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「地球名は六平ムミ、本名はアコルノース=ドンファッス・ムミュール。年は十二億三千まで数えたけどそこからは覚えてないわ。火星からやってきたから地球人には興味があるの。あなたのこと、実験台にしてもいいかしら!」

 え、えー。

 視線が合わないまま一方的に言葉を受ける。

「異星人間における交配について、という実験テーマだから、さぞ不満はないでしょうね!」

 おうっふ。

 言葉を挟む間もなく語られる彼女の来歴は次のようなものだった。

 十八年前地球に飛来したムミちゃんは地球人として両親の間で育てられたがその過酷な環境の中で自分が地球探査のために来ているということを思い出した。クラスメイトの他の女の子たちや教師陣と会話をし地球について報告書をまとめている最中で、脳に直接響いた火星の司令官からの「長嶺零斗と結婚し子どもを作れ」という命令を順守するつもりだという。だから僕個人がどうこうというより惑星規模で僕とムミちゃんは結婚すべきで、意思を問わず自分が合格する手筈になっていると豪語した。

 残念ながら僕の一般的な知性では彼女の言っていることをせいぜい一割程度しか理解できず、また、隣の御子野瀬さんも書類と彼女を見比べただただ困惑しているようだった。

 そりゃ、そうなる。

「あの」

 説明を続けていたムミちゃんは不服そうにこちらを見た。

「なーにーかー」

「設定?」

「設定?」繰り返される。「バカにしてるの?」

「いや、馬鹿には……」

「ぷーん!」

 あ、扱いづらい……。

「最終的には結婚することになるかもしれないわけだけど……」

「これは確定事項よ!」

「あ、はあ」ご丁寧にどうも。「そうなったとして、その設定は引き継ぐわけですか?」

「設定じゃない!」ご立腹の様子。「私はアルコノール=ドンファッス・ムミュールよ!」

 おいおいさっきと少し違うぞ。

 呆れを通り越してなんだか哀れになってきた。

「オーケー、なんでもないです」

「わかればいいのよ!」

 わずかこれだけの時間でこうまで疲れさせるのもある意味才能に違いなかった。

「あと二分だけど」

 この子には、別にいっか。

 交配についての実験に過ぎないわ! とかなんとか言われるのが目に見える。

「えーっと、そうですね。なんかあります?」

「私は何もないわ。あなたのことは全部知ってるからね!」

「さいですか」

 じゃあ話すことないけど!

 ということで残りの二分も彼女の来歴の続きを聞かされ、時間になっても名残惜しそうに「あのねあのね」と話が終わらなかったが、そこは御子野瀬さんの手腕でねじ伏せた。

 嵐の去った後のような安堵感から、僕たちはため息をついた。

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