈴ちゃんは言った。


「……やっと追い付いたわ。皆さん、ご機嫌如何?」


 鈴ちゃんは小首を傾げ、微笑んで見せた。それで、僕と明美と伊達の三人は彼女が何かとんでもない事をしでかしたと悟った。


(四)

 桜並木が夕日に染まり、燃え上がる炎の様に見える。その炎をバックに鈴ちゃんは腰を少し曲げて、僕たちの顔を覗いている。妙に可愛らしい格好だ。その顔には嬉しげな満面の笑顔が張り付いている。無邪気で愛らしい笑顔に見えるが、鈴ちゃんとの付き合いが長い僕や明美、伊達には分かる。作り笑顔だ。鈴ちゃんの作り笑顔は愛嬌があるほど、とんでもない事をしでかした事を意味する。なによりもその身体に纏わり付く冷気が尋常では無い。冷気は霊気に通じる。鈴ちゃんが霊的に大きな事をしでかしたのは、僕ら三人には明かだった。


 そんな鈴ちゃんに、はいからさんが勢い良く駆け寄り、首に抱きついた。


「―――鈴香様! 鈴香様! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 鈴ちゃんは強くはいからさんを抱き締めると言った。


「ごめんなさい。待たせ過ぎたわね。でも、これしか方法が無かったの。会わせて上げるわ。貴女の思い人に」


 その声音はトーンが低く、表情も真顔になっていた。その眼差しの鋭さに僕は背筋が凍る思いがした。漸く会えた嬉しさなどは消し飛んでいた。


「ああ。嬉しい。わたしは嬉しゅうございます」


 はいからさんは喘ぐように答える。

 盛り上がっているのは、はいからさん一人だ。他の者は鈴ちゃんの雰囲気に肝を冷やしていた。


「ちょっと待ちなさい。君は人かね? 羽生君が生きていると言うのかね?」


 鈴ちゃんは天女の様な笑顔を造った。


「円覚様、わたしが人以外の何に見えまして? 羽生三悟様は息災ですよ。これから皆さんを彼の元にご案内いたします」


「腑に落ちぬことがある―――」


 円覚氏の声は震えを帯びていた。


「なぜ、儂の名を知っている? 羽生君は八方手を尽くして捜したが、今に至るまで行方不明じゃ。どこに居たと言うのだ? 羽生君として殺められた仏様は誰なのだ?」


「御坊とは何度も何度もお会いしておりますが、ご記憶にありませんか? 羽生様はどこにも行かれていません。あなた方が認識出来なかっただけのことです」


「―――彩宮鈴香。今、思いだした。だが、貴女と儂は初対面の筈じゃ。何より、羽生君が生きているなら、殺められた男は誰なのだ? 顔が潰されていたから、時を同じくして失踪した羽生君として葬られたのだぞ。年格好も似ていたしな。何よりも夜陰に紛れて、大覚寺の前、そうまさにここで、暴漢共に『羽生三悟だ』とその哀れな男を引き渡したのも君ではないのかね? 目撃証言ではまさに君なのだが……」


「何百回も会ってお話しているのに、冷たいこと……。それと、わたしは今日、嵯峨野に来たばかりです。死んだ男の事など知りません。無縁仏として葬られる運命にあった男なのでしょう」


「顔を潰され、暴行され、簀巻きにされて良い人間なぞおらん!」


 円覚氏はそう叫ぶと、「改めさせて貰おう」と鈴ちゃんの手首を掴んだ。鈴ちゃんは一瞬殺気を走らせたので、僕たちは鈴ちゃんが円覚氏を投げ飛ばすのではないかと肝を冷やしたが、鈴ちゃんは無抵抗に手の甲を晒した。傷一つ無い絹の様な肌がそこにあった。


「失礼した」


 円覚氏は素直に鈴ちゃんを解放する。あることに思い至って、目を剥いてその光景を見つめていた僕と目が合った鈴ちゃんは、悪戯が見つかった子供の様にペロリと舌を出した。


 背筋に怖気が走った。


 顔を潰すのに拳を使うのは素人だ。武道を囓った者なら、肘か膝を使う。その見知らぬ男の顔を潰し、羽生氏と偽り暴漢共に引き渡したのは間違いなく鈴ちゃんだと僕は確信した。鈴ちゃんがそこまでやるには相応の理由があるはずだが、僕にはそんな理由を抱えた男の存在には心当たりが無かった。人の顔を潰すなど並の根性で出来ることではない。僕は鈴ちゃんが恐ろしくなった。


「―――何百回も会っているじゃと?」


 難しげな表情で円覚氏が呟く。


 不思議な言葉だ。僕は鈴ちゃんが異なる時間軸、異なる世界線を何百回となく行き来したのではないかと推察した。何百と言う異界の門を潜った結果が、この異様な冷気ではないかと思った。最も『電話レンジ』の様なタイムマシンも無いのに、どうやって異なる世界線へ行くのか想像は出来ないが……、だが、僕らも異なる世界線の世界へ迷い込んでいる訳だ。それを思うと世界線を超えるにはタイムマシンなど必要無いのかもしれない。


 はいからさんの涙を指で拭いながら、鈴ちゃんが言う。


「じゃあ、三悟さんの所へ行きましょうか?」


 はいからさんは迷いなく「はい」と応じる。


「あなた達も来て頂戴」


 鈴ちゃんは僕らを見つめて言う。


「応よ」と応じたのは伊達だ。「ここまで来たら見届けないと気が済まねえぜ」

 それは僕達三人の総意でもあった。


「儂も付き合わして貰おう」


 円覚氏が口を挟む。苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。


「羽生君が生きているなら、会いたいし、納得のいかんことが多すぎる。仏の身元も明らかにせねばならぬ。このお嬢ちゃんは説明する気は毛頭無いようだしな」


「いいですよ。御坊は異界潜りは初めてではありませんものね」


 鈴ちゃんは悪戯っ子の微笑みで答える。円覚氏は表情を厳しくしたが、無言で通し、鈴ちゃんの挑発には乗らなかった。



 陽は傾き、夜の紫が中天を覆い、夕日の赤を侵食している。

 黄昏時だ。隣の人の目鼻立ちも曖昧になる。


「おあつらえ向きだわ……」


 鈴ちゃんがそう独りごちたのを僕は聞き逃さない。


「では、行きましょうか?」


 鈴ちゃんは皆に声をかけると、竹で覆われた小道を先に歩き始めた。ひょいと淡雪が飛び出して、誘うように先行する。その後をはいからさんが追いかける。


「三悟様はどちらにおいでですか?」


 声が無邪気に弾んでいる。この女性は不安にならないのだろうか?


「化野念仏寺よ」


 鈴ちゃんが短く答える。それにあり得ないと突っ込んだのは円覚氏だ。


「それはおかしい。あそこは禁足地じゃ。予約しないと入れない。今でも風葬が行われているからな。午後五時になれば住職も寺男も居なくなる。この時刻に人が行くべき所ではない」


「人が密会するには絶好の条件じゃないですか?」


 鈴ちゃんはさらりと受け流す。


(おいおい―――)


 僕は内心、突っ込みを入れる。


(風葬? 何時の時代の話だ? 禁足地? 観光のメッカじゃないか?)


 どうやら、僕らの時空とは随分有り様が違うようだ。それにしても、鈴ちゃんに顔を潰された男は何者だろう? どんな逆鱗に触れたのだろう?


 そんなことを考えながら歩いていたので、僕は俯いて列の後方を歩んでいた。


「―――浩ちゃん」


 薄闇の世界に良く響く声で呼び掛けられて、僕の心臓は驚きに跳ね上がる。その声音には切なさが詰まっていた。


「どうして無視するの? やっと会えたのに声もかけてくれないの?」


 悲哀を帯びた声色だったが、僕は鈴ちゃんを怖いと思ってしまった。鈴ちゃんの表情は暗くて見えなかった。明美と伊達が道を空け、「ほら、行け」と促す。僕は親しい友人から『哲学者』と揶揄される表情を殺した顔で鈴ちゃんの横に立つ。


「やっと、来てくれた」そう言って笑う鈴ちゃんの表情は無邪気に見えた。僕は小さく「ごめん」と言う。鈴ちゃんは恋人繋ぎで僕の手をしっかり握ると、楽しげに歩み始めた。前を行く淡雪の白い身体は闇に侵食され滲んで視える。僕にはそれが鬼火に見えた。淡雪は細い路地を何度も曲がる。僕と鈴ちゃんの後には、はいからさんと円覚氏。そして、明美と伊達と続く。化野念仏寺に向かう道を歩んでいるとは思えないのだが、円覚氏を始め皆何も言わない。僕は『方違え』と言う古代の呪術を思い返す。四つ辻を何度も曲がって進むことで異界へ行くと言うものだ。鈴ちゃんは強い力で僕の手を握っていて執念めいたものを感じさせた。少なくとも普段の鈴ちゃんではない。その手からは緊張が伝わって来る。


 闇が濃くなり足下がおぼつかなくなった頃、僕は階段を踏み外した様な感覚に襲われ体勢を崩しかけた。次の瞬間、驚きに「えっ?」と口を開けた。


 唐突に開けた場所にいた。


 無数の朽ちかけた石仏が整然と並び、その前には灯の灯った和蝋燭が立てられている。幻想的な無数の灯明が小さな寺の境内を照らし浮かび上がらせていた。


 本堂は開け放たれ、やはり灯明で照らし出されている。その本堂の縁側に鷹を思わす鋭い容貌の中年の僧侶と書生姿の背の高い青年が座っていた。


「―――三悟様!」


 ひときわ高い叫びを上げて、はいからさんが書生の胸元に飛び込む。青年は優しくそれを抱き留めて、目線を鈴ちゃんに送ると、深々と頭を下げた。鈴ちゃんは顎を引いてそれに応じると、皆に向かって言った。


「化野念仏寺よ。ここでわたしは約束を果たしたのよ」


 鈴ちゃんには珍しい、派手なドヤ顔だった。


(五)

「わたしは約束を果たしたのよ」


 派手なドヤ顔でそう言うと、鈴ちゃんは僕の腕にしがみつき、体を預けてきた。潤んだ瞳で物言いたげに僕を見上げて来る。僕はどぎまぎとする。どんな言葉を掛けて良いのか分からない。と、はいからさんの号泣の声が境内に響き渡った。僕は内心、安堵の息をついて、視線を鈴ちゃんから外し、はいからさんを見た。蝋燭の陽炎越しに、はいからさんが長身の書生に抱きついて「おう! おう!」と獣のように号泣している。書生はしっかりとはいからさんを抱き締め、はいからさんの髪に顔を埋めている。二人の頭上を覆う桜花の天蓋は千本を超える蝋燭の炎に妖しくたなびいている。ふと横を見ると鈴ちゃんは潤んだ瞳で抱き合う二人を凝視していた。瞳の底には歓喜の色がある。


 僕は千本を超える灯明にゆらめく境内を見回す。僕らの他に人影は無い。


(現実の千灯供養ではないようだな……)


 この光景は夢か幻の類いだろう。化野念仏寺の千灯供養は有名だ。八月二十三日、二十四日の地蔵盆に行われる幽玄な催しには全国から多くの人が集まる。蝋燭は一本一本参拝者が供えるのだ。


 この幽玄な光景が春の桜の下で広げられることはない。その意味では、この光景の下に集った僕らの存在も夢・幻のようなものだ。


 僕は改めてはいからさんと羽生三悟のカップルを見る。激しく抱きつくはいからさんを羽生三悟は抱き締め返し耳元で何事かを囁いている。羽生三悟は長身でしなやかな体躯をしていた。その顔は柔和で落ち着きがあり、今ははいからさんを慈しむ感情に溢れている。


 この異様な状況下で、落ち着いていられるのは大した肝の太さだと思う。


「はいからさん、良かったね。大団円だね」


 明美が胸に手を置き、かすれた声で鈴ちゃんに言う。その側で伊達は突然、光景が変わったことに狼狽を隠せずにいる。空気を読まない質問をしないのは伊達なりに自省しているのだろう。夏休みのことを思えば格段の進歩だ。


 対応で言えば伊達が正しい。大団円? なにが? なにも解決はしていない。むしろ、これからどうするのだと問いたい。


 だが、僕は羽生三悟を見た瞬間から、概ねのからくりには本能的に気付いていた。


 ―――羽生三悟。


 いけ好かない男だ。生理的嫌悪が先に立つ。

 断っておくが、僕は滅多なことで人を嫌いにならない。第一印象で人を嫌う事も無い。生まれつきそう出来ている。


 その意味で羽生三悟は僕にとって特殊な存在だった。


 僕は鈴ちゃんと繋いでいた手をそっと外した。明美と話していた鈴ちゃんは流し目で僕を見たが、その行為を咎めることはしなかった。


 伊達同様周囲を見回し呆然としていた円覚氏は、「こう言う仕掛けか……」と呟き、本堂へ向かう。鋭い容貌の僧侶とは知り合いらしく、親しげに挨拶を交わしていた。その後、遠慮気にはいからさんを抱く、羽生三悟に近づき肩を叩いた。羽生三悟は顔を上げ、円覚氏と言葉を交わす。何を喋っていたのかは分からない。ただ、喋る内に円覚氏の表情に驚愕が浮かび、恐ろしいものを見る視線を鈴ちゃんに向けたと思うと、直ぐに視線を外した。僕は横目で鈴ちゃんの表情を伺う。そこにあったのは『絶対零度の魔女』の二つ名で呼ばれる凍てついた表情だった。


 半時程、号泣していたはいからさん、もう名前の真魚さんで良いだろう、真魚さんは落ち着きを取り戻し、淑女らしく羽生三悟から離れた。円覚氏から何か諭されている。ずっと二人の逢瀬を邪魔せぬよう動かずにじっとしていた僕らだったが、鈴ちゃんの「わたし達も行きましょう」のかけ声に本堂へ向かった。僕は内心、これから僕らがどこへ向かうのかを考えていた。



 僕らが本堂に近づくと飛び出すように迎えてくれたのは、真魚さんだった。遅れる形で羽生三悟も出迎えに出る。


 真魚さんは両手で鈴ちゃんの手を取るとぶんぶんと振り回す。


「鈴香様! 鈴香様! ありがとうございます。ありがとうございます。鈴香様のお力で羽生と会うことが出来ました。皆様もお力添え、ありがとうございます。皆様のお力添えが無ければこの縁が成就することはありませんでした」


 真魚さんの後から羽生三悟が口を開く。


「真魚の許嫁の羽生三悟と申します。彩宮殿は元より皆様のお力添えは真魚から聞きました。どうか私からもお礼を言わせて下さい」


 真魚さんに比べれば随分と落ち着いていたが、十分過ぎるほどの誠意が伝わる口調だった。僕は怖気を覚えた。明美と伊達が「わたし達は何もしていない」と恐縮する様を見て、嫌悪感は限界を超えた。


「宮様を犠牲にしてまで結ばれるのが嬉しいか? 羽生三悟?」


 気付いたら刺々しい言葉で羽生三悟をなじっていた。


 皆、毒気を抜かれてポカンとした表情を浮かべる中、鈴ちゃんが泡を食った様子で「ちょっと、浩ちゃん。やめてよ。違うのよ」と取りなすのと、羽生三悟が苦笑を浮かべ、頭を掻くのは同時だった。


「やはり自分に厳しい性格は同じですか……。彩宮殿の連れ添いだけあって、そちらの世界の私は随分と聡いのですね。私自身、未だ状況が飲み込めていないのに……」


 その口調が癇に触り、僕が再び口を開こうとすると、鈴ちゃんが肘鉄を入れて、強制的に黙らされた。


「浩ちゃんは黙ってて! この人達が幸せに結ばれるのが大事なのよ! 黙って!」


 不本意だが鈴ちゃんにこう言われては黙らざるを得ない。


 その時、ポンと手を打つ音がした。円覚氏が納得の行った顔をしている。


「なるほど! あの仏は例の宮様か! あの夜、大覚寺で真魚さんが連れ込まれるのを待っていたのじゃな。げすな男よ。慈雲が手引きをしたのじゃな。それで道理が通る。なんだ、天罰の様なものではないか」


 そんな事は分かってる。問題はそこじゃない! 僕は無言で羽生三悟を睨んだ。

 僕の視線に羽生三悟は申し訳ない顔をする。


「君の憤りは分かるよ。君の彼女の手を汚させたのが許せないのだろう?」


 殴ってやろうかと思った。この怒りは激しい自己嫌悪から来るものだと理解はしている。僕は他人を嫌うことはまず無いが、自分は別だ。僕は自分自身を激しく憎悪している。故に他世界の自分となれば、生理的嫌悪を禁じ得ない。そんな僕を無条件に慕ってくれる鈴ちゃんの存在は特別なのだ。かけがえのない存在なのだ。その存在が穢されるようなことは僕は決して許しはしない。


「すまない。けれど、私は真魚さんの笑顔を守る為なら悪魔にでも縋るのだ」


 羽生三悟は僕に対して、礼儀正しく頭を下げた。僕は思わず拳を握る。

 鈴ちゃんが遠慮がちに僕の握り拳を包み込んで言う。


「こらえて。お願い。あれはわたしにしか背負えない業だったのよ。罪だなんて言わないで。わたしは浩ちゃんの為にやったのよ」


 その意味することに気付いて、僕は改めて鈴ちゃんの情の深さに慄然とした。常に淡雪が僕らを先導していた意味も分かった。天竜寺の回廊で起きた不可思議な出来事の焼き直しなのだ。少なくとも鈴ちゃんにとっては……


 僕は嘆息して天を仰いだ。


 蒼い三日月が夕闇の空に浮かんでいる。西の空は淡く金色に滲んでいる。根拠の無い怒りに熱していた脳が冷めていく。冷めていく過程で考える。立場が逆なら僕はどうしただろうかと。鈴ちゃんと僕が結ばれるのを、ストーカー気質の権力者の横恋慕で道が閉ざされた時、僕はどうしただろう? 鈴ちゃんに『みちゆき』を口説かれたなら、その為に全てを捨てて、猪突邁進しただろう。人殺しも厭わなかっただろう。それを思えば、羽生三悟は僕より余程分別はある。


 鈴ちゃんの前に真魚さんが現れたのも偶然ではあるまい。恐らく何百とある世界線の中、唯一、結ばれぬ未来を迎える僕達の姿が真魚さんと羽生三悟なのだ。そして数多ある世界線の中で未来を変える力を持っていたのが、唯一、僕の知る鈴ちゃんだったのだ。そりゃ、鈴ちゃんは助ける。身を切ってでも助けるさ。


 僕は羽生三悟の横で一言も発せず、身を固くして、成り行きを見つめていた真魚さんに目を向ける。改めて見ると鈴ちゃんと顔立ちが良く似ている。


 僕は真魚さんに言った。


「宮様がすでに亡き人なら、みちゆきはせずとも良いのではないかな?」


 真魚さんは悲しげに首を振った。


「わたし達は反逆者ですから、結ばれるにはみちゆきしかありません」


 表情は悲しげだったが、その口調はきっぱりしていた。生涯を日陰者で暮らす覚悟があった。


「―――ああ、それだけどね」


 鈴ちゃんは自分の懐をまさぐる。


「これを取りに行っていたので、遅くなったのよ」


 そう言って取り出したのは、上等の絹の袋に入った三十センチ程の丸い棒状の物だった。

「はい」と真魚さんに手渡す。


「これを持って福井の大叔母様を頼りなさい。悪いようにはしないはずよ」


 袋を手に呆然としていた真魚さんは「中を改めて良いですか?」と尋ねる。鈴ちゃんは横柄に「どうぞ」と応える。出て来たのは青い竹の棒だった。表皮を削って達筆で何か書かれている。達筆すぎて僕には読めなかったが、真魚さんの表情が厳しいものとなる。真魚さんは竹の上部を引っ張る。切れ目など見えなかったのに、竹の上部がポンと外れる。残った筒から出て来たのは年代物の茶杓だった。真魚さんは小刻みに震えている。


「これをどこから?」


 震える声でそう尋ねる。鈴ちゃんは何でも無いことの様に答える。


「わたしの世界では、わたしは家督を相続したばかりなの。その祝いに頂いたのよ。こっちの世界でも福井の大叔母様に逆らえる者はいないわ。良い通行手形でしょ? あなた達は堂々と一緒になれるはずよ」


 真魚さんはぽろぽろと涙をこぼした。


「本当に何から何まで……。お礼の言葉もございません」


「いらないわ。わたしの為にしたことだもの」


 そして鈴ちゃんは本堂を振り返る。猛禽類を思わせる面立ちの中年の僧侶に声を掛ける。


「六角堂様、お待たせしました。始めましょう。手筈通りにお願いします」


 六角堂と呼ばれた僧侶は首で会釈すると無言で立ち上がり。灯明の灯った本堂へ上がった。無言である。その容貌と所作から僕はこれは人では無いと思った。もっと高位の存在の様な気がした。


(六)

 六角堂は巻物を取り出し壁に掛けた。地蔵菩薩の御姿が描かれている。香を焚き、所作を整え、巻物に向かって座る。


「円覚!」


 甲高いだみ声でそう叫ぶ。自分より年下の僧侶に呼び捨てにされたのに、円覚氏は「はっ!」と下手に答える。


「従者を務めよ」


 六角堂がそう言うと、円覚氏は頭を垂れた姿勢で素早く本堂に上がり、六角堂の左下座に正座した。六角堂がリーンと五鈷鈴を鳴らすと、打ち合わせも無く、地蔵菩薩真言の唱和が始まった。


「オンカカビサンマエイソワカ。オンカカビサンマエイソワカ―――」


 腹に響く重低音の唱和が境内に響くと空気が変わった。気温が二三度低くなり、空気の質が重くなった。西風が吹き、灯明が一斉に揺れたかと思うと、灯りが絵巻に吸い寄せられる様に流れた。境内から金色の光の川が出来、絵巻に流れて行く様だった。光は絵巻に当たると垂直に曲がり、天を目指して登って行く。化野念仏寺に眠る霊や思いが浄化されているのだ。光の噴流は伊達や明美にも視えるようで「何だ? 何だ?」と騒いでいる。明美に至っては僕の肩にしがみついて来た。と、立ち上る光の柱の向こうから何かが近づいて来た。最初は黒い点に見えたそれは十五分程で向こうへ繋がる夕暮れの道となった。六角堂の姿は道に押し消され半透明になっている。左下座に座っていた円覚氏は道の脇で座っている。


 肩を抱き合ってその光景を見ていた羽生三悟と真魚さんに、鈴ちゃんが声をかけた。


「これがあなた達の道よ。行きなさい」


 二人は永久の別れとばかりに鈴ちゃんの手を取り、泣きながら礼を述べる。鈴ちゃんはにべもなかった。


「うっとうしいから、やめて。時間が無いのよ。早く行きなさい」


 二人は地蔵菩薩真言が響く中、恐る恐る道へと進み、やがてその姿は闇に飲まれた。

 鈴ちゃんは懸命に真言を唱えている円覚氏の肩を思い切り叩いて唱和を止めさせた。


「何をしてるの? あなたも戻りなさい。帰れなくなるわよ」


「―――し、しかし、師匠のお許しが出ていない」


「現実の師匠ではないでしょ! わたしが代わって許すから、早く戻りなさい。わたし達が戻る時間が無くなるわ!」


 円覚氏は渋々立ち上がった。道を行こうとして振り返る。


「鈴香殿。そなたは―――」


「さっさっと行けぇぇぇ!」


 鈴ちゃんは言葉の続きを許さず、円覚氏の尻を思い切り蹴り上げた。その瞬間、道は消え、真言を唱える六角堂の姿がはっきりと露わになる。六角堂は瞑目したまま五鈷鈴を取り、リーンと鳴らすと、真言を唱えるのを止めた。


 化野念仏寺の境内を静寂が支配する。圧力のある静寂だ。伊達も明美も何も言わない。

 六角堂は音も無く立ち上がると、絵巻に一礼して、本堂から下りて来た。立ち尽くす僕らに目礼するとすたすたと歩みを進める。鈴ちゃんが「さぁ、行くわよ」と号令を掛けたので、僕達はカルガモの親子よろしく、六角堂の後を歩く。六角堂は墓地の敷地を回る様に歩くと思ったら、角を回って暫く行った所で唐突に止まった。回れ左をして路地を外れて奥へ行くと思ったら、ひっそりとした神社があった。小さいが立派な社で時代を感じさせた。これほどの神社が気配を殺していることに違和感を覚えた。六角堂は鳥居の二本の柱に和蝋燭を立てると、すっと身を退いた。身を退くときに僕の耳元で囁いた。


「ご同輩。ここに道を開くのは君の役目だ」


 不本意だった。こんな人外の輩に朋輩呼ばわれする覚えが無い。何よりするべきことが分からない。憮然としていると、「浩ちゃん。早くして」と鈴ちゃんに急かされた。鈴ちゃんの様子は余裕が無く、明らかに焦れていた。やむを得ない。兎に角、神社の敷地に入るのだからと、二拍二礼して顔を上げて驚いた。神社が入れ替わったのかと思った。先程まで夕闇に閉ざされていた神社が、今は明るい夕日を受けて浮かび上がっている。同じ神社だが、明らかに別物だ。


 光景の変化に僕や伊達、明美が驚いて立ち尽くしていると、鈴ちゃんが後から僕達の腰を押して、神社の境内に押し入れようとする。


「入って。兎に角、早く入って」


 僕達は意外に力のある鈴ちゃんに押されて、神社の境内になだれ込む。「六角堂さん、いずれまた」と早口で挨拶する鈴ちゃんの台詞が耳に残った。



 光景が一転した。カメラがパンする感覚に似ていた。僕達は間もなく夕方になる神社の境内にいた。境内は気配を殺した静寂な空気がある。が、鳥居の向こうの参道は人の渦だった。人々の気配と服装から僕達は元の世界に戻ったと悟った。


「あ~ 焦った。もう少し向こうに居たらやばかったわね」


 僕達を力尽くで神社に押し込んだ鈴ちゃんは、肩で息をしながら、そう安堵の声を漏らした。


「やばかったのかよ!?」


 思わず突っ込みを入れてしまう。伊達が恐る恐る尋ねる。


「あの~ 鈴ちゃん。どうやばかったの?」


「戻れなくなったでしょうね、あそこは人が居て良い世界じゃなかったから」


 鈴ちゃんは事も無げに言う。伊達は癖癖とした顔になった。


「あの二人は大丈夫かな?」


 明美が遠い目をして言う。


「大丈夫よ!」


 鈴ちゃんが即答する。


「わたしが請け負うわ。もう、障害も無いんだもん。二人は祝福されて一緒になるわ」


「そっか。鈴が言うのなら安心だね。次は―――鈴の番だね」


「とりあえず。今晩結ばれるわ」


 明美のねっとりとした笑みに朗らかにそう答えると、鈴ちゃんは僕の腕にしがみつく。

 あんまりな台詞に咳き込みながら、僕は尋ねた。


「なぁ、鈴ちゃん。君は全ての世界線の僕らを結びつけるつもりかい?」


「敵うものなら」


「その為なら、手段を問わず障害を排除するのかい?」


「ええ。そうよ。軽蔑する?」


「―――いや。嬉しく思うよ」


 内心、怖いものを覚えないでもなかったが、僕はそう答えた。喉の奥で笑いながら、鈴ちゃんはしがみつく力を強くする。


 僕達が境内で騒いでいるので、参拝客も神社に気付き始めた。「あら? こんなところに神社がある」異口同音にそう呟いて、神社にも参拝の列が出来る。ところてん式に僕達は押し出され、帰路の列に並ぶ。


「ああ。お腹空いたぁ~ あ、浩ちゃん。お弁当美味しかった?」


「旨かったよ」と答えると鈴ちゃんは小さくガッツポーズを取り、明美とハイタッチをする。


「鈴ちゃんは昼抜きだもんな。どこか食べれる店に入ろう」


 鈴ちゃんは嬉しげに大きく「うんっ!」と頷くと、拳を天に掲げて叫んだ。


「食べるぞー! 遊ぶぞー!」


 徹夜明けを思わすテンションの高さだった。その姿に、鈴ちゃんを除く三人は苦笑する。長い夜になりそうだと僕は思った。

(完)

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櫻の宴 桐生 慎 @hakubi7

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