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「さてと」時間にすれば一時間と経っていないのに、相対する面々のキャラクタの濃さに辟易したように、疲れた素振りを隠さず御子野瀬さんは言った。「あと二人か……」
「長いような、短いような」
率直な感想を漏らすと彼は低く笑った。
「ある意味、心臓が持たなそうだな」
「ええ」笑みを返してから、「でもみんな、確固たる自分というものを持っていて、羨ましいです」
「羨ましい?」御子野瀬さんは純粋に驚いたようだった。「どうして?」
「僕は、普通ですから」曖昧に笑う。「どこにでもいるありふれた人間の一人に過ぎないんです。だからちょっと、こうやって選別をするなんて、荷が重いところはありますね。優劣をつけるわけですから」
僕を見て、ちょっと話そうか、と言って彼は煙草を吸い始めた。
「長嶺くんは、自分、というものをなんだと定めてる?」
「どういうことですか?」
「君にとって、君は何者なんだ?」
小難しい哲学の話だろうか。
「わかりません」
「それでいいんだよ」長く煙を吐く。「みんな、自分が何者であるかなんてわからないんだ。他人は自分を映す鏡という言葉があるね。その本来的な意味に沿っているかはわからないが、俺はね、自分というのは、今君がしているように、他人が決めるものだと思ってる。そういう意味の言葉なんだと解釈してる。生きている以上評価というしがらみからはどうしたって抜けられないものなんだよ。なら、許容するしかない。俺は、君のことを、いいやつだなあとは思ってるよ。なら長嶺くんは、少なからずいいやつなんだと、そういうレベルの認識でいいんだ。普通なんてことはない。いいやつだよ。君の選別には誰も異論を挟まないさ」
言われながら、僕は、御子野瀬さんは大人なんだな、と思っていた。
この場において、手探りだといいつつ、彼にはぶれない芯が存在している。それだけははっきりわかった。
「ありがとうございます」
その返答が正しいかどうか、彼は笑って、煙草を揉み消した。
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