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 次に訪れた女の子、ちょうど折り返しに当たる子は、お下げ頭に丸メガネ、スカートはすねの辺りまで下ろしている。地味、というか、垢抜けない人だなあ、というのが第一印象である。

 歩くと、ぽてぽてと音が鳴りそうな感じ。

 御子野瀬さんが資料を読み、

「ゴトウいつみさんね」

 言うので、「後藤いつみ」と項目を作ったが、それを見て、「五灯だよ」と書き直された。

「珍しいですね」

 どちらにともなく言うと、

「そうなんだすぅ〜、なっかなが見たことねぇけろ」

 といつみちゃんが言った。

 ……なんだって?

「あ、そうなんですね」

「よし、そいじゃあ始めようか」

「おねげぇします〜」

 ふぇ。

 な、なんですって?

 構わずにストップウォッチの音が鳴る。

「よ、よろしくどうぞ」

「五灯いつみと言いますぅ」

「長嶺零斗です」

「長嶺さんはぁ、どっこの出身だべ〜?」

「えっと、都内ですね」

「うらやますぃですねぇ、わだし都会ってのはやっぱりちょっと苦手ですァ」

 う……。

 は、話しづらい!

「五灯さんはどちらの?」

「関東は関東ですけんど、田舎ですァ」

 でしょうね!

 逆に関東でこんな訛りがあるのはどの辺なんだろうか。そんなどうでもいいことも考えてしまう。

 そんなことを考えていたからか、

「すんません……、標準語を覚えようとはすたんですけんど、どぉもうまぁく覚えられんで」

「あ、いや」顔に出てしまっていたか、と焦る。「とんでもない……」

「みんなは気にしないでくれるんですけんど、こりゃあ試験ですから、長嶺さんに合わせにゃあとかんばってはみたんだす。だども昔っからの馴染みってなぁなかなか抜けねぇもんだすね」

「それはそれで、色だと思いますよ」

「優しいですなァ」いつみちゃんは少し寂しそうだった。「このガッコに来る前は、やっぱりこりゃあ変だっていじめられとったんだす。なんだかんだと言っても、言葉の壁ってやつぁありますからね。試験も、受けるつもりァなかったんだす。でも父ちゃんも母ちゃんも受けてみろ〜って背中押してくれたんだす。みんなも、がんばろうねって。だから長嶺さんが優しい方でよかったですァ。受けられただけで満足するのァよくないとわかってますけんど、受けてよかったなあって今は思ってます」

 それぞれの人物には当然それぞれの背景がある。御子野瀬さんの言いぶりではないが、それを慮ることは大事なことだ。

「そうだったんですね。実家は何を?」

「何代か前までは豚を飼っとったらしいんだすが、今はお米を作っとります。でもまあ最近はどうも」

「そうなんですか?」

「だからお婿さんさ貰って安定してぇって両親の気持ちはわからんではないんだす」そう言ってからいつみちゃんは両手を振り、「もちろんわだしは純粋な気持ちで長嶺さんを見とります。かっこいいお方だし、その、結婚してくれるんならこりゃあとんでもねぇことだと思います」

 思わず笑みがこぼれた。

 なんだかただただ素直な人だなと思う。

「あと二分」

 御子野瀬さんが言い、僕は例の質問を繰り出した。

「そうだすなあ」いつみちゃんは悩みながら、「おいしいお米が毎年取れるわけではねぇですけろ、おいしいお米が作れた時に一緒に喜べるような、そんな間柄でありてぇなと思ってます」

 人間関係において大事なのは誠意だ。

 それが伝わるかどうかが重要なのだ。

 今、僕はしっかりと受け取った。

「まあ未来のことは自分で決めることじゃねぇですから、そうなれたらありがてぇなってことですて、おこがましい話でさァ」

「いやいや、こちらから出した質問ですから、おこがましいも何もなくその前提で考えてもらえればなんでもいいんですよ」

「優しい方ですなぁ」

 言って、笑って、時間が過ぎた。

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