4.PUB ROCK
「いたぞ、あれだ!」
ライフルにライトを括り付けた男が二人飛び出して来て、白光の下にミッシェルを照らし出す。しかしミッシェルは口元を少し歪めただけ、次々に男達が持つライフルを撃ち抜き壊してしまった。ライフルを取り落とした男達が痛みに呻いている間に、ミッシェルは一足飛びで男達へと突っ込み、丸太のような腕で荒々しく男の顔面を殴りつける。金槌のような一撃を見舞われた男達は、鼻から口から血をだらだら流して倒れ込んだ。
「張り合いねえな、お前らの不満ってのはこの程度のモンか」
ミッシェルは退屈そうに呟くと、拳銃をベストの内に押し込みさらに走った。赤外線サングラスを通して見えるモノクロの景色を頼りに、工場の端に積もる瓦礫の山を駆け登る。大柄な体格をものともせず、廃工場に張り巡らされた鉄骨へ飛び移る。そのまま彼は、天井近くを伝って廃工場の奥深くへと入り込んでいった。
「こっちで音がしたぞ! 走れ!」
乱暴に足音鳴らしながら、テロリスト達は銃を構え彼の足下を通り過ぎていく。その足音が、ミッシェルの這い回る物音をすっかり掻き消してしまっていた。
「全く、防犯カメラの方がまだマシだな」
拳銃の感触をベストの内に確かめながら、ミッシェルはふわりと鉄骨の上から飛び降り、錆びた機材の上に着地する。さらに跳んで機材の影に身を潜め、大声で周囲に指示を出し続けている一人の男へと物陰から近づいていった。
「おい! 近くで物音がしてるぞ! 戻って来い!」
旧式の無線を口元に押し当てるその顔は、ランタンのうすぼんやりとした輝きを受けて恐怖に歪む情けない顔を晒していた。しかし、サトシに与えられた情報によれば、彼こそが『アポカリプス』を纏める首領、スターリーに違いなかった。
ミッシェルはもう一歩物陰を進むと、拳銃を引き抜いて一気に迫る。
「よう、お前が『アポカリプス』のリーダーだな?」
「ひぇっ! だ、誰か――」
大口開けて悲鳴を上げたスターリーの口に、ミッシェルは血の付いた銃口を押し込む。痙攣するように震えて固まったスターリーから無線を奪い取り、唾を飛ばしながら叫んだ。
「おい、『アポカリプス』の活動は今日でしまいだ! 俺はサツじゃねえからお前ら捕まえはしねえよ。せいぜい尻尾掴まれないように逃げて、底辺生活を満喫しろ!」
乱暴に無線を投げ捨て、ミッシェルはスターリーの口から拳銃を引き抜き今度は心臓に押し当てる。
「教えてもらおうか。お前達はここで爆弾を作っていた、そうだな」
「ひ、ひい……」
「そうだな?」
防弾チョッキ越しに、ミッシェルはスターリーの胸へとマグナム銃を押し付ける。この至近距離では形無しだ。スターリーは手足をがくがく震わせながら、何度も何度も頷いた。
「はい! そうです! 爆弾造っていました!」
「その爆弾でサウスターミナル周辺を吹き飛ばすつもりだったんだってな。お前の仲間から聞いたぞ」
「そうですそうです。ごめんなさい、ごめんなさい」
ミッシェルは一瞬銃口をスターリーから逸らし、天井に向かって明後日の方向に向かって発砲した。殴られた犬のように叫んで、スターリーの仲間が倒れ込む。肩からは脈々と血が溢れていた。ミッシェルは今度こそ蜘蛛の子を散らすようにテロリスト達が逃げていく様を見送り、改めてスターリーの喉元に銃口を突き付ける。
「ごめんで済むなら警察は要らねえってな。生き延びたかったら素直に言え。結局お前ら、その爆弾を誰かに売ったんだってな」
「はい、はい! ものすごい金で買ってくれたので全て引き渡してしまい、再び爆弾を作っている最中でした!」
「すごく興味があるんだが? その買い付けに来た奴の事が。オジサンにも教えてくれないもんかな」
ミッシェルは銃口をスターリーに食い込むほど押し付ける。
「あ、ああ、ああ」
真っ青になったスターリーは思い出そうとするように必死に顔を歪ませるが、その顔は余計に蒼白となっていくばかりだった。
「わからない。思い出せない……何にも!」
「何だと? お前、どんな痛い目になるか知らねえぞ」
「や、やめてください! 本当に思い出せないんです! サングラスして、帽子被って……でもそれだけなんです。何もわかりません。どんな体格かも、顔立ちかも、説明できないんです」
スターリーは泡を吹いて白目剥き、前後不覚のまま必死にやめてくれと繰り返し続ける。これ以上は無駄と悟り、ミッシェルはスターリーの襟元を掴んで捻り上げた。
「いいだろう、良く分かった。これ以上の言い訳はサツに向かってしてもらうぞ。いいな」
スターリーはもう一言も返さない。もごもごと言葉を続けるだけ、すっかりミッシェルの為すがままだった。ズボンの股座を汚らしく濡らし、虚ろな顔をしたまま、彼は廃工場の錆び付いた床を引きずられる。
「何も、してない……あいつが、全部、やるって言った……」
うわごとのようにスターリーは繰り返す。ミッシェルはそんな男を一瞥する。
暗闇の中、足音とスターリーの呻き声だけが響いている。昔は似たようなことがあっても何も思いはしなかったが、今となっては何やら惨たらしい事をしたような気分にさせられるのだった。
友情のため、平穏無事な生活のためとはいえ、このテロリストなりの渇望を否定してしまった。そんな気分にさせられるのだった。
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