20
「疲れましたね」
台風一過に安穏と言葉を漏らす。
「そうだね。ちょっと特殊らしい」
「ちょっと、ね」思わず笑ってしまった。そして思いついたままに、「御子野瀬さんの娘さんってどんな感じの方なんですか?」
「普通だよ」
短く返される。
「今までの子の中でこの子に近い、というような子はいました?」
少し悩んだ様子。
「強いていうならにぃなちゃんかね。ああいう、緊張するけどやるときはやる、みたいなタイプかな。カミさんに似てんだ。俺はやるときがいつかわからないままゲームオーバーを迎えてるタイプだからね」
「奥さんはどんな方なんですか?」
「外面はいいよ」笑う。「内弁慶って感じ」
「やはり大恋愛の末に……」
「君もなかなか挫けないやつだな」呆れているというよりは親しみを込めてくれている気がした。「まあそうだよ。俺が惚れたんだ。昔はそれが当たり前だったんだよ。大恋愛なんて仰々しいもんばかりじゃなくて、もっとインスタントなものも多かったけどね」
「へー」
「その時その時、恋愛の形なんて変わるものだからな。なんとも言えないよ。付き合う前に性交に及ぶ奴らも当然いたし、それで付き合おうが付き合わまいが誰も気にしない世代だった。もっと気楽なもんだったよ」
「へへー」
「ま、これ以上はまた今度話してあげるよ。俺の経験が参考になるとは思わないけどな、君との出会いも何かの縁には違いない。折れてあげよう」
「さすがですよ御子野瀬さん」
「はいはい」
結婚、を頭に入れているからあれかもしれないが、なんとかかんとかムミュールも、一緒に暮らせばある意味毎日飽きさせないでくれる人には違いないだろうなと思う。まあ、どうしてかそういうちょっとネジが緩んでいるのか緩めているのかしている人間は、顔が可愛い場合もあって、ムミちゃんはそのタイプに属していると言って問題ない程度に整った顔ではあったわけで。僕も一介の男として、表面上、つまり容姿に関して惹かれる部分があるにはあった。判断に迷うところだ。
頭の中でどんなものであれ設定を考え付いてとにかくそれになり切れるのだから、ムミちゃんの、いやムミュールの頭の中に火星の司令官から「良き妻となるのだ」とかなんとかと命令を出してくれる可能性がないではない。
五分というのは挨拶とちょっとした会話で終わる。本当に印象だけの選別で、すなわち、もっと相手を知りたいと思えるかは、大事なところだろう。
むむ。ムミュール。
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