その10 たけしの挑戦状
先日、近所の書店に行ったら『超クソゲー』が復刊されていた。ああ、昔買ったなあ。別にそこまでクソゲーだなんて思うゲームは個人的にはないけれど、ファミコン系以外の興味深いゲームを教えてくれた本だった。ま、復刊したやつは買ってませんが。
『超クソゲー』にも大きく取り扱われていた『たけしの挑戦状』(1986/12/10 タイトー)もまた、小学生当時の隣人Yの所持ゲームソフトのひとつであった。彼は小学生当時、なぜこれを持っていたのか。やはり親父さんがパチンコで取ってきたのだろうか。思えば彼の家のゲームには定番・名作的なものは少なく、『マグマックス』『スクーン』『アルテリオス』『ロットロット』『クルクルランド』『いっき』『ルナーボール』『コスモジェネシス』『長靴をはいた猫 世界一周80日大冒険』といった妙なラインナップだった。自分が買うゲームと被らないぶん楽しくはあったのだが、今考えると謎だ。
旧『超クソゲー』によれば『たけしの挑戦状』はビートたけしが原案を練り、しかもタレントものとしてはかなり踏み込んでシナリオに介入していたとされる。大雑把に書けば、「普通のサラリーマンが宝の地図を手に入れ、会社を辞めて離婚をして、宝探しに出かける」というストーリーである。普通の男が何かしでかすという点では、ハッピーエンドではないが内田裕也の映画『水のないプール』(1982)や『十階のモスキート』(1983)等を彷彿とさせる。あ、私はたけしさんの映画はほとんど観てませんすいません。
たけし当人はパッケージと宣伝およびOP・EDの顔以外出てこない、そして広告ではクリア難度をやたらと煽る、というタレントものとしては斬新なアプローチある。私は何の説明もされずこのゲームを借りてやってみた時、「え、コレどのへんがビートたけしなんだろう……」と思っていた。また一方よく考えれば、当時の私はビートたけしを実はあまりよく知らなかった。以前書いた通り、私はドリフ派(より以前は欽ちゃん派、中学以降は吉本派)だったのだ。あれだけ売れていたのに、たけしの出る番組は「世界まるごとHOWマッチ」「風雲!たけし城」くらいしか観ていなかった。漫才コンビであったというのも後年になって知った。漫才ブームは物心つく頃に惜しくも過ぎていたのだ。
さて、肝心のゲーム内容について少し触れておこう。本作は横スクロールのアクションで、アドベンチャーゲーム的な会話要素もある。やたらジャンプ力のあるサラリーマンが主人公キャラで、街の人を誰かれ構わず攻撃することもできる。最初は殴るだけだが、武器を変更することも可能だ。キャラはライフ制で、自キャラのライフがなくなるとしばらくジタバタしたあとあの葬式画面へ飛んでゲームオーバー(テーレーレー)。ただしパスワードも隠しコンティニューもあるのでそこまで鬼畜ではない。ただ、やるべきこと(フラグ立て)がわかりづらい。
普通のアクションアドベンチャーゲームならば、サラリーマンが宝探しに出たところからゲームが始まることだろう。しかしこの作品ではまず会社に所属している状態からスタートし、地図の入手や退職・離婚・その他条件のクリアをやたら綿密に行うのが妙にリアルだ。逆に、そういう要素を描こうとしているゲームなのだということに気づけば謎解きの難度はいくらか下がるのだが、いかんせんゲーム内の情報が少なすぎた。それにしてもこれらの部分をゲームとして扱うことができた作品は1986年当時少なかったのではないかと思う。
背景グラフィックで特筆すべきは、前半部分で当時の日本の町並みを画面高さいっぱいに表現していること。飲み屋街、商店街、ボロ一軒家の自宅とすぐ先の豪邸など、東京23区の商店街をすべて歩いた私の目から見てもよく描けている。一枚絵のアドベンチャーゲーム以外で日本の現代風景がしっかり描かれるのは珍しい。街を歩いているようなこうした雰囲気がじつに私好みであり、このゲームをあまり悪く思えない要因にもなっている。一歩間違えれば時代を10歩くらい先取りした『Salaryman Life Simulator』になり得たのではないか。いまSteamでネタ的に日本の会社員生活シミュレーターとか出したら、けっこう売れるんじゃないかなあ。
よく言われる通り、クリアを目指すとクソゲーなのだが、それ以外に目を向けると実は先進的な作品である。フライデー事件があったにも関わらず発売してくれたことを感謝したい。なお、本作の箱説付き版は後年自分で入手した。
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