21
「あたし七瀬ナナ」
健康的とはまた違う意味での小麦色の肌を惜しげもなく露出したその子は、足を放り出して座り、両手をポケットに突っ込んでいた。これはまた、典型的なタイプが出てきたものだ。
彼女の一声で、御子野瀬さんは慌ててストップウォッチのカウントを開始させる。
「長嶺零斗です」
「ナガミネ〜」
恐らく何の意味もなく繰り返される。
「七瀬ナナ」の項目にまず記入したのは「ギャル」の文字である。
と言ってもベタベタのメイクというわけでもなく、髪も金には近いがぎりぎり茶色の範囲で、ピアスは両耳にひとつずつだった。何を基準にしたかは自分でも良く分からないが、マシな部類なんだろうなと考える。
投げ出されている足は細く、スカートはともすれば下着が見えてしまいそうな短さだ。
そちらに視線が行ったのがわかったのか、スカートの裾をちらりと持って、
「ナガミネ、むっつり?」
と聞いてカラカラ笑うので、御子野瀬さんと二人、どぎまぎする。
男は露骨なエロには弱いものだ。本能本能。いや、煩悩か。
「むっつりかと言われると興味はありますね」
「敬語とかいいよ、めんどくさいじゃん」
「あ、うん」それまで面接官然としていたため、呆気にとられた。「年同じだもんね」
考えてみれば同い年の人間が同い年の人間を精査するというのも変な話だ。けど、社会には年下に合否を下される人間もいるわけで、やるせない気持ちになる。
ともあれ眼前のナナちゃんは、御子野瀬さんの言う純粋な下心を刺激するには十分であった。
「別にパンツくらい見せてもいいよ。布だしねこんなの。これで興奮して合格くれるなら安いもんだ」言ってから、御子野瀬さんの方を見た。「もちろん見せないけど」
残念!
などと思っているのを顔に出してはいけない。
そりゃ、相手は女の子で、恥じらいがなかろうと、そんなもの簡単にやってのけてはいけないのだ。
「ナナちゃんは」と言いかけると、
「ナナでいいよ」訂正される。
「ナナは」呼び捨てが慣れず、ぎこちないのが自分でわかる。「どうしてそういう格好を?」
「うわ」ナナは笑う。「全否定?」
「いや違うよ」両手を振って否定する。「興味だよ」
「理由なんかないよ」あっけらかんと言う。「この方が可愛いって思ったからしてるだけ。男の目なんか気にしてないし、自己満足だな。男は何かと自分のためにしてるんだと思いたがるけど」
「ふうん」
「大体、きっちり制服を着て、真っ黒の髪の毛で、物腰柔らかで丁寧で優しそうな雰囲気出してりゃ真面目ってわけでもないじゃん。あたしは、そういうやつこそ怖いと思うけどね」
視線が上に行った。明確に誰かを意識しての発言だったのだろうか。
「まあ、一理あるかもね」
「ナガミネ話わかるぅ〜」
微笑み、指をさされた。
「取り繕ったって仕方ないとは思うよ」
「あたしはあたしのしたいことをする。あたしはそれで満足だし、評価するのは他人だから。低い評価をするやつとは関わらなければいい話じゃん?」
そうかもしれない、と思った。
「あと二分」
御子野瀬さんは厳然と言い切る。
「短いねー五分って。ナガミネあたしの事どう思った?」
「うーん」考える。「実直というか、ありのままで羨ましいなと思うよ」
「やった、結構いい感じじゃん!」
「どうかな」思わず笑う。「もし、僕と結婚したら、どうする?」
「さあね。あたしは変わらないよ。ナガミネがあたしを思うとおりに変えたらいいんだよ、できるならね」不敵に言い放った。「ナガミネのことを好きで好きでたまらなくなったら、あたしはナガミネの好みの人間に変わると思うよ。結婚は、私とナガミネの勝負だから」
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