集結 その2
湯殿孝宏と湯殿潤の兄弟が揃って二原に帰郷してきたのは記者会見の2日前のことだった。
「お前とそろって自転車乗るのって何年ぶりだ?」
「大学の時以来だろう。卒業したら兄貴はすぐにヨーロッパに渡って、俺はアメリカにいって顔を突き合わせるのはスタート前とゴールあとぐらいしかなかったんだから」
穂木国際空港の荷物受取所でキャリーバッグを受け取りながら潤が孝宏に言った。
「じいちゃんも突拍子もないこと考え付くよなー、いきなりNCIワールドツアーに参戦だ、なんてよう考え付いたわ」
自分のボストンバッグをカートに載せながら孝宏は続けた。
「エース格として使う、とは言われたけどねぇ…NCIだって十分な猛者ぞろいだ、一筋縄ではいかねえよ」
到着ロビーへ出た彼らは、一番近くのエレベータで地下に降りた。空港を発着する特急にその足で乗り込むと、彼らの実家のある駅までひと眠りするのであった。
「…そうか、湯殿ブラザーズが帰ってきたか」
同時刻、某所-NCIワールドツアーメンバーであるPKBサイクリングチームのヘッドコーチ、張琿堂(チャン・グンドウ)は感慨深そうにつぶやいた。
「これで張り合いが出てくる、ってもんですね。しかし、私のところの2枚看板でその鼻をへし折って差し上げますよ」
PKBは張がGM兼ヘッドコーチに就任して以降、NCIの他のチームに追随を許さぬ圧倒的な強さを見せ、盟主として君臨してきた。
その張が憧れていたのは、湯殿孝光その人であり、そのライバルであったのが、彼の息子である湯殿孝昌であった。
(現役では散々苦汁をなめされましたからね…孝昌君、君にはもう負けられないのですよ)
つまりすでに戦いは、この時から始まっていたのである。
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