集結 その3
同時刻、ジャンプスポーツ新聞社本社ビル―年間150万部の売り上げをここ数年維持し続ける大手のスポーツ新聞社である―その一角のフロアが、慌ただしく動いていた。
「…は?湯殿ブラザーズが穂木国際空港にいるって?今から特急に乗る?ガセじゃねえだろうな?」
そのフロアで大声を張り上げているのは玉置正弘である。元々は芸能部の記者だったが、陸上部を経由して、現在ほぼ窓際に近い自転車部で記者を務めている。
玉置が思わず声を上げたこともあり、他部署の記者もなんだなんだとばかりに玉置へ冷ややかな視線を送っていた。
「玉置、大声出さんでもらえるか?」
同新聞社の花形部署の一つ、競馬部の部長を務める田口正敏が玉置を諫めに来た。
「スーパースターが凱旋帰国してきたのに黙ってられるかよ、これは自転車部の命運を分けそうな瞬間なんだ」
「命運?そんな仰々しいものなのかよ?」
「仰々しいに決まってる、裏トップぐらいなら飾れるぐらいの規模になるさ」
「そんな大言壮語叩くぐらいなら角中に迎えに行くぐらいの気概見せろよ」
「角中…ってことはアドベントで動きがあるってことか…一家三代のチーム体制か、これはいい記事になるぞ」
本社を出た玉置は最寄りの駅から列車に乗った。各駅に停まる列車だということはわかっていた。でも何かの間違いで角中までノンストップにならないかなと彼は心の底から思っていた。
一方、肝心のブラザーズはというと―
「さすが日本だ、ロードレースに何の興味もないんだな」
潤が苦笑交じりに言う。
「自転車のある生活を推進しているわりには自転車は邪魔だの風潮が残ってるからなぁ…見てみろ、あのママチャリでさえ追い越された車の若い兄ちゃんからうざったがられていたぜ」
「自転車って立派な車両扱いのはずなんだがな…刑法じゃいっちょ前に車扱いされて罪人扱いだ、肩身が狭い」
孝太郎が言う。
「じっちゃんがロード日本選手権を勝ったときにはここだけでも大いに沸いたんじゃなかったのかよ」
「残念ながらその興奮は遠い過去へ押しやったみたいだがな」
まもなく角中です、という車内のアナウンスがあった。グリーン車でほんのひと時のVIP待遇を楽しんでいた二人が、運命的な出会いを果たすまで3分を切っていた。
サドルとボトルとジャージと 須磨恵一 @k1suma
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