その7 プロ野球ファミリースタジアム
私がプロ野球を見始めたのは1987年、7歳から8歳の頃だった。当初1年だけ巨人ファンで、あとはずっと球団解散まで近鉄ファンである。名古屋人のくせに中日ファン歴はゼロ。当時の近鉄はナゴヤ球場で年3カード(1試合は長良川球場なので)8試合やっていたし、叔母の一家が奈良に住んでいたため近鉄バファローズ本拠地の藤井寺にも年2試合ほど遠征していた。あ、藤井寺球場ってもう通じないかもしれないな……。ドーム球場が増えていく中でも、私にとってはナゴヤ球場も藤井寺球場も好きな野球場だった。客も少なかったしな!
さて、実は野球のルールを覚えたのはファミコンのおかげである。母は昔ソフトボールをやっていたらしいのだが、私に細かい野球ルールを教えることはしなかった。実際、野球のルールというのは突っ込んでいけば複雑だ。自分がプレイするわけでないのなら7歳くらいではちょっと覚えづらいかもしれない。今でもボークとかボールインプレイとかちょっと説明する自信がないけど。
そんな時期に購入したのが『プロ野球ファミリースタジアム』(1986/12/10 ナムコ)・通称ファミスタである。近鉄はレールウェイズに合併されていて存在しないが、選手は4文字(濁点は1文字)までなら実名な上に各自能力値つきであり、チームカラー以外全員同じであった任天堂の『ベースボール』と違って感情移入しやすかった。これで選手名も覚えられ、野球が身近になったのは言うまでもない。
ルールもなんとなく本作をやっているうちに覚えた。テレビ中継は選手の一挙手一投足が映し出されるため、どの動作が野球としてのルールに則っているのかが子供にはわかりづらいが、ゲームだと余計な行動はできないかカットされるため動きの意味が理解しやすい。たとえばネクストバッターズサークルでの準備、あるいはサインの交換なんていうのは、それが何なのかよくわからないのである。そこを大胆にカットして、野球ってこういうものですよ、と優しく言ってくれたのがファミスタだったのだ。
最初は対戦はせずに一人でプレイしていたが、COMに全然勝てなかった。2ヶ月くらいは勝てなかったかもしれないが、私にしては珍しくわりと飽きずにやり続けた。ある日、突然やってきた初勝利は10-0で1回コールドだった。単にパターン入ったという奴かもしれないが、つまりはパターンがわかるまではやったということだ。
ファミスタは投球術のゲームだと思う。プレート利き手側に立って対角線に投げるのが基本であった。COM打者の位置がベース寄りになったら逆コースに一旦外す。そしてまた対角線。これでスタミナが落ちてきてもそこそこ三振や凡打が取れる。人間に対してはこれを速めの球でやり、かつボックスでの立ち位置を考慮するとなお良い。打者側から見れば、ボックスの上のほうに立って変化する前に叩くほうがいくらか有利なように思う。
88年初頭に近鉄ファンになった私だが、その前から打線が強いこともあってレールウェイズを主に使っていた。初代ファミスタで近鉄の選手は盗塁王大石・麻薬王デービス・イケメン村上・コンニャク梨田・控えの金村、そして知られざる抑え投手石本がいた。石本、渋いよね。よくこのメンバーに入ったものだ。私のプレイスタイルは、5番蓑田に石嶺をいきなり代打に送り、守備位置など関係ないので8番梨田にも代打門田である(ちなみに門田のホームランは生で見たことがある)。投手は山田。アンダースローだと対角線に投げた時にほぼ空振りが取れるのだ。
ファミスタは選手システム以外も優秀で、たとえば打球や送球が比較的自然な軌道で飛ぶし、投球のスピードも以降に発売された野球ゲームに比べてそこそこ速い。80年代末あたりから出始めたしょぼい野球ゲームは、「それはないだろう」という打球の動き、あまりにも弱い肩などがどうしても目立つのである。その点、最初から高いクオリティを実現したファミスタは野球ゲームの金字塔と言える、不朽の名作だ。私は今でも楽しくプレイできる。もちろん野球好きの友人との間では接待ゲームとしても活躍した。だいたい私が勝っていたが……。
翌年の『プロ野球ファミリースタジアム'87年度版』(1987/12/22 ナムコ)も定価が安いので買ってみたものの、選手データが更新されたのに近鉄は相変わらず存在せず、また打者がバッターボックスの上半分に立てず少し不満が残った。メジャーリーガーズが出てきたせいか投高打低の変更だったが、そもそも投球術のゲームだと思っていたから私にとってはわざわざ'87でやる意味が薄かった。その後はファミコンにビッグタイトルが増え、ファミスタシリーズの新作を積極的に買うこともなくなってしまった。
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